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生地の可愛さと縫いやすさは比例しない
人類の叡智の結晶……それはポリ。
20年前、私が和裁の専門学校生だった頃は、ポリ素材は今とは全然比べ物にならない品質の物でした。
そもそも学校に来る仕立ての依頼は、正絹か綿ばかり。
溶ける素材は、自分で着る針供養用のウールアンサンブルか卒業式用のウール袴くらい。
溶けるという事に全く慣れていない1年生の時、その事件は起きました。
【心に負った、深い傷……】
男児着物の裏地交換で、ポリ100%の新品裏地。
交換前の裏地と同じ丈で印を付けようとコテでヘラを打ち……溶けました。
ヘラ切れです。
は?
はじめての大失敗、はじめての衝撃。
幸いにも在庫のある生地だったので事なきを得ましたが、私は一生、この出来事を忘れられないと思います。
現在、着物に使われているポリエステル素材はかなり進化していて、アイロンですぐにドロっと溶けないのが安心です。
そっと打てば、コテでヘラ切れもしない!
そんなポリエステル素材の代表格の3つの生地『セオα』『シルック』『シルジェリー』の特徴について書いていきます。
【セオα】
一番縫いやすい
張りがあって、キセもかかりやすい
手応えを感じやすい
色柄が豊富で選択肢も多く、暑い夏を乗り切る浴衣としてオススメ
【シルック】
綺麗めな色柄が多いイメージ
絹に近い触感
縫いやすくはない
しっかりした生地で、キセをかけてもふんわりしてる
【シルジェリー】
カワイイ色柄の多いイメージ
セオαとシルックの中間の縫いやすさ
くけに少し抵抗を感じる
仕上げを頑張ればシャキッとなる
真夏以外の3シーズンで着れるありがたさ
【ポリは色々】
テキスタイルメーカーさんから洋服生地を仕入れるようになって、色々なポリ素材を縫うようになりました。
どれも、溶けるねー!
ヘラ打てないねー!
チャコも弾いてくるねー!
湿布当てながらじゃないと、キセかからないねー!
でも、めっちゃカワイイ。
和裁教室の生徒さんが縫ってる時も、「溶けるから気を付けてね」「冷ますんだよ」「当て布してね」としつこいくらい声かけてます。
おかげで、コテを当てる事に皆が慎重になってくれて嬉しいです。
『生地の可愛さと縫いやすさは比例しない』
燈織屋での格言となっています。