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雨 i 卯月廿一日
火乃絵は雨が好きだ。
たぶんものすごく好きだ。
雨は時間をくれる。——
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中学生のとき サッカーは好きだけど部活はきらひの火乃絵は 雨で練習や試合が中止になるのがうれしかつた といふより そもそも予定といふものがきらひの火乃絵は それが急になくなつたときぽつかりできる 雲の孔みたいの時間 をいつでも欲してゐた とおもふ
それはおそらく 予定といふ耐へがたいものをやり過ごすための せめてもの処方箋であつたにちがひない が、それにしても そこで得られたじかんは およそかけがへのないものゝやうに想はれた
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移動中の電車にもいえる。この時間は、どのみち移動のために必要なので、車内で何をしていようが構わない。ちょうど一車両ぶんくらいのじかんの隙間なのだ。(だからなるたけ車内は空いているほうがいい、)
火乃絵はつねの考えごとをいったんとりやめにして、窓の外や車内の人々をぼうっと眺めたり、詩を書いたり、こういうときようの本を読んだりして愉しんでいる。——
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つづく