川田将雅騎手37歳ピーク説!?
昨年は必死になってジョッキー36歳ピーク説を唱えていました。
岡部幸雄元騎手は36歳のときにシンボリルドルフで三冠達成。武豊騎手がディープインパクトで三冠達成したのも36歳のとき。福永祐一調教師がコントレイルに出会ったのは40歳を過ぎてからですが、36歳のときはエピファネイアに跨って皐月賞2着、ダービー2着、菊花賞1着と準三冠を達成している。というわけで、名手といわれる騎手は36歳のときにキャリアを代表するような馬に出会う。まだ体の衰えを心配する年齢でもなく「技術力」も「戦略力」も漲っていて、経験と信頼を十分に蓄えることができ「政治力」が頂点に到達するのがちょうど36歳くらいなのではないでしょうか。オカルト的な話にはなりますが、そういうすべてが充実している時期にこそ名馬に巡り合う確率が跳ね上がるのかもしれません。それは過去の名手たちが証明してくれています。
どうして、昨年36歳ピーク説にこだわっていたのかというと、デビュー時からゆくゆくはJRAを背負って立つジョッキーになると信じていた騎手が36歳をむかえたからです。それが川田将雅騎手です。
昨年の川田騎手はダービーで1番人気のダノンベルーガに騎乗したものの無冠。筆者の説を証明することが出来なかったのですが、秋華賞当日に38歳の誕生日を迎えた川田騎手はリバティアイランドで牝馬三冠を達成。リバティアイランドの新馬戦を上がり31秒4で圧勝したときは、まだ36歳9か月のときだったので、川田騎手も36歳のときにキャリアを象徴する名馬と出会っていたといってもいいのではないでしょうか。
そもそも昨年の川田騎手は自身初となるリーディングジョッキーの座に輝いただけではなく、36歳になってすぐの21年11月にはアメリカに遠征しブリーダーズCフィリー&メアターフをラヴズオンリーユーで制すなどの活躍を見せました。しかし、それは期待したほどのものではなかった。もちろん、日本馬によるブリーダーズC制覇は日本競馬史に残る大偉業なのは間違いありません。ただ、筆者のそれ以上の期待をしていたのです。
昨年のダービーでは1番人気に支持されたダノンベルーガに騎乗。競馬の頂点でもあるダービーが、川田時代の到来を告げるレースになると考えていたのに、結果は武豊騎手が騎乗したドウデュースに差され4着。新しい時代の扉が開かなかったことに落胆したことを、いまでも鮮明に覚えています。
振り返ると、武豊騎手がディープインパクトで三冠を達成した2005年に岡部幸雄騎手は引退。こんな感じで時代は移り替わっていくもの。しかし、36歳の福永騎手がエピファネイアで挑戦したダービーは、ゴール前で武豊騎手のキズナに交わされて2着。「僕は帰ってきました」という名言が勝利ジョッキーインタビューで飛び出しました。武豊騎手は2010年毎日杯での落馬で大ケガ負い、その後は深刻なスランプに陥っていました。2012年には自身のワースト記録となる56勝しか挙げることができなかった。勝負事にたらればは禁物ですが、もし2013年のダービーを福永騎手が制していたら、武豊の時代はそこで終わりを告げていたかもしれません。それを自らの手綱で阻止し、「僕は帰ってきました」という名言とともに復権を果たしたのです。
最年長ダービー制覇として注目を集めた53歳の武豊騎手によるドウデュースでの勝利も、川田時代の到来を阻止する意味もあったのではないでしょうか。武豊騎手があれだけ長く一線級で輝き続けられるのは、要所要所で後輩騎手の台頭を防いできたからに違いない。
昨年のGⅠレースを振り返ると、高松宮記念をナランフレグで制した丸田恭介騎手をはじめ、横山和生騎手、荻野極騎手、坂井瑠星騎手、石川裕紀人騎手など5名ものG1初勝利騎手が誕生。若手騎手の台頭が目立った1年でした。こういう流れになったのは、川田騎手が政権奪取に失敗し、その野望が次の世代の騎手に委ねられたから。筆者には、そう見えて仕方がなかった。だから、昨年の川田騎手の活躍を手放しで喜べなかったのです。
ノーザンFから干されたのか?
迎えた2023年の川田騎手も逆風の中でのスタートだったのではないでしょうか。
というのは、真偽不明の噂ですが「ノーザンFから三行半を突き付けられた」という話が聞こえて来たからです。サンデーRのリバティアイランドの主戦騎手なのに、さすがにそんなことはないはずです。とにかくいろいろな噂をたくさん耳にするので、話半分で聞くことにしているのですが、一口クラブのキャロットFのパーティーでの一幕を見て、信ぴょう性のある噂なんじゃないかと感じたのです。
それは武豊騎手が会員に向けて挨拶したときのこと。自嘲なのか、いい馬を回してもらってないのにステージに立たされて挨拶までさせられていることに対するクレームなのか、とにかく会場の笑いを誘いました。その挨拶の一部を抜粋すると「今日ここにいる騎手たちは2020年以降、重賞レースでキャロットの馬で勝った経験があるんですが、実は僕だけ勝ってなくて……。今日は勝ってない騎手を代表してここに参りました」「先日京都競馬場で未勝利戦をヴィヴィッシモで勝たせていただきました!」「今日はなんかいじられている気が……来年は堂々と出られるよう頑張ります」という感じ。
その横で、川田騎手は腹を抱えて膝から崩れ落ちそうになるくらい爆笑していたのです。ハッキリいってこのリアクションは同じような境遇にないとできないと思うのです。キャロットFの馬で活躍していたら苦笑いするだろうし、川田騎手がリアクションを間違ったとも考えにくい。筆者には武豊騎手の気持ちがいまの川田騎手に痛い程、伝わったからにしか見えませんでした。
なので、その噂が本当なのか、検証していきたい。
◎サンデーR、キャロットF、シルクRの騎乗数の推移
※データは23年10月9日現在のもの。以下も同じ
20年:135鞍(39勝)
21年:104鞍(29勝)
22年:50鞍(13勝)
23年:41鞍(8勝)
確かに22年以降、騎乗数は減っているものの、干されたというのはちょっと大げさな気がします。しかし、表面的な部分だけ見てもダメだと思うので、このデータを関西馬と関東馬に分けてみます。
関西馬
20年:110鞍(32勝)
21年:61鞍(19勝)
22年:41鞍(11勝)
23年:18鞍(3勝)
関東馬
20年:25鞍(7勝)
21年:43鞍(10勝)
22年:9鞍(2勝)
23年:23鞍(5勝)
23年に関しては関西馬の落ち込みが激しい。さらに、関西馬の中から川田騎手が主戦を務める中内田厩舎からの依頼を除くとこうなりました。
関西馬 ※中内田厩舎を除く
20年:96鞍(28勝)
21年:44鞍(16勝)
22年:26鞍(6勝)
23年:4鞍(0勝)
今年ノーザンF系クラブ馬(中内田厩舎を除く)で川田騎手が跨ったのは、大阪杯のヴェルトライゼンデと団野騎手から急遽の乗り替わりとなったフェンダーなど4鞍だけ。
いろいろ調査した結果。どうやら関西馬を仕上げている外厩のノーザンFしがらきとの関係が悪化しているとのこと。ただ、干されたのか川田騎手が依頼を断っているのか真相まではわかりません。とはいえ、10月7日(ピュアグルーヴ)と10月9日(レアリゼアンレ―ヴ)に関西のノーザンF系クラブ馬に騎乗しているところを見ると雪解けは近いのかも。
川田騎手は「一流騎手たるものケガや騎乗停止で休むことはあってはならない」と公言しており、そういうアクシデントに巻き込まれる可能性の高い乗り難しい馬を敬遠する傾向がありました。リーディング上位騎手のなかでダントツに騎乗数が少ないのはそうやって騎乗馬を厳選しているからです。
しかし、関西のノーザンF系クラブ馬に乗れなくなったことによって、その騎乗馬厳選政策を多少緩和しなければならなくなったのではないでしょうか。
その方向転換が意外な効果をもたらしてくれます。それはドバイワールドCでのウシュバテソーロの依頼です。というのはこれまでウシュバテソーロとコンビを組んでいた横山和騎手が同日に行われる日経賞に出走するタイトルホルダーを選んで鞍上が白紙となり、川田騎手に白羽の矢が立ったからです。これまでの騎乗馬を厳選していた川田騎手を考えると海外でテン乗りの関東馬に乗ることは考えにくい。
結果は、ご存じのとおりウシュバテソーロと川田騎手のコンビは見事に直線一気を決め、世界最高峰のレースを制したのです。人間万事塞翁が馬ではないですが、人生何が起こるかわからない。そもそも横山和騎手がドバイ遠征を選択していたらなかった話。とにかく、37歳の川田騎手の活躍はキャリアを象徴するシーズンになったことは間違いないでしょう。筆者が唱える36歳ピーク説も1年程度の誤差が生じるだけで間違ってはいなかったのではないでしょうか。
徹底先行主義に変化はあるのか?
川田騎手といえば、とにかく好位からの競馬を徹底しており、筆者は徹底先行主義と呼んでいます。それは川田騎手の逃げ先行率を見ていただければ一目瞭然です。
◎逃げ先行率
21年:52.9%
22年:55.1%
23年:50.0%
23年も半数のレースで先行している。ここ2年に比べてやや数字が下がっているのは、後輩たちが川田騎手の騎乗スタイルを見本にして、積極的に前に行こうとするジョッキーが増えたからだと思っています。さらに、付け加えるとこれだけ先行しているものの逃げを選択することはそこまで多くない。
なので、逃げ率の推移も見てみましょう。
◎逃げ率
21年:4.6%
22年:7.4%
23年:4.8%
21年は「逃げは最後の手段」とインタビューで答えるなど逃げることに関してネガティヴな印象を持っていたようなので、逃げ率が低かったのですが、23年もそれに匹敵する低さになっている。前目のポジションを獲るがハナに立つことは少ないのが川田騎手のスタイル。ただ、23年に関しては積極的に逃げる後輩が増えたことで、押し出されてハナに立つようなシーンが減り、自然体の騎乗で川田スタイルが出来るようになったことが逃げ率低下の一番の理由と考えています。
今年これまで勝率が30%を超えており、これをキープできれば史上初の3割ジョッキーの誕生となるだけでなく、2002年に武豊騎手が記録した年間勝率29.1%の記録更新も夢ではない。牝馬三冠にドバイワールドC制覇、さらに年間勝率3割も視野にいれるなど23年の川田騎手の勢いはとどまることを知りません。そして、貫いてきた徹底先行主義も完成の域に入ってきたのではないでしょうか。
完成した徹底先行主義についてさらに掘り下げてみたい。川田騎手は常に好位で競馬しているので直線で鋭い脚を使う印象は少ない。ただ。上がり最速を繰り出す割合もアップしているのです。好位に付けて最速の上がりも使えたら、これだけ勝率が高いのも納得です。
◎上がり最速割合
21年:20.1%
22年:19.7%
23年:23.2%
23年は上がり最速を繰り出す割合もアップしているのです。そして、これがどれくらい凄い数字なのか他のジョッキーと比較すると。なんと! 100鞍以上騎乗しているジョッキーのなかでトップの数字。2位がレーン騎手の18.9%、3位が横山典騎手の18.3%でルメール騎手は17.0%で5位という結果でした。
横山典騎手は常にポツンしているわけではないですが、最後方でじっくり脚を溜めることが多い横山典騎手よりも上がり最速を記録する割合が高いのです。さらに、馬をうまく折り合わせて切れ味を引き出すのが上手いルメール騎手をも圧倒している。もちろんそれだけいい馬の乗っているということなのですが、ルメール騎手も負けていないと思うし、半数のレースで先行してこれを記録しているというのは脱帽するしかありません。
長距離苦手説を検証
ビッグウィークで2010年の菊花賞を勝っているものの、21年菊花賞レッドジェネシス(1番人気13着)、23年天皇賞(春)ボルドグフーシュ(3番人気6着)、23年菊花賞サトノグランツ(3番人気10着)など、最近の長距離GⅠでは苦戦が多く、長距離が苦手なんじゃないかとささやかれています。
ただ、3000mを超える長距離戦はそもそもレース数が少なく、母数が少ないのでちょっとした上振れや下振れで極端なデータや印象になりやすい。なので、筆者は下振れしているだけで、そのうち実力に収束するだろうとついつい長距離GⅠの川田騎手に期待してしまい、毎回反省しているので、指摘する資格がないのは重々承知していますが、やっぱり苦手なのかもしれません(苦笑)
川田騎手の騎乗スタイルを思い出すと、スタートして好位を獲ったらあとは直線に向くまでジッとしていることが多い。ただ長距離GⅠになると状況状況に合わせて細かいギアチェンジを要求されるので、そういう繊細なアクセル操作が得意ではないのかもしれません。
これは川田騎手に残された数少ない課題のひとつなのではないでしょうか。弱点が少ないので、数少ないウィークポイントが目立っているだけで、それもクリアしたらますます完全無欠のジョッキーになるのでは。
ジョッキーカメラでセルフプロデュースに成功!?
今年大きな話題を集めて導入されたジョッキーカメラ。GⅠが行われた日の夜にYouTubeのJRA公式チャンネルにアップされ、大きな反響となっている。これの導入を薦めたのが川田騎手だっというです。
まずは、ジョッキーカメラとはどういうもので、筆者がジョッキーカメラの可能性をどう考えていたのか「競馬の天才!」の連載で書いたものを振り返ってみましょう。
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SNSで話題沸騰中のジョッキーカメラ。3月27日のJRAの定例会見で発表された内容をまとめると。注目度の高い一部GⅠレースで、注目度の高い馬に騎乗する騎手のヘルメットに小型カメラを装着し、臨場感あふれる映像を提供するというもの。1レースあたり1、2頭の騎手にカメラが装着され、映像の公開はレース当日の夜、YouTubeのJRA公式チャンネルなどで提供される。
すでに、多くのかたがご覧になっていると思いますが、まずは桜花賞と皐月賞で公開された動画を振り返ってみたいと思います。
桜花賞では、圧倒的な人気に応えて大外一気を決めたリバティアイランドに騎乗した川田騎手の馬上からの景色を見ることができました。
ゴール入線後に「勝ったよ~ありがとう」と馬を労ったり、「ハイ、お嬢さん終わりです」と馬となだめたり、外野からではわからない馬とのコミュニケーションの様子が新鮮でした。
そして、「2着来た?お前に勝たれるかと思ったわ」と2着のコナコーストに騎乗した鮫島駿騎手の健闘を称えるシーンも興味深いものでした。ゴール板を過ぎるまでは勝負に徹していても、決着がつけばお互いをリスペクトしているのがよくわかるからです。
さらに、「今日全然進まんかったわ」とレースの振り返るシーンもありました。レース後に出すコメントでは感じ取ることのできないフレッシュでヴィヴィッドで正直な感想は次走以降の馬券検討にも非常に参考になるものではないでしょうか。
というわけで、4分半の短い動画ですが、非常に中身の詰まったもので、筆者も食い入るように見てしまいました。
桜花賞の前日に行われた阪神牝馬Sでは、直線で外から川田騎手の進路を塞ごうとした岩田騎手を外に弾き飛ばしてしまい(川田騎手は)3万円の過怠金を科されてしまいました。
パトロールを見ると、岩田騎手のイズジョーノキセキは川田騎手が騎乗したルージュスティリアに終始外からプレッシャーを与えているように見えるし、3コーナー過ぎには岩田騎手が川田騎手の前に入ってきたので、ポジションを下げざるを得なくもなりました。そういう前置きがあったうえで、直線インから差そうとしたところで、さらに外からフタをされそうになったので、思わず弾いてしまったのではないでしょうか。当日のSNS上では川田騎手を非難する声が大きかったのですが、これもジョッキーカメラがあれば印象がガラッと変化したかもしれません。というわけで、ジョッキーカメラの導入によって競馬の見方がさらに広がり、新しい角度からの視点が追加される可能性を感じました。
あと、映像を見て意外だったのは、もっとレース中に声を掛け合っていると思っていたのですが、そういう音声が入っていなかったことです。編集されている可能性もあるので、全然ないとも言えないですが、怒号が飛び交うような感じではなさそうです。
皐月賞はソールオリエンスに騎乗した横山武騎手とファントムシーフに騎乗したルメール騎手にカメラがつけられました。
こちらもある意味で衝撃的な映像でした。というのは、(ソールオリエンスのカメラは)あいにくの重馬場で、前の馬が蹴り上げた水分をたっぷり含んだ泥がカメラにかかりスタートしてしばらくすると前が全く見えなくなってしまったからです。道中の大半が真っ暗で何も見えず、馬が風を切って走る音だけしか聞こえない。とはいえ、これもレースのリアルな状況だと気づかされました。ジョッキーがゴーグルを何個も重ねて装着したり、ゴーグルの上に透明の下敷きの様な板を着けて泥除けにしたりしているのも、それだけ視界を確保することが重要だからでしょう。
かつて福永祐一元騎手の西日発言が物議を醸したこともありましが、チャンピオンズCのジョッキーカメラで、強烈な西日を浴び、眩しすぎて全く前が見えないという映像を見せられたら、福永元騎手に土下座して謝るファンが続出するかもしれません(笑)
というわけで、レース中の動きはほとんど見ることができなかったのですが、それでも十分に楽しめるコンテンツになっていました。
ゴール入線後の勝利の雄叫びや、「さすがや!お前!」「すっげえ!こいつ!」と勝ったソールオリエンスを何度も称えて喜びを爆発させていたのも心に刺さりました。「やっぱね、コーナーはね、ちょっと飛んでくね」と課題のコーナリングについても振り返っており、興奮しながらもレースを振り返る冷静さも兼ね備えているのも印象的でした。
一方のルメール騎手に装着されたカメラの映像は対照的でした。というのは、泥に視界を遮られることなくスタートからゴールまでの攻防が仔細に映っていたからです。ただ、ルメール騎手が泥をかぶらなかったのは運がよかったからではなさそうです。単純に外目を回ってたのが大きいとは思いますが、前の馬との間合いも重要だと思うからです。やはり前の馬との車間距離が小さければ蹴り上げた泥が高く跳ね上がる前に届くので、馬の脚や胸前は汚れても馬の顔やジョッキーのゴーグルまでは届きにくい。こういう細かい配慮の積み重ねがルメール騎手の冷静沈着で巧みな立ち回りの一端なのかもしれないと感じたからです。馬も道中余計なストレスを感じることがない分、直線の伸びに転嫁できる。皐月賞で熾烈な3着争いを競り勝ったのも、そういう細かい気配りが決め手だったかもしれません。
横山武騎手が騎乗したソールオリエンスは、前の馬が蹴り上げた泥が集中的に降り注ぐポジションだったのでしょう。ただ、どちらが正解かは難しい。少しでもロスを減らそうとレースで内を回るとキックバックを受けやすいし、周りの馬のペースに合わせて走るよりも、自分の馬のリズムを守ったほうが勝負どころでの爆発力につながるケースも多いはず。実際、横山武騎手は自分の競馬に徹して栄冠をもぎ取ったわけですし。
とはいえ、こういうところからもジョッキーのタイプが透けて見えるのも面白かった。ダートのレースでキックバックを嫌がる馬がよくいますが、そういう馬の対処が上手いジョッキーというのはルメール騎手のように前の馬との車間距離を巧みにコントロールできるジョッキーなのではないかと感じました。
というわけで、JRAの新たな試みは、大きな話題を集め、大成功といっていいのですが、いろいろ好条件が重なったと思っています。
第一回目のリバティアイランドは後方から豪快に直線一気を決めたので映像的に見栄えのするものになったからです。逃げ馬にカメラをつけて逃げ切ったらスタートからゴールまでコースの紹介映像を見せられるだけになるし、逆にバテて馬群に飲み込まれるシーンも見てみたいとは思いますが、コンテンツとして面白くて爽快感のあるものになるかといわれると疑問。なので、リバティアイランドはこれ以上ない適役だったからです。
これだけ話題を集めたので、この後のGⅠでもこの企画を続けていただけると思うのですが、それで筆者が感じたことを2点あげたいと思います。
ひとつはファンの視点です。これまでにはなかった視点が増えたことで、レースの見方が変化するのか気になっています。やはり、逃げてバテて馬群に飲み込まれるのは忍びないので、スローでも脚を溜めて直線勝負に賭けたほうがいいというジョッキー心理が共有できるようになるかもしれない。これまでどおり前に行って脚を余さず競馬してほしいというファンの声が薄まるかもしれないと感じました。
もう一つは、これはある意味でJRAによる予想行為ではないのかという点です。先ほども述べたとおり、コンテンツとして面白いものにしようと思った場合、差す競馬で好走確率の高い馬にカメラを装着するのがいい。JRAが考える、それにふさわしい馬はどれか、パドックでジョッキーのヘルメットを見てカメラの有無を確認することで知ることができるのではないかと感じたからです。この原稿を書いている時点では桜花賞と皐月賞の結果しかわかりませんが、カメラを装着した3頭(リバティアイランド、ソールオリエンス、ファントムシーフ)はすべて馬券圏内を確保しています。
というわけで、これからどういう人馬にカメラが付くのか、ジョッキーカメラがGⅠレースの新たな楽しみの一つになりそうです。
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川田騎手がこれを狙っていたかはどうかわかりませんが、ジョッキーカメラの導入は川田騎手にとっても大成功だったのではないでしょうか。というのは自身の働きかけもあって導入された初年にリバティアイランドで牝馬三冠を達成。オークス勝利後には「これが東京だ!お嬢さん」という発言も飛び出し、イメージアップに大きく役立ったのではないでしょうか。
異例の呼びかけの裏にあった不安?
ハーパーでクイーンCを制した川田騎手。レース後に関係者に対し「オークスでも乗せて欲しい」と志願したそうです。もちろん「オークスで乗りたくなるようないい馬に乗せていただきありがとうございます」という意味でのリップサービスなのかもしれないですが、お手馬にリバティアイランドがいるのにそういうことを発言したということは、この時点で川田騎手はリバティアイランドの長距離適性に不安を感じていたのかもしれません。真意は川田騎手にしかかわらないですが、オークスの直前にも川田騎手の不安が垣間見えるエピソードがありました。
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みなさんに競馬を楽しんでいただくため、馬券の参考にしていただくため、頑張ります!これからもよろしくお願います!