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和裁のマブダチ

和裁士にとって欠かせない道具『かけはり』。
これを使って生地を挟む事で、長い距離を運針で縫う事が出来ます。

生徒さんには「衿を付けるまでに、かけはりとマブダチになっておこうね」と声を掛けています。
「かけはりがないと縫えない」という境地まできていたら、あなたはもう、和裁の沼にハマっています。

ここで突然の自分語りなのですが、私は奈良の専門学校に入学する前に、実は一瞬だけ宮崎の和裁所にいました。
ここではなんと、男仕立て(かけはりを使わず、足の指で生地をつかんで縫う仕立て方)だったんです。

それがもう、嫌で嫌で。

だって、人様の着物を自分の素足で触るんですよ?
出勤して、靴下脱いで、ほかほかの足でつかむんですよ?
ウエットシートとかで拭いてないよ……?
水虫なったらどうするの……?

「これはこういうもんだ」と自分を納得させていたのですが、ある日、かけはりを使っている先輩に気付いてしまったのです。
その先輩は身体的にあぐらがかけず、仕方なくかけはりを使っていたようなのですが、私は「いーなー!私もあっちがいい!」と憧れを抱いておりました。

着物の美しさに感動して和裁の道を志したのに、その美しい生地を足で挟むストレス。
漬物嫌いなのに、針山の中に入っているぬかの存在感。
寮の同室の先輩から毎晩聞こえてくる、歯ぎしりの音。

それに加え、ヒステリックな先生から毎日浴びせられる怒声。
分からない事を質問しても説明の仕方を一切変えないから、全く理解出来ず不安なまま縫う→お直しになる→怒られる→縫うのが怖くなる。

どんどん体調を崩していく同期たち。
胃に穴が空いたりして、ひとりひとり辞めていく。
私は片耳が聞こえなくなった時に辞職を決意しました。

結局同期は全員辞めて、この和裁所も数年後に潰れたそうです。
かけはりに対する、並々ならぬ執着が伝わったでしょうか?

かけはり、大好きだよー!

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