デムーロ騎手はわざと出遅れている⁉オークスの騎乗に見えた謎の一端
デムーロ騎手がスタートで出遅れたシーンを集めてみました。
2019年2月2日(土)京都10RエルフィンSアクアミラビリス(1番人気)
2019年6月15日(土)阪神7Rエスポワール(1番人気)
2020年3月21日(土)中山12Rゲバラ(2番人気)
どれも上位人気に支持されたレースでの出遅れで目を覆いたくなります。
ただ、これらのレースには共通点があります。それは、1枠1番と内枠に入っていること。それだけではなく、直線で強い追い風が吹いていた日ということです。
もっというと、3レースすべてで結果は1着なのです。
直線追い風が吹くと、当然ながら向正面は向かい風になる。なので、向正面ではスタミナを消耗しやすくなり、直線は追い風の恩恵があるので切れ味が増す。向正面ではじっくりと脚を溜め、直線で溜めた脚を爆発させる騎乗がハマりやすい。ただ、1枠1番から枠なりに競馬すると前が壁になるなど周りの馬の影響を受けるリスクが大きいので、だったら最後方まで下げて大外を回ったほうがいいということも言えそうです。
デムーロ騎手は、そういう狙いでわざと出遅れているのではないかと感じてしまうのです。ただ、それが本当だとしたら、デムーロ騎手は風の影響を考えて戦略を組み立てている騎手であるとも言える。
とはいえ、最近はデムーロ騎手の伝家の宝刀である”戦略的出遅れ”が通用しなくなっているのも事実。競馬における風の影響が広く知られるようになるにつれ騎手も風の影響を考えた騎乗をするようになっており、直線追い風の日には向正面で極端にペースが落ちることが多くなっているからです。こうなると敢えて最後方に下げるメリットはなくなってしまいます。
話が逸れてしまいましたが、ここで言いたいことは、デムーロ騎手は風の影響まで考えてレースを組み立てている騎手なのではないかという仮説です。
東京の南風
この時期の東京競馬場は南風(3コーナーから4コーナーにかけて吹く風)が吹くことが多い。そして、南風が吹くと3、4コーナーで内を回った馬の好走率が上がります。
東京競馬場で南風が吹いた日のレースをいくつか見てみましょう。
2021年2月21日(日)東京11RフェブラリーS
2020年5月10日(日)東京11RNHKマイルC
2021年5月16日(日)東京11Rヴィクトリアマイル
どのレースも勝負どころでインを回っている馬の好走が目立ちます。先週のヴィクトリアマイルで2着に入ったランブリングアレーはゴール前だけみると外から差したように見えますが、画像を見ればわかるように、ポイントは直線向くまでインで我慢をして、直線に向いてから外に持ち出している点ではないでしょうか。
上記の写真は20年NHKマイルCの4角手前ですが、コーナーで勢いをつけすぎてしまったのかサクセッション(5番人気14着)は外に大きく振られてしまっています。
どうして南風が吹くとイン有利になるのか?
そのメカニズムははっきりとはわかっていませんが、前述のサクセッションの例でも感じるように、筆者は4コーナーでのロスの影響だと仮説を立てています。
4コーナーで外を回って仕掛けて上がっていこうとすると遠心力に加え、風によって内から外に押される力も加わるので、その力に抗うために余分なスタミナを要求されるし、単純に外に膨らみやすくもなるので距離ロスも大きくなりやすい。だったら追い出しを遅らせれば外に膨らむ心配もなくなるのかもしれないが、そうするとコーナーワークでのビハインドもあるので直線に向いた時点で前の馬との差が大きくなり過ぎてしまい、それを直線で挽回するのが難しくなるからなのかもしれません。
グランアレグリアくらい力の抜けた馬なら、そういった多少のビハインドも難なく挽回できるのですが、そういう馬は稀。馬の能力に頼らない競馬で上位を目指すのなら4コーナーでロスのない立ち回りを心掛ける必要があると思うのです。
そして、オークス当日の東京競馬場も南風が吹いていました。
デムーロ騎手のオークス騎乗を振り返る
風が南風で、デムーロ騎手が筆者のいうように風を意識して戦略を練る騎手だったとしたら。これまでの内容を総合すると、3、4コーナーではインで我慢する選択をするはずです。
しかし、オークスは逃げ馬不在でスロー濃厚という下馬評とは裏腹に先行争いが激しくなり、前崩れの展開になったとはいえ、ユーバーレーベンで勝利したデムーロ騎手は向こう正面で外に持ち出して、内を突くどころか、最初から外を回る気満々でした。
ということは、デムーロ騎手が風を意識して騎乗する騎手だという仮説は間違っていたのでしょうか?
そう思いながら、向こう正面から直線に向くまでのデムーロ騎手の動きをみてみたら大変興味深いものだったのです。
先にも述べましたが、南風は3コーナーから4コーナーにかけて吹く風ですが、コーナーを回っているときは刻一刻と影響を及ぼす向きが変わります。これまでは4コーナー付近の影響ばかりをクローズアップしていたのですが、3コーナーを回るときには外から内に押してもらえる方向に吹くので、外を勢いつけて回ってもロスが生じにくいし、3、4コーナーの中間点あたりでは追い風になる。というわけで、3、4コーナーの中間点までは恩恵もあるのです。ただ、そこでの恩恵を活かそうと勢いをつけすぎてしまうと4コーナーでのロスが大きくなりすぎてしまうので、そうならないためにもあらかじめ内を回るほうがベターだと考えていました。
なので、もし3、4コーナー中間点までの恩恵を受けつつ、4コーナーでのロスを減らせるならそちらのほうが理に適っている。でも果たしてそういう騎乗が可能なのか疑問だったので、これまで考えてこなかったのです。
デムーロ騎手の騎乗を詳しく見ていきましょう。
残り1200m付近。明確な意図を持って外に持ち出したように見えます。
残り800m手前。この付近は追い風になっているはずで、それを活かすために大外を回っているのではないでしょうか。馬場の良し悪しも考えているのかもしれませんが、ここは風の影響についてだけ考えているので、馬場のことは無視しています。
残り800m過ぎ付近。この辺から風は追い風から横風(内から外に押す風)に変わるところ。下げて内に寄せているようにみえる(本当は周りの馬の勢いが増して、徐々に外に張り出して来ているのだと思うのですが……)。
4コーナー手前。周りの馬の勢いが増して、どんどん外に張り出して来ているので、内に入ったように見えるが、コーナーワークで距離損しないように意識しているだけでは。800m過ぎからも勢いに任せて外を回ったスライリー(ピンク帽外)はかなり外を回らされているし、デムーロ騎手も勢いに任せていたらスライリーのさらに外のポジションになっていたと思われる。
直線に向いてから外に出す。4コーナーで外を回っている馬は外に振られる力に抗いつつ、スピードもコントロールしないといけないので、ポジションを押し上げ切れておらず、直線に向いて外に持ち出しただけスライリーを捕らえる勢いになっています。
ということで、結論としてはこれだけ状況証拠があれば、やはりデムーロ騎手は風の影響を考えて騎乗する騎手といえるのではないでしょうか。
ただ、3、4コーナーの中間点までの恩恵をつけつつ、4コーナー付近のロスを最小限にするにはこうすればいいと見せつけられたので、脱帽するしかありません。
とはいえ、騎乗ぶりがあまりにもチャレンジングなので、目論見通りの騎乗ができなかったというケースも多そう。なので、成功確率がどれくらいなのかは別で考える必要があると思っていますが……。
あと、4コーナーで大外回ってゴール前で脚が枯れることがなかったハギノピリナは不気味な強さですね……。
ここから先は
政治騎手名鑑2021[note版]
「馬券術政治騎手名鑑2021 Go to ケイバ!」では、紙幅の関係で上位30人までしかバイオリズムのグラフを入れることができませんでした…
みなさんに競馬を楽しんでいただくため、馬券の参考にしていただくため、頑張ります!これからもよろしくお願います!