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シフトチェンジ:競馬界に吹く若手騎手の新風
今年もアレを書いています。毎年恒例の政治騎手名鑑です。今作のテーマをちょっとだけ紹介します。
22年は若手騎手たちの躍進が目立ちました。というのも22年は5人の初GⅠ制覇を果たしたジョッキーたちが現れたのです。それだけではなく若手騎手の進化はとどまることを知りません。それを深く理解していただくために、簡単に歴史を振り返ってみたい。
2016年のリーディングトップ10の顔ぶれを見てみると、以下の通り。
戸崎(36歳)
ルメール(37歳)
川田(31歳)
デムーロ(37歳)
福永(39歳)
内田博(46歳)
田辺(32歳)
武豊(47歳)
和田竜(39歳)
岩田康(42歳)
※年齢は2016年当時のもの。
20代でリーディングの上位に入った騎手はひとりもいませんでした。そのちょっと前の時代はジョッキーのスター不足を地方の名手を移籍させることで補っていた。それだけには飽き足らずその前年にはルメール騎手とデムーロ騎手がJRAに移籍。40代後半になった武豊騎手らベテラン勢も元気で、新陳代謝がほとんど起こっていなかった。ただ、そういう風潮に最近になってようやく変化が起こってきたのです。
そこで、リーディングトップ10における20代の騎手の推移を見てみます。
2016年:0人
2017年:0人
2018年:1人
2019年:2人
2020年:2人
2021年:3人
2022年:4人
2023年:5人※10月9日時点、以下のデータも同じ
23年は、横山武、岩田望、坂井、鮫島駿、西村淳という5人の20代ジョッキーがリーディングのトップ10に名を連ねている。
ジョッキーを一人前に育てようと思ったら膨大なコストがかかる。かつての徒弟制度が崩壊し、膨大な負担を覚悟の上で自前でジョッキーを育てようという気概がなくなり、JRAにふさわしい人材がいないなら地方や海外から完成品を輸入すればいいと、当時は簡単に考えていたのではないでしょうか。競馬の進化を考えると馬を育てるのと同じくらい、人を育てるのも重要なのに、余所から連れてくることばかり考えていたので、新陳代謝が機能していていなかったといっても過言ではないでしょう。
しかし、何が潮目だったのかはハッキリしませんが、最近になってやっと若手が育つ土壌が整ってきたように見えます。
詳しくは川田騎手の記事で説明していますが、昨年は熱心にジョッキー36歳ピーク説を唱えていました。というのは名手が36歳を迎えるときに名馬に出会い、それが時代の節目になるからです。それを簡単に振り返ってみるとこういう感じになります。
1984年:岡部幸雄騎手36歳→シンボリルドルフで三冠達成
2005年:武豊騎手36歳→ディープインパクトで三冠達成。岡部引退。
2013年:福永祐一騎手36歳→エピファネイアでダービー2着。武豊騎手がキズナで勝利し復権。
2022年:川田将雅騎手36歳→ダノンベルーガでダービー4着。武豊騎手がドウデュースで最年長勝利。
武豊騎手が後輩騎手の台頭を二度にも渡って阻止。川田騎手が政権を掌握することができなかったので、下の世代にチャンスが回ってきたのかもしれません。22年の若手の活躍にはそういう意味があったと筆者は考えています。
ただ、今年リーディングトップ10に入っている騎手の顔ぶれを見てみると。横山武騎手以外はすべて関西所属で、関西に偏っている印象があります。
若手騎手の躍進は関西でしか盛り上がっていないのでしょうか。
そこで、ジョッキーの東西格差から見ていきたいと思います。
今の競馬が西高東低なのは周知の事実です。この夏、大工事の末に美浦トレセンの坂路が改修され10月に新装オープンしたのも東西のレベル差を縮めるための施策でした。しかし、馬より東西格差の深刻度が高いのはジョッキーです。関東はトップ10で西に圧倒されているだけでなく、これまでの勝ち星で比較しても、関東1008勝、関西1590勝と関西の騎手が関東の1.5倍以上の勝ち星を稼いでいる。
とはいえ、この勝ち星の差が腕の差だとは思っていません。そもそも東西では現役ジョッキーの数自体が全く違う。
関東所属の現役騎手:71人
関西所属の現役騎手:79人
確かに関西のほうが多いとはいえ、勝ち星ほどの大きな差はないと突っ込まれてしまいそうですが、23年は福永、竹之下の関西騎手2名が引退しただけではなく、今年デビューした新人騎手も関東4名、関西2名と関東のほうが多い。そこで差が詰まってしまったものと考えると、東西の数にはやはり差があるのでは。
東西の現役ジョッキーの数に差があると更なる格差につながる可能性がある。今後も東西の人材を均等にするために関東所属でデビューする騎手が多くなるのかもしません。ただ、現状を放置したらまずい。せっかくJRAのジョッキーとしてデビューできたのに、関東所属になったというだけで厳しい状況にさらされて芽が出ないまま終わってしまう騎手を量産しかねないからです。なので、もう少し深く考察してみます。
関東馬で123勝中100勝を挙げ、関東圏の競馬場で94勝挙げているルメール騎手は関西所属ではあるものの、関東の騎手と考えるべきではないでしょうか。そうなると関東所属で拠点が関西の吉田隼騎手や西塚騎手は関西にカウントしなければならないなどややこしい話が出てきますが、関東馬での勝ち星が多いデムーロ騎手の存在もあるし、シェアを考えればルメール騎手以外は誤差として相殺してもいいのではないでしょうか。
ただルメール騎手を関東所属扱いにしても、まだ関西所属ジョッキーの勝ち星が優っているし、現役ジョッキー一人当たりの勝ち星で比べても関東15.7勝、関西18.8勝でまだ関西優位は揺るぎません。これは騎乗できる馬の質による部分もあると思うので、今度は馬質にアプローチしてみます。
東のゆるゆるペース頻発の原因は
関東騎手が置かれた厳しい環境にあった
単勝オッズを騎乗馬の質と仮定するなら、関東と関西のジョッキーの騎乗馬の平均オッズは関東82.1倍、関西59.4倍、ここにも大きな差が。単勝10倍未満の勝ち目のある馬への騎乗数は関西のほうが2024鞍も多く、単勝万馬券の勝ち目の薄い馬の騎乗数は関東が901鞍も多い。なので、東西ジョッキーの勝ち星の差は騎乗馬の質による部分も大きいと考えられます。
もちろんいい騎乗馬に恵まれるためには、騎乗ぶりでアピールして信頼を勝ち取らないとダメなので、積み重ねの結果ともいえます。ただ、環境による影響も否定できない。
というわけで、騎乗馬の質の影響を排除した状態で東西の騎手の成績を比較できればいいという結論に至りました。
そこで筆者の強力な武器、USM(馬力絞り出しメーター)の登場です。USMとは、騎乗馬の単勝オッズ通りに平均的な結果を残した場合の成績を推測し、それを実際の成績と比較して人気以上に走らせているのか、取りこぼしがあるのかを数値化した指標。「100%を超えれば人気以上の結果を残している」となり、「100%を割ると取りこぼしている」と解釈できます。早速、見てみましょう。
東西ジョッキーのUSMを比較
関東
単:97.8%
連:99.4%
複:100.4%
関西
単:100.7%
連:99.9%
複:99.4%
関東ジョッキーは馬の質による影響を排除して比較しても1着を取りこぼしていて、関西は人気以上に勝たせているという結果となってしまいました。こうなるとさすがに「東の騎手だって腕は西には負けていない」と強弁するのは無理がありそう。騎手の東西格差は思っていた以上に根深いのかも。
それでも、腕に差があると結論づけるのは短絡だと思います。複のUSMは関東のほうが高い。USMの東西の違いから次の仮説が成り立つのではないでしょうか。「関東の騎手は着拾い意識が強く、関西の騎手は積極的に勝ちに行く」と。
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