小説『風を感じて』
日差しは初夏、帽子のつばの先から覗く青空は眩しくて、深い青に白い筆を掃いたような色をにじませている。
空気はまだ春、少し冷たくて日差しとはアンバランス。でも気持ちいい。
風がお気に入りのシャツワンピの裾を揺らす。フェミニンなラインなのに、襟元がしっかりしていてきちんと感が出る。お手入れも楽で、そんなところも気に入っている。
足取りはまるで新しい学校を楽しみに、少しの不安をにじませながら歩く感じ。おろしたての新しい靴は、靴屋で一目惚れした落ち着いたレンガ色。低いヒールと柔らかい革がもう私の足に馴染んでいる。
それまで履いていた靴を箱に入れてもらい、馴染んだ街を歩いている。古い靴はお店で処分してもらおうか少し迷ったけど、捨てるのはいつでもできると思い直した。荷物になるけど、持っていく。
昨夜会った男の顔を、ふと思い浮かべる。彼は古い靴かもしれない、と。
私の足取りは、こんなにも軽い。