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さよならを言えないものたち/さよなら、代行します

あらすじ

智彦はさよならを言えないものから依頼を受けて、さよならメッセンジャーとして別れを伝える役目を持つ者。なかでも智彦は動物たちからのメッセージを伝えることをメインとしている。今日も智彦は犬のさよならを飼い主に伝えた後、ある野良猫から依頼を受けて、いつもその猫に朝の餌をくれていた女性(タリア)へ、別れを告げに行く。

〇街中

智彦(28)の横を散歩する犬を連れた幸雄(65)が通りかかる。犬は智彦の方を見ると心に話しかけてきた。

犬「さよならメッセンジャーさんだ! お願い。この人に伝えて! 僕が死ぬのはこの人のせいじゃないって! 僕、今夜、病気で死ぬんだ。でも、それは寿命なんだよ。どうしようもないんだ。この人は自分が異変に気付かないせいだって自分を責めるけど、そうじゃないって言って欲しいんだ」

犬は智彦に向って、じゃれつくような動作を繰り返す。幸雄が困惑気味に犬をおさえる。

幸雄「すみません。いつもは大人しいんですが」

智彦「いいえ、大丈夫ですよ。僕も犬好きですから。ところで、以前飼っていた犬と同じ症状が出てるんですが……」

幸雄「えっ」

〇街中(夜)

動物病院の前で智彦に頭を下げている幸雄。腕には毛布にくるまっている大きなもの。

幸雄「ありがとうございます。せっかく教えてもらったのに、救うことができず。ううっ」

智彦「いえ、急変する病気ですから」

幸雄「教えていただいたので、最後の時間をちゃんと過ごせました」

智彦「きっとワンちゃんも御主人と最後のときを過ごせて幸せだったと思います」

幸雄「ありがとうございます。あの子は妻が死んでから飼い始めた子で、子供のいない私には唯一の肉親でした。どうして早く気づいてあげられなかったかと」

智彦「僕の犬も同じ病気で死にましたが、この病気は突然死するものです。飼い主にも犬自身にもどうすることもできません。突然のさよならに僕も戸惑いましたが、幸い、あなたと同じように看取ることができました。きっとあなたのワンちゃんも最後にご主人といられて幸せだったと思いますよ。ちゃんとさよならが言えたと思っています」

幸雄「そうでしょうか。そうだと嬉しいです。でも、あなたに言われるとそんな気がします。この子をひとりで死なせずに良かった――。(嗚咽)今夜はふたりで過ごして、明日荼毘にふすつもりです。本当だったら、今夜は出かける予定だったんです。出かけなくて良かった。本当にありがとうございます」

智彦「いえいえ。それでは失礼します」

立ち去る智彦の後ろで幸雄が犬の亡骸を包む毛布に顔を埋め嗚咽している。歩き出す智彦の耳に犬の声が聞こえてくる。

犬「さよならメッセンジャーさん。ありがとう! あのね。僕の友達の猫ちゃんもさよならメッセンジャーさんにお願いしたいことがあるんだって。もう魂になってるんだけど聞いてくれるよね」

智彦「いいよ。それが僕の役目だからね」

智彦が足と止めた道端に猫の死体。その傍に膝をつく智彦。

猫「さよならメッセンジャーさん。お願いがあるの。私にいつも朝、餌をあげてくれた優しいお姉さんがいるの。でも、私、車に轢かれてもう虹の国に行くの。だから、お姉さんが悲しまないように、さよならを伝えて欲しいの」

智彦「その依頼、引き受けたよ。だから、安心してお行き」

猫「ありがとう」

〇アパートの廊下(朝)

玄関から出たところであたりを見回すタリア(25)。そこに現れる智彦。タリアは警戒するものの、智彦がスマホの猫の写真を見せると表情をゆるめる。

タリア「ネコちゃん」

タリアはたどたどしい日本語。

智彦「この猫、あなたの家で毎朝、餌をもらってましたよね。すみません。今度、僕が飼うことになったんです」

タリア「そなのですか? あなたの家では猫が飼えるのですか?」

智彦「はい。だから安心してください。ちゃんと冬は暖かく、夏は涼しくし暮らせるようにします」

タリア「良かった。ワタシ、餌あげることしかできない。その猫、外国の猫の血混じってる。ワタシと一緒。いつもお腹空かしてる。でも、飼える部屋移れない」

智彦「もう大丈夫です。ですから、今日は猫の代わりにさよならを言い行きました。ここに来なくても心配しないでください」

タリア「わかりました。ありがとうございます」

智彦「では、失礼します」

タリア「あ、ちょと待ってください」

タリアは一度部屋に戻ると、猫の餌の袋を持ってきて、それを智彦に渡す。

タリア「これ、まだ買ったばかりだから。あの子はこの餌好きです」

智彦「ありがとうございます。助かります。では、猫が待っているので」

タリア「ダリア、いいました」

智彦、立ち去りかけて振り向く。

智彦「ダリア、いい名前ですね。そのまま使います」

タリア「ありがと、ありがと。ダリア、ふるさとの母と同じ名前です」

智彦、立ち去る後ろで、タリアが顔を覆ってうずくまる。小さな嗚咽。

タリア「幸せに、ダリア」

〇街中

餌袋を抱えて空を見上げる智彦。

智彦「ダリア、ちゃんとサヨナラを伝えたよ。だから、君は虹の国で彼女を待っていればいい」

にゃあんとどこかで猫の声がする。それに微笑む智彦。その智彦の前に麻耶(17)が現れる。

麻耶「あなた、動物専門のさよならメッセンジャーでしょう? 私もさよならメッセンジャーよ。でも動物じゃない。人の……。あなたにさよならを伝えに来たの」

つづく





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