▶ 靴の成分 ◀
手製の革靴はほとんどが革でできており、革同士を繋ぎ合わせたり固定するために糸や釘、接着剤が使われています。靴がただの置き物であればそこまでなのですが、人間に結び付けられることによって色々な要素を求められることになります。この記事では靴の構成を表現、機能、運動、生理学の4項目に分解し、靴作りにおける重要な観点を考えていきたいと思います。
Ⅰ.表 現 Expression
衣服を身に纏うことは社会を意識した表現の手段の一つです。起源は保護や体温調節、羞恥など諸説あると思います。現代では服装は、自宅>近所のコンビニ>デート>会社や冠婚葬祭というように社会との直接的な関係が深まるにつれて自由度が制限されていくように思います。これは明らかに社会を意識した変化です。初めはファッションという言葉を使おうとしていましたが、ファッション ≒ 流行となるとニュアンスが違うので抽象的にはなりますが表現という言葉を使うことにしました。自分はこう思っている、こういうスタイルが好きだ、こう見られたいという印象を与えることもあれば、ファッションには興味がない、身だしなみには気を遣わないという印象を与えることもあります。制服(ユニフォーム)のように集団で同じような衣服を身に着けることにより集団としての意志を表現したり、仲間の認識に役立ったりもします。
また服装は歴史や宗教、思想、文化に大きく影響されます。これらのルーツは表現をより具体的にしたり、コーディネートに深みを出す上で重要になります。ですがその反面、慣習・規律(TPO)として残っていることにより、各種ハラスメントやKu Too運動などの社会問題になることもしばしばです。
Ⅱ.機 能 Function
靴は足を対象に作れられるものであり、移動に伴って持ち上げて運ぶ必要があるので、基本的な形が想定を超えることはほとんどありません。しかし設計や素材によって機能に大きな差が生まれます。靴の機能には堅牢性、支持性、屈曲性、耐久性、耐摩耗性、通気性など色々ありますが、靴が履かれる環境や目的によって優先される機能が異なります。日常的に履く靴では耐久性、耐摩耗性が高いと長く履けると思います。登山をするときには堅牢性や支持性が高いと安心できます。ランニングをするときには屈曲性と通気性が高く、軽量であれば快適に走れます。ここまで挙げた機能の中には相反するものもあるので、全ての機能を高い水準にすることは難しいと思います。そのため靴を履く場面や目的に応じた素材を選定し、構造を設計することが重要です。
Ⅲ.運 動 Motion
ここで言う運動には人間の運動という意味だけでなく靴の運動という意味も含めています。人間の運動の物理的な側面は生体力学を用いて説明されることが多いです。生体力学とは生体の構造や運動を力学的な視点で解析する学問で、スポーツや医学の分野によく応用されています。歩行における生体力学では足にある関節の動きや筋肉の働きのパターン、重心移動や体重移動の軌跡などがデータ・理論として存在し、それらは靴を設計するときの一助になります。
私は靴の運動に関する資料やデータを見たことがないので推測になってしまいますが、靴の動きをイメージすることはとても重要なことだと考えています。靴にはくつ下のように人間の身体にぴたっと沿ったり、人間の動きに合わせて伸縮する自由度がありません。そのため靴と足の動きにはある程度の差が生じます。この動きの差は場合によってはトラブルの原因になるので、靴の動きの特徴や制限、足への影響を考えることでトラブルを未然に防ぐことができるかもしれません。
Ⅳ.生理学 Physiology
生理学とは人体を構成する細胞や組織、器官の働きを解明する学問です。靴は足全体を覆うので靴の中は密閉状態に近くなり、また強い締め付けや圧迫は身体を変化させます。身体は運動によって体温が上がると身体を冷やすために汗を出します。そのため靴の中は多湿状態になりやすく、足の臭いの原因となる菌が増殖しやすい不衛生な環境となります。この状態を改善するためには通気性や吸湿性、換気性が重要です。また靴を履いたときに問題となりやすいのがで痛みで、その多くは圧迫と擦れによって引き起こされます。「革靴は履いているうちに伸びるから、最初はきついサイズを選んだ方がいい。」という話はよく耳にしますが、窮屈な靴を選ぶと痛みや循環の問題を引き起こす可能性が高くなるので注意が必要です。
終わりに
一つの視点から物を見ると見えない部分が半分以上あります。対象となる物事をより深く理解するためにもできるだけ多くの視点で考えることが重要だと思います。