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火乃絵のロクジュウゴ航海日誌〈scrap log〉 第二百十六日 8/2

(モウ・・いちど・だ・け・・・)

……うっすらとしかきき取れない、もごもごした、かそけき、そんな声に火乃絵もならなければならない、

——でもたぶん今日の火乃絵はすこしうるさい、
ひのえのなかにはおしゃべりしたくて仕方がない女の子がいる、けれどそのおしゃべりをきいてくれるひとはいないので(火乃絵がじぶんのことにしか興味がないように——ほんとはそんなことないのだが、——みんなもひとのことにキョーミがない、けどそれはそれなりにわるいことでもない、じぶんを愛してこそだからだ、)どこかにそういう場をつくるしかない、ハルヒの〝ないんだったら自分で作ればいいのよ!〟という声はここぞというときにひのえをたすけてくれる。

こういう話をしているのも、さっきまでFall Guysの配信でたくさんしゃべっていたからだ。アーカイブを聴き直しながらこれを書いているのだが、ゲーム音声の調整をわすれていたので、ほとんどきき取れない(1時間すこし前からやや緩和される)、4時間くらいアタマをからっぽにして話しつづけていた。ふだんもひのえがひたすらしゃべっている動画や録画ならたくさん出している(今日の昼間すぎはウイルスについて話した)が、何かをしながらというのは初めてだった、とくにゲームだったからなのか無意識によく手が伸びていつもなら話すことのできない色々のことについてしゃべることができた、その刈り取りをしようとおもいこうしてききかえしているのだが、亡霊の呪言のように unclear の、埋もれてしまったきおくにもういちどここで手を伸ばさなくてはならない、

饒舌はしばしば沈黙に比して悪徳とされるが、このような speaking をとおしてしかつかみとることのできない無意識のないようがある、そのかんしょくをいかに書くことに転移できるか。それにしてもこの配信の火乃絵の声は水の中にあるようで、みなそこに落ちていったおしゃべりのきおくと重なって、少なくとも火乃絵ほんにんにとっては良い録画となった、それをすこしでも掬いあげたい。

ひとまかせにはしてられない、今夜は眠られぬものと覚悟せよ。〝俺の衰頽はつねに独語のはじまるところからはじまる〟——?

           ⁂
さて、夜である。出て行こうか、行くまいか。いずれにせよ、死霊のごとく私語する火乃絵のなかのオレンジの女の子の夢のあけぼのに於ける微動を止めることはできない。

〝ひとはかつて五分間と論理的に思考し得たことはないであろう〟と『不合理ゆえに吾信ず』のなかで埴谷さんはいうけれど、火乃絵においては十秒つづけばいい方である。にもかかわらずそのおしゃべりは地球が滅亡してもなおつづいていきそうないきおいである。——

いまもそうだ、火乃絵の右手はしゃべるように踊るように文字をかく、たとい五分間と論理的に思考することはできなくとも、ぶったおれるまでダンスすることはできる、起きあがったらすぐにダンス、ダンス、ダンス、ダンス、

 ダンス・ダンス・ダンス おどりたい
 夢で見たことある 同じとこ とちった
 ま・ま・まぶしいよ ステップ!
 心臓が止まっても もうダンスは止まらない
 夜の底で着飾って からまる足に笑われ
 Woo...耳の中でリズムきざんでる
 知らん顔のライト浴びて 真夜中を
 ダンス・ダンス………
 もたっても靴が脱げても
 もうダンスは止まらない
 さあ おどろうこのフロア 真夜中を
 ダンス・ダンス………
 もっともっと のっけておくれよ
 もうダンスは止まらない
 鮮やにジャンプするぜ 真夜中を
 ダンス・ダンス………
 うつ伏せになっても もうダンスは止まらない
 転びそう もち直して 欠伸して
 ダンス・ダンス………

  ——「ステップ!」RCサクセション


ちょっと息が切れて立ちあがるのが1テンポ遅れたすきに気づけば隣のうちゅうで独語しているもうひとりの火乃絵の声に耳を澄ませていた、だんだんとFall Guysのゲーム音が、その渾沌に身がひたってきて声をきき分けられるようになってきた、もしかしたらパチンコをしている人たちが火乃絵には堪えがたい宝石箱をひっくりかえしたようなあの滝のなかにいられるのはこういう感じなのかもしれない、それはぐしゃぐしゃした自然エネルギーの恵みの雨でさえあるかもしれない、キルケゴールや梶井基次郎さんのような天稟のおんがくの耳をもつ人にはたぶんとうてい堪えられたものではないであろうあの音が…

どこか砂浜らしきところから〝難聴感覚〟という音連れがあった。無意識の海に潜ろうとするとき、もしかすると或る種の耳の悪さのようなものもまた天然によって求められているのかもしれない、——

参考
「初音ミクの消失」cosMo@暴走P
『不合理ゆえに吾信ず』埴谷雄高
『エリーゼのために』忌野清志郎

水無月廿四日

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