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雨月怪談・新月「蛇の神様」

そのバーでは、雨の日に話が途切れたら怖い話をするというルールがある。

新月の夜、マスターがお客から聞いたのはこんな話だ。

おばあちゃんの家は天井近くに神棚がある。
そこにおばあちゃんは朝夕と生卵をそなえていた。
すると神棚の開いた扉からヘビが顔を出して、卵を丸のみして帰っていく。
もちろん生きている本物のヘビだ。
「おばあちゃん、あれは何?」
「あれはおうちの守り神よ。
こうして朝夕拝んんでいれば、困ったときに助けてくれる」
そう言われても怖かった。

ある夏の日、私は気づいてしまったのだ。
「おばあちゃん、朝のヘビと夕方のヘビは違うやつだよ」
「そんなことはないよ。
あれは一匹のヘビだ。
ヘビの顔なんてわかるものかい」

その日、おばあちゃんの家で、私はひとりのお留守番をしていた。
そうしたら、ずるりずるりと上から音がする。
見上げると、四つのまなこと目が合った。
あゞ、ヘビの頭が二つある。
ヘビは確かに一匹だった。
ただ二股の分かれた先に別々のカマ首がある。
赤い舌をゆらすヘビたちは、私を見下ろして言った。
「お前には、われらが見えているのだろう」
うなずく私を見て、ヘビたちは「シオドキだシオドキだ」と言い合っている。
どうやら出ていく相談らしい。
「どうしたら出ていかないんですか?」
「お前に卵をやろう」
受け取ったのはうす青い卵。
「それをかえせ、それをかえせ。
かえせば、いぬでおくぞ。
ただしかえる前に割れば、
お前を取ってくらおうぞ」

ヘビの言葉におびえながら、私は卵を大事に大事に手の中であたためる。
でも、すぐに落としてヒビが入ってしまった。

怖くなった私は卵をフライパンで目玉焼きにして、おばあちゃんに食べさせた。
おばあちゃんは「おいしい、おいしい」と言って全部たいらげた。

その晩。
「よくも焼いたな、よくも焼いたな。
おしまいだ、おしまいだ」
ヘビはそのまま家から出ていった。

ものけの殻となったヘビの穴には、小さな骨がいっぱい散らばっていた。

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