じつは、スキーはこんなにも危ない!?
スキーを知ってみるととても不思議なスポーツで、普段の生活にはない楽しさを味わえます。子どもたちがスキーキャンプから帰ってきた様子を見ると、その意味はよく分かるのではないでしょうか。
ところでスキーって、実は結構危ないスポーツでもあります。私もスキー場のパトロール隊員をやっているのですが、毎日ようにスキー場ではけが人が発生しパトロールが出動します。時には救急車やドクターヘリ案件もあり、稀にですが死亡事故もあります。
よく考えれば生身の体で原付バイクと同じくらい、それ以上のスピードが出るわけですからね、それは事故になればそれなりの衝撃になるわけです。
自然学校のスキーキャンプでは、初心者の子どもたちがたくさん来ます。年長や小学校低学年の子どもでも安全にスキーを滑れるようになるには、多少コツが必要なわけです。
今回は、元スキー学校の校長先生で、ひの自然学校のスキーアドバイザーでもある五十嵐さん(通称がらさん)に、安全にスキーを楽しむコツを教わりました。
怖い…けどやりたい、怖い…のに楽しい、それがスキー。
スキーの「危なさ」には何があるのでしょうか。少し考えただけでもいくつも出てきますね。雪の上で「滑る」(「雪山を登る」を含め)スポーツは数種目あり、そもそもが自然の山岳地で行われるために多くの危険が存在します。それぞれの種目には専門の道具が必要です。
スキーをする子どもたちは、長くて重たいスキー用具を身に着けます。寒いスキー場では専用の着衣があり、手袋、ゴーグル、帽子(ヘルメット)をつけると思うように動けません。誰もが「危ない、怖い」と感じるでしょう。それでも、雪の上に立つと、なぜかスキーをしたくなるのです。
「危ない」を「楽しい」に。
スキーを上達するために知りたい、シンプルなステップ
「危ない、怖い」と思いながら、子どもたちはリーダー(指導者)と一緒に「危なくない、怖くないように」しながらスキーをしていきます。「危ない」を、どのように「危なくないように」していくか、見てみましょう。
最近はスキー用具の性能向上が著しく、道具頼ったスキーを覚えることが「滑れるようになる」ことの一番シンプルな方法なんだそうです。その基礎となる動きが上記5つだけ。
よく考えれば、やったことない。重力で勝手に動き始める。どんな動きをすればいいかわからない。しかも年齢が低い子どもたち…となれば、荷重が抜重が外向が内倒がエッジがどーだのこーだの言ってもなかなか分からないですよね。子どもスキーにおいては、「スキーの理屈」が物事を難しくしていることもあるようです。
5つのステップを使いこなして、簡単に滑る。
「危ない」を「楽しい」にするには、一緒に滑る指導者の働きかけや様々な視点に加え、滑走者自身である子どもたちの取り組みも重要です。先ほどのポイントがどのように活かされて楽しいにつながるのか、がらさんに一例を教えてもらいました。
「見る」を題材に考えてみましょう。まず目標を「見る」ことに設定し、子どもたちには顔を上げて「見る」ように促すことから始めます。誰でもできる「見る」です。行き先を見ながら動こうとすると、少しだけ足を踏み出せます。これが「初めの一歩」。たくさん、褒めてあげます。できたことを、指導者も一緒に喜びたい。どんなに小さくても、はじめてできると嬉しいもの。これを繰り返していきます。
滑って「危ない」が、滑ると「楽しい」。経験を重ねるごとに、「楽しい」は増えていきます。どう増えていくのでしょうか。
視野が少しずつ拡大していくのです。はじめは、「点」だけ。どこまで歩いて行くかです。次は滑るためのスタート地点まで登ります。滑れたら、リフト乗り場へ歩いていき、リフトに搭乗。足が雪面から離れ、空中を移動します。リフト降り場直前の緊張感は初体験です。短い滑走があり、スキーコースへのアプローチを経てゲレンデへ。スキー場下部の谷底とは違い、高く広い景色が目に入ってきます。
初めての長い滑降は、ゴールまでの「線」が一本。怖さが大きく、思うようにスキーができなくても、ゴールに着いた時の安堵感、嬉しさは図り知れません。
2回3回とリフトに乗る回数が増えるにつき、点から線になった視野が「面」になります。スキーは同じラインを滑ることはできません。道が描かれていないからです。始点と終点は同じでも、滑走ラインは常に変わります。同じゲレンデを大きく使って滑ることになり、広い視野を持たないとゴールに行き着くことはできません。
さらに、ゴールまでの間にはいくつもの障害物があります。樹木や人工工作物、雪の凸凹のほかにやっかいなのは「人(スキーヤー)」です。見続けていると、人は見ている所に向かってしまうので、結果ぶつかってしまうのです。ではどうするか。その答えは「人と人の隙間や雪の斜面を見続けて滑る」ことによって危険を回避することができます。そのためにも広い視野が必要なのです。
次第に経験が重なり、スピードを出せるようになります。異なるゲレンデを滑りたいと思うようになるでしょう。一気に上達を求めるより、自分のできることを確かめながら、一歩一歩高みを目指すことが大切です。長いコースでは、斜度やライン、スピードの変化を確かめ、ゴールまでの道程を覚えます。見えないゴールを思い描いて滑り切ります。
こうして「危ない」が「楽しい」に変わっていくのです。
安全なスキー場作りを担う、スキー場管理者
ここまでは滑走者である子どもや指導者の努力による安全の創り方でしたが、スキー場を運営管理する側も来場者のための不断の努力がされています。
すべてのスポーツには、多かれ少なかれ危険が伴います。スポーツをしようとした時、「スポーツの危険」を承知しておかなければなりません。スキーに特化した危険も含め、それが誰にでもわかるように提示しているのが、スキー場管理者の方々です。
スキー場はマップによって、スキーヤーが滑ることができる範囲やコースの難易度、リフトやゴンドラの架設位置などを示しています。また、スキーヤーへの告知やスキー場の行動規則、リフト利用時の注意を明示し、リフト券発売所、パトロール詰所、トイレ・レストラン・休憩所などの案内も行っています。
コースの閉鎖・気象警報の発令・雪崩発生の危険など、ゲレンデコンディションに異常が生じた際には、掲示・場内放送により情報をスキーヤーに伝え、必要な処置を講じるのもスキー場管理者の役割です。
スキー場内でよく見かけるパトロールは、スキー場内を常時見回っています。コースコンディションの変化、スキー場境界線と立ち入り禁止表示の管理・修正、スノーパークの管理、雪上車両の運行なども行っています。
“スキーに出かけて無事に安全に帰ってくる。”
一見当たり前のように見える事柄も、指導者、子どもたち自身、スキー場の関係者など多くの人々の取り組みの上に成り立っています。
関係者は誰もがスキーを安全に楽しくできるように努力をしていますが、スキーツアーに参加させる側(たとえば保護者)の前提には「そもそもスキーは(というより、アウトドア全般的に)危険な遊びだ」という認識が必要です。
安全はそこにあるものではく、送り出す保護者のみなさんを含めた関係者全員で創り出すものなのです。
その結果「楽しい」が生まれ、そして忘れられない思い出となって子どもたちの記憶に残っていくのです。(スキーアドバイザー 五十嵐 民夫 氏)
いかがでしたか?今回はスキーキャンプ事業やスキーアドバイザーから学ぶ「スキーの危なさと楽しさ」についてお届けしてきました。
シンプルに考えて滑りながら安全を創り出す。そして自然の中での活動は常に危ないことに挑んでいるという前提に立つ、ことが人と自然のかかわりの上で大切だ。ということでした。皆さんの活動やファミリースキーの参考になれば幸いです!
ちなみに、私は子どものスキー指導に15年くらい関わり、「スキーデビューはパパママが教えるのではなく、外部に依頼したほうが絶対×絶対にいい!」という持論があるのですが、その理由についてはまた次回ということで✋
ひの自然学校 リスクマネジャー 寺田達也(まめた)