ジョッキーの顧客満足度について考える
政治騎手シリーズ最新刊の「馬券術政治騎手名鑑2022 BIG BOSS!!」がまもなく発売となります。今作では新たな指標をして「顧客満足度」なるものを掲載させていただいたのですが、紙幅の関係で「顧客満足度」に関する詳しい説明を入れることができなかったので、ここで紹介させていただこうと考えました。
ちなみに、最新刊は以下のリンクから、予約できますので、よろしくお願いします(笑)
「馬券術政治騎手名鑑2022 BIG BOSS!!」1月20日発売予定
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USMの弱点を補う新たな騎手指標を導入
USM(馬力絞り出しメーター)ついての説明は以下の記事をご覧ください。
USMが出す騎手の評価は筆者の肌感覚にすごくフィットするのですが、乗り馬の質による影響を除いているので、実際の活躍度合いとは、あまりリンクしないという欠点があります。「乗り馬集めの政治力」が騎手の実力の核であるという主張をしているので、「政治力」まで含めた新たな指標の必要性を感じていました。とはいえ、簡単に正解が見つかるわけではなく、試行錯誤を繰り返すしかありません。
新たな騎手指標を作るべく、また一からいろいろ調べてみようと思い、21年の騎手成績をいろいろな角度から見つめなおしてみることにしました。着目したのは、騎手の着順別の回数です。騎手の成績をみるときは、どうしても馬券圏内に入った3着以内の成績にばかり注目してしまいがちですが、水面下の4着以下の成績にも何かヒントがあるのではないかと考えたからです。
着順別回数のグラフの形は予想外でした。正規分布のようなきれいなカーブを描くとイメージしていたのですが、多くの騎手がギザギザしたいびつな形になっていたからです。サンプル数が少ないという可能性もなくはないが、1年分のデータで少なすぎるということはないのでは。もちろん収束の早い遅いはありますが、さすがに半年試せばある程度の傾向は見えてくるはずです。
そこでこう考えました。
直線で2頭のマッチレースになればどの騎手も必死に勝ちを目指すし、3着争いならどうにか馬券圏内まで持ってこようとする。5着に入って掲示板に確保すれば下級条件なら次走の優先出走権がもらえるし、8着に入れば賞金ももらえる。1着か2着か、3着か4着かといった着順一つで天国と地獄くらいの差があるところで必死に頑張るので、人為的にデータが歪められているのかもしれないと……。ギザギザした形の裏には次のような理由があるように見えてきたのです。
1着→勝ち切る
3着→馬券圏内に入る(それが人気薄なら馬券ファンに喜ばれる・笑)
5着→掲示板に載る(下級条件なら次走の優先出走権がもらえる)
8着→賞金圏内(3連連続9着以下で出走制限のスリーアウト制から逃れられる)
ということは、ここぞの場面で勝負強い騎手は1、3、5、8着の回数が多く、競り負けてばかりの勝負弱い騎手は2、4,6、9着の回数が多いのではないかという推測が成り立ちます。そういう視線で改めてグラフを眺めてみると大変興味深いものでした。
勝負強い騎手、勝負弱い騎手
いま売り出し中の横山和騎手のグラフをみると1着の回数に対し2着の回数が極端に少ない。ただ、3着は4着よりも多く、5着より6着の回数のほうが多いものの8着は9着よりも多く、トータルでみて1、3、5、8着の回数が多い。こういう成績の騎手が「勝負強い」といえるのかもしれません。
戸崎騎手も、1、3着の多さが目立ちます。3着の回数が4着の倍近くあり、どうにか馬券圏内を確保しようという意識が見て取れます。馬券ファンにとって3着と4着の間は天国と地獄の境目。どうにか3着以内をキープしてくれるジョッキーは非常に頼りになる存在といえるでしょう。
和田竜騎手は5着の回数の多さが目につきます。5着に入れば(3勝クラス以下なら)優先出走権がもらえます。どうにかして掲示板を確保することで関係者からの信頼を勝ち取れますし、優先出走権があれば間隔を詰めてレースに使えるので自分の騎乗機会を増やすことにもつながります。
木幡巧騎手は8着の多さが際立っています。8着と9着では、陣営にとっては大違い。8着なら賞金をもらえますが、未勝利馬が3戦連続で9着以下になると出走制限がかかる(いわゆるスリーアウト制)。木幡巧騎手の突出した8着の多さは、スリーアウト制に引っかからないようどうにか8着までもってこようという意識の表れではないでしょうか。
勝負事には、勝者の数以上に敗者がいるのが常。パイの奪い合いなので、目先の相手に先んじなければ栄光をつかみ取ることはできません。勝負強い騎手がいるのなら、その裏には競り負けてばかりの勝負弱い騎手もいるに違いない。
岩田望騎手は、1着が88回に対し、2着が110回とかなり1着か2着かというところで、勝ち切ることが出来ていない印象です。こういう部分がなかなか重賞タイトルを手にできないことに繋がっているのかもしれません。
鮫島駿騎手も4、6着が多く、ここぞという競り合いの場面で勝負弱いタイプなのかもしれません。もちろん、天皇賞(秋)、JCのサンレイポケットのような大健闘の4着もあるので2、4、6着がすべて競り負けた結果とはいいませんが、騎手の習性を考えるとひとつでも着順を上げたいはず。こういう着順傾向の騎手は、勝負弱いと言わざるを得ないのでは。
幸騎手は4着の回数が突出して多い。馬券ファンにとって僅差の4着で馬券をはずすことはストレスの元、幸騎手の4着で悔し涙を流した大勢の馬券ファンがいるはずです。
江田照騎手と吉田豊騎手は6着と9着の回数の多さが目立ちます。優先出走権や着賞金には執着していないだけなのかもしれませんが、騎手の目線に立ってレースを見ると5着争いと8着争いは熾烈になる場合が多く、どの騎手も身上金の獲得や出走機会の拡大のため懸命に努力しているので、意識のちょっとした差が結果に大きく影響すると考えています。
勝負強さ率を弾き出してみると……
1、3、5、8着が多い騎手は勝負強く、2、4、6、9着が多い騎手は勝負弱いという前提に立てば、前者の回数を後者の回数で割ることで勝負強いのか勝負弱いのかを判定できるのではないかと考えました。これを「勝負強さ度」と名付け、以下の計算方法で求めることにしました。
「1、3、5、8着の回数」÷「2、4、6、9着の回数」=勝負強さ率
「勝負強さ率」は全騎手の平均がだいたい1になるので、1を超えると勝負強い騎手と呼べるでしょう。前項で取り上げた騎手たちの勝負強さ率を出してみると以下のようになります。
横山和騎手:1.17
戸崎騎手:1.29
和田竜騎手:0.99
木幡巧騎手:0.97
岩田望騎手:0.95
鮫島駿騎手:0.88
幸騎手:1.00
江田照騎手:0.86
吉田豊騎手:0.73
横山和、戸崎の両騎手の数値が際立っている。係数にすることで、勝負強いか勝負弱いかを数字で判断できるようになり、勝負強さの客観的な比較も可能になりました。
騎手にとっての顧客は誰?
騎手の着順別のグラフを検討していくうちに、ギザギザした形だけでなく、和田竜騎手のようにキレイな山形になっている騎手もいることに気づきました。和田竜騎手は5~7着の回数がとにかく多い。
日本競馬においては、馬券ファンが馬券を購入したお金が賞金や出走手当の原資になっているので、騎手の収入もほとんどは元は我々の馬券代といっても過言ではありません。最近は地方競馬も売り上げが上がっていますが、もし誰も馬券を買わなくなってしまったら、かつての地方競馬のように賞金を削られ、手当ても削られ、ジョッキーといえども生活していくのがやっとの収入しか得られなくなってしまう。なので、騎手にとっての一番の顧客は馬券ファン。ファンを大事にすることが重要といえます。
ただ、騎手は馬を依頼される立場で、多くの馬を依頼されるようになるのが成功への近道でもあります。そして、どの騎手に馬を任せるのかを決めるのは調教師や馬主などの関係者なので、そちらが騎手にとっての顧客ともいえます。
と考えていくと、どちらを顧客としてより重要視しているかで、騎手の成績も変わってくるのではないか、という仮説も成り立ちそうです。
4着~8着の成績は関係者にとってはありがたいのかもしれないが、馬券ファンからすれば4着もビリも一緒だからです。
さきほど、和田竜騎手は5~7着の回数が多いと書きましたが、高確率で優先出走権と着賞金をゲットしてくれるので関係者にとっては大変ありがたい存在といえますが、馬券ファンからしてみればもう少しで馬券圏内に入れそうな騎乗を繰り返されるので、ストレスだけを与えられるジョッキーでしかありません。
勝利だけを目指して、1着を獲れないなら惨敗やむなしといった思い切った騎乗をしてくれる騎手のほうが馬券を買ったときの納得感が高い。逆に、スローペースなのに後方でじっくり脚を溜めて、直線差を詰めて来たものの、届かず4着なんて競馬をされると、「バテて馬群に沈んでも構わないからもう少し早く仕掛けてもらえないものか」と考えるのが人情です。
しかし、騎手や関係者にとっては4~8着も大事というのが現実なのです。逃げは決まれば鮮やかですが、競り合いになったり後続の厳しいマークにあったときは惨敗になりやすく、そういった騎乗を嫌がるオーナーも多いと聞きます。8着以内と9着以下とでは、馬主経済からいえば天と地の差だからです。勝ちに行って、惨敗したせいで、馬主との関係が壊れるということだってある。
例えば福永騎手と大魔神佐々木氏が一時絶縁状態となったエピソードは有名です。17年の宝塚記念でシュヴァルグラン(6番人気8着)に騎乗した福永騎手が逃げる競馬をしたことに対し、同馬を所有する佐々木氏はその騎乗に不満を持ったといわれている。G1ならなおさら着賞金も馬鹿にならない額だし、最善を目指すより、次善の掲示板以内を考えて乗って欲しいと馬主が考えるのもわかります。
結果、馬券ファンよりも関係者目線を強く意識している騎手は、騎乗ぶりが消極的になりやすい。
ピンパー度が一目でわかる指標
というわけで、着回数を使えば、馬券ファンにストレスを与えない1着か惨敗かのピンパータイプの騎手と、関係者目線を強く意識し着拾いを優先するタイプの騎手の見極められるのではないか、と考え、次の計算式を思いつきました。
「1~3着回数+9着以下回数」÷「4~8着回数」=ピンパー度
ピンパー度が大きいほど、「勝ちにこだわるピンパータイプ」のジョッキー、逆に数字が小さい騎手は「着拾い優先タイプです。
また「1、3、5、8着」が多くて「勝ちにこだわるピンパータイプ」なら馬券ファンの満足度は高くなりそう。一方、「2、4、6、9着」が多く「着拾い優先タイプ」は、馬主さんからのウケは良くても、馬券ファンのストレスの素になってるジョッキーです。両方の顧客を満足させるのが一番ではありますが、二兎は追えないのが世の常です。
先ほど取り上げた、騎手9人のピンパー度を見てみるとーー。
横山和騎手:1.74
戸崎騎手:1.48
和田竜騎手:1.20
木幡巧騎手:1.53
岩田望騎手:1.58
鮫島駿騎手:1.70
幸騎手:1.39
江田照騎手:2.28
吉田豊騎手:1.56
上位50位までの騎手の平均値が1.68なので、それを超える騎手はピンパー度が高いと判定できそうです。2.28の江田騎手以外は着拾い傾向のほうが強い騎手といえるでしょう。
年間5勝未満の騎乗馬の質が低いマイナー騎手は9着以下の成績がほとんどで、必然的にピンパー度が高くなる場合がありますが、データに修正を加えようとすると筆者の余計な思想まで入ってしまいかねないので、手心は一切加えずそのまま算出しています。しかも、こういうマイナー騎手はストレスの対象になりにくく、負けて当然と思われているところもあるので、馬券ファンにマイナスの印象を与えてないという面もあると思っています。
「顧客満足度」で騎乗スタイルもわかる
「勝負強さ率」「ピンパー度」という2つの指標を見てきましたが、この2つを掛け合わせることで馬券ファン満足度の高い騎手とそうではない騎手も見えてくるのではないでしょうか。以下の計算式で「顧客満足度」を算出しました。
勝負強さ率×ピンパー度=顧客満足度
ここぞの競り合いに強く、常に勝ちを意識した騎乗をしてくれる騎手は「顧客満足度」(関係者目線ではなく、馬券ファン目線ですが……)が高くなり、ここぞの競り合いに弱く、常に着拾いの騎乗に徹している騎手の「顧客満足度」は低くなるのです。
先ほど取り上げた、騎手8人の顧客満足度はこうなります。
横山和騎手:2.04
戸崎騎手:1.90
和田竜騎手:1.19
木幡巧騎手:1.48
岩田望騎手:1.50
鮫島駿騎手:1.50
幸騎手:1.39
江田照騎手:1.96
吉田豊騎手:1.14
上位50位までの騎手の平均値が1.77なので、これを超える騎手は顧客満足度が高いとジャッジできます。ここぞの競り合いに強くても、それが着拾いに徹したものだと数値が下がり、逆に競り合いに弱くても、常に勝ちを意識した騎乗をしている騎手は顧客満足度は高くなる。「顧客満足度」をチェックすれば、消極的で着拾いの騎乗ばかりの騎手も瞬時にわかります。
積極的な騎乗を心掛けている騎手は顧客満足度が高くなるなど、騎乗ぶりともリンクしてくるので、展開を読む際にも参考になるはずです。
トップジョッキーの「顧客満足度」を公開!
こちらのデータは21年10月末時点のものですが、「馬券術政治騎手名鑑2022 BIG BOSS!!」には、このようにUSMに加え、勝負強さ率、ピンパー度、顧客満足度と戦法別のデータが95人分掲載されています。積極的な騎乗で勝負に徹してくれる騎手なのか、着拾いを優先する騎手なのかが一目瞭然です。
2021年終了時点の最新のデータもありますが、それをまとめるのが大変なので放置しています。「馬券術政治騎手名鑑2022 BIG BOSS!!」を購入して読んでいただけるとありがたいですが、いいねをたくさんいただけたり、記事を拡散していただければ、そのお礼として、最新の全騎手データをさせていただくかもしれません(笑)
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政治騎手名鑑2021[note版]
「馬券術政治騎手名鑑2021 Go to ケイバ!」では、紙幅の関係で上位30人までしかバイオリズムのグラフを入れることができませんでした…
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