むしろ世界遺産にした方が
我々は~、と割れた大声が耳に飛び込んだ。呉は汗を拭きふき、人垣をかき分けて前に進む。
「会館は、今まで百年の長きに渡り~」商工会代表の杉村という男が汗と唾を飛ばしている。
「開発工事の紛争時も、会館での県との会合が功を奏しました」三十年前だけどな、と見物人の誰かが小声で野次った。
「暴力団の抗争時もここに組の代表が集まり、一種即発の中それでも、無事に手打ちとなりました。が、数多の懸案事項を解消してきた、歴史あるこの建物が今まさに、解体の危機に瀕し……」
と、杉村は呉に気づいて声を落とす。「会社の犬か」
「暑いので、中で」呉は彼を促し、バリケードを跨いで会館の鍵を開ける。反対派の連中もぞろぞろと続いた。
少しして、彼らは一様に呆けた表情で出て来た。杉村が呟く。
「本当、いつかは、無くなるもんだよね……」周りもうなずいている。
「いや、むしろここは残した方が」
と慌てた呉の肩を、杉村はぽんと叩く。
「呉ちゃん、どっかで一杯やろうぜ」
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