レストラン・グラニュール奇譚
前菜から主菜への流れがあまりにも魅惑的で、私は思わずルイを呼んだ。
「どうした、この真鯛? 悪魔に魂でも売ったのか」「はい、総料理長が」
彼は声をひそめる。「ポワレは彼自ら調理を」
今迄も贔屓にしていた店は突然変容した……誰にも教えたくない店に。
それからもほぼ毎日店に通った。店全体がより洗練されていく。次々と新しいコースが用意される。どれも忘れがたい芸術品とも言える『作品』だった。
私の席に何度か総料理長その人が挨拶に来た。
当初の彼は偉丈夫だったが見る度に背は縮み、ついには粒となり小皿に乗せられて来た時には「タルトの風味づけ、酒を替えたの、お気づき頂けましたか?」可愛い声でそう言った。
だがまた突然、私は気づいた。「塩が濃いぞ」
ルイがやつれた顔で顔を寄せた。「総料理長が、いなくなったのです」
シンクに落ちてそのまま、行方不明になったのだそうだ。
少しした頃、すぐ近くのレストランが評判となった。
どうも彼はそこに流れ着いたらしい。
(410文字)
出がけに思いついてつい。今回は表裏両方のお題に参加できてうれしいです。
たらはかに(田原にか)さんの毎週ショートショートnoteに、お題「粒状の総料理長」そのまんまストレートに思いをぶつけました(笑)。
よろしくお願いします。
たはらかに(田原にか)さんの企画はこちら。
私自身の毎週ショートショートnoteのまとめはこちら。