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火乃絵のロクジュウゴ航海日誌〈scrap log〉 第二百廿九日 8/15

朝に寝て、一日ぢゅう夢を見ていた。夢を見ることがしごと、といいたいところだけども、じっさいは〝自殺しないこと〟がこの地上における火乃絵の唯一の仕事だ、そのためには夢も見るし、考えもする。これを書いているのだってやっぱりそうだ、

ということはおまえは〝死なないため〟に生きているのか? 何もしていなかったら生きていないのか、——生きるためにいきる? すくなくともいえるのはいづれにしても〝生きるということに意味はない〟ということだ、解放するにしても鎮めるにしてもここには魂しかない。——

さいきんよくおもう、ひのえにはこの日誌がある。ラッパーがラップを奪われたら息絶えるように(でなければラッパーでない)、歌人が歌を、詩人が詩を(しかし詩だけは奪うことができない)…

——これを始めたせいで火乃絵は詩から遠ざかっただろうか?

メディアをもつこと、——メディアは肉体だ。——

火乃絵には秘密がない、ひみつということがわからない。世界は沈黙している、ひのえだけがしゃべっている、火乃絵には隠すものがない…

愛するために生まれてきた? しかしかつて愛を知らぬにんげんに、うそいつわりなくどうしてそれができるか、感じたことのないものにどうやって感じいればよい、——

             *

〈無題〉
             白石火乃絵

八月の
母親の腹のなか
すでに靴を履いていた。

1995年、

              〈未完〉

文月八日

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