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小説『風を感じて』



 日差しは初夏、帽子のつばの先から覗く青空は眩しくて、深い青に白い筆を掃いたような色をにじませている。

 空気はまだ春、少し冷たくて日差しとはアンバランス。でも気持ちいい。

 風がお気に入りのシャツワンピの裾を揺らす。フェミニンなラインなのに、襟元がしっかりしていてきちんと感が出る。お手入れも楽で、そんなところも気に入っている。

 足取りはまるで新しい学校を楽しみに、少しの不安をにじませながら歩く感じ。おろしたての新しい靴は、靴屋で一目惚れした落ち着いたレンガ色。低いヒールと柔らかい革がもう私の足に馴染んでいる。

 それまで履いていた靴を箱に入れてもらい、馴染んだ街を歩いている。古い靴はお店で処分してもらおうか少し迷ったけど、捨てるのはいつでもできると思い直した。荷物になるけど、持っていく。

 昨夜会った男の顔を、ふと思い浮かべる。彼は古い靴かもしれない、と。

 私の足取りは、こんなにも軽い。



※『小さな小さな文学賞vol.1』投稿作品
テーマは「街を歩く」
文字数400文字以内。

https://www.bekkobooks.com/chisanachisanabungakusho-1

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