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見たくない顔【激辛の鏡】

 朝になる。支度をする。鏡を見たくない。でも鏡も見ずに外に出るなんて、考えるだけで恐ろしい。おそるおそる脇から覗く。いつもの通り、ぼさぼさに乱れた髪と不機嫌な顔がこちらを睨んでいる。時には恨めし気に、時には挑むように。どの顔も好きになれない。自分の顔だからこそ、自分自身だからこそ、許せない。鏡は見せつける。見えないはずの不格好な私の芯を抉り出して晒す。鏡は大声で告げる。恐れに縮こまった魂、友人と呼んでいた人々への嫉妬や憎悪、虚栄心、軋轢から荒んでしまった精神、周りに溶け込みたいと願うほど、浮き上がり、孤立する……しんどい。鏡なんてもう見たくない、見なければ外に出られないのならばもう外にも出たくない。激辛口で非難ばかりの鏡なんて、なくなればいい。

 気づくとこぶしにガラス片が食い込んでいた。粉々になった鏡の、一番大きな欠片に、涙で歪む私の瞳が映る。
 思いのほか、それは澄んでいた。もう一度、飛び立とうとする小鳥のように。


(410文字)


またまたたらはかに(田原にか)さんの10/6(10/5だったか?)、裏お題にも乗っかりました。
お題は「激辛の鏡」。こちらも苦戦しました。書き直すかも、いや、直さないかも。どっちやねん。

たらはかにさんの企画記事はこちらです。

自作のたまり場はこちら。よろしくお願いします。

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