ザ・ガーデン自由が丘の想い出〜ゲリラ豪雨〜
今春、ザ・ガーデン自由が丘が閉店してしまった。元々の地権者がスーパーの土地を売却し、マンションに変貌するとのことだ。
解体工事が始まり高い塀に囲まれ、店舗の跡形も垣間見られなくなった。
私が初めてガーデン自由が丘を知ったのは、高校生頃だった。時はバブルの頃である。友人と自由が丘に遊びに行った際に、通りすがりに外観を見ただけだった。ガーデンは、スーパーの目の前に駐車係がキチンといて、優雅なスーパーの佇まいを醸し出していた。
高級スーパーの代名詞と言えば、紀ノ国屋と明治屋になるのであろうが、学生の頃から個人的にはガーデン自由が丘や広尾のナショナル麻布ストアの雰囲気が好みであった。
まさか数十年後にこのガーデンをデイリー使いすることになるとは想像だにしなかったが、数年前にガーデンの近隣に転居してきた縁で、よく利用していた。
昨年の初夏の話である。近年の東京の夏は、いきなり強雨が降る様になった。まるで熱帯雨林地帯のように短時間降る雨ではあるが、スコールという形容には不似合いであるし、スコールは晴天なのに雨が降るからか、ゲリラ豪雨という形容で天気予報でも報道され、数十年前とは異なる雨足に見舞われることが多くなった。
その日も、午前中に買い物を済ませる習慣がある私は、ガーデンに買い物へ行った。徒歩でである。
若い時は、歩くのは疲れるからとクルマ生活であったが、年齢を重ねた今ではウォーキングが趣味と言って良いほど、歩くようになった。1日8000歩が目標である。
自宅玄関で施錠しながら、ちょっとだけ雲行きが怪しいかも、と感じつつ、晴天ではなく曇っていた為、いつも使用する日傘も持たずにガーデンへ徒歩で向かった。
玄関で、愛犬がまるで「行くな、行くな!」と訴えるように吠えていたのだが、サクッと買い物してきちゃうわね、と宥めつつ、向かったのだった。
ガーデンへ向かう途中、ゴロゴロ、と近くで雷が鳴っていたが、急げば雨が降る前に帰宅できる、と鷹を括り早足で向かい入店した。
いつもの買い物よりはスピーディーに15分位で会計を終え、お店を出ようとしたのだが、時すでに遅しである。雷と共に、出入口の軒先まで打ちつけてきている大雨に天候が変わっていた。
そのコンクリートに打ちつける強雨は傘があったとしても、確実にびしょ濡れになるであろう強さであった。
あまりの豪雨に、呆気に取られ、出入り口で立ち止まっていたら、同じく立ち止まる女性と目があい、笑い合ってしまった。
もちろん、見ず知らずの女性である。お互い笑うしかない状況であったので、その女性に「すごい雨ですね。帰れなくなってしまいました」と笑顔で話しかけていた。
その女性は、「傘をお持ちではないのですね。お車ですか?よかったらご自宅までお送りしますよ。」とおっしゃってくれたのだ。
「あの車です。」と出入り口の目の前に駐車してある、メルセデスのEクラスを指差した。
知らない人の車に乗っては行けないのは、幼少期から両親の教えであるが、その女性の身なりや言動は危険人物ではないであろうことは、二言三言しか会話をしていなくても察することができた。車も高級車であるし、瞬時に「よろしいのですか?お言葉に甘えさせていただいて。」と図々しくも返答した。
「もちろんですよ。車を目の前に横付けしますので、ちょっと待ってらしてくださいね。」と女性は雨の中、メルセデスへ向かった。傘をさしても意味がなく、数秒歩いただけでも、ビショビショに衣類がなってしまうほどであった。
ガーデンのエントランス前の駐車場は、車を前方入庫しかできない上に、駐車場内は車1台分が通れる幅しかなく、運転しやすいとは言えない車幅であったが、その女性はスピーディーに車を寄せてくださり、私は、ほんの2.3秒ではあるが強い雨に打たれただけでスムーズに助手席に乗車した。
ガーデンから私の自宅までは、車で数十分とかからない距離なので、乗車中の会話は短い時間であった。
その女性は池上にお住まいとのことだった。雨足は変わらず強く、雨が止むのを待っていたら1時間位はかかりそうであった。タクシーも配車アプリでつかまらないであろう状況に本当に助かった。
何かお礼をと考えた私は、心から乗せていただいたことへの感謝の言葉と、ちょうどガーデンで購入していた食卓テーブル用の1輪のバラをお渡しした。
いつかまたガーデンで買い物をしていたら、その女性にお目にかかれるかもしれないと思っていたが、結局、お見かけすることはなく、ガーデンは閉店してしまった。
もう一度、お礼を伝えたかった。
ガーデンは、アットホーム感のあるスーパーであったな、と最近のゲリラ豪雨のニュースを観ながら、その出来事を想い出すのであった。