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タイトルは「夜からの手紙」 【夜からの手紙】

 初めて受け取ったのは、17になる冬の晩だった。微かな音に顔を上げると、塗装の剥げた窓枠に何か載っていた。窓を開けて拾う。すでに茶色く枯れ果てた一枚の落ち葉。僕はそれを頬に当て、冷たい風が儚い歌をうたうのに耳を澄ませた。

 それから何度も、僕は窓際に伝言を受け取った。不思議と、必ず夜だった。軍がやって来て、ピアノは接収しないが夜半と警報時には弾かないように、と告げて去った夜にも、窓枠には黒焦げになった団栗が載っていた。僕はそっと摘まみ上げピアノの上に置き、少しメロディを奏でた。

 空が炎に染まる時にも、夜になると僕はいくつか窓枠にメッセージを受け取っていた。不思議なことに、白い貝殻が載っていたことがあった。耳を当てると、遠くの人びとの哀しみが潮騒に混じり心に響いた。

 長い長い時を経て、僕はそれらをつなぎ合わせて曲を奏でた。


 それが今、このコンサートホールに響く。すっかり背が曲がり、白髪となった僕が創り上げたのが、この曲だ。


(410文字)


またまたたらはかに(田原にか)さんの10/6お題に乗っかりました。
お題は「夜からの手紙」。すぐにできるかなーと思ったけど、苦戦しました。

たらはかにさんの企画記事はこちらです。

自作のたまり場はこちら。よろしくお願いします。

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