「とりま、文学を語る」人に会う

 まず「蜘蛛の糸」を渡す。彼は薄い本を両手で挟み、少し上をみて
「すんでのところで脱獄にしくじる小物の話だ」と、言った。
「本当に? 分かるの?」
「ああ」
 知人に紹介された彼には特殊な才能があった。彼は今まで一度も本など読んだことはないのだが、両手で挟むと口から中身が要約されて出てくるのだそうだ。とりま説明できる、というので俺の界隈では「文学トリマー」と称されていた。
 今日はどうしても確かめたいことがあった。でも再度テストだ。
 次に手渡したのは「アンドロイドは電気羊の夢をみるか」。彼はわずかに顎を上げ、両掌で本を味わっていたが、間もなく言った。
「本物かニセモノか調べまくって疲れて寝るオッサンの話」
 俺はついに、自費出版、一冊しか作れなかった豪華装丁の詩集を渡す。俺の最高傑作たる自負があった。何と言ってくれるのか……
「……醤油の染みだ、これは」彼はつまらなそうに本を投げ出す。開いたページはなぜか本当に醤油がべったり染みていた。

(410文字)

たはらかにさんの企画にまたまた参加しました。
文学フリマ東京ご参加の皆さま、お疲れさまでした。


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