火乃絵のロクジュウゴ航海日誌〈scrap log〉 第二百十八日 8/4
けっこうハイ・ボルテージで書いてきた航海日誌だが、今日は簡素に。——てきどに手を抜くこともこういうつづきものには必要だ。
さいきんは日が昇ってから寝ている(というのも航海日誌に力がはいってしまうからだが、)ので、午すぎに起きることが多い。押入付近でせいかつしている、折口信夫の『古代研究』を読んでいた、氣駕とLINEで小林秀雄の『本居宣長』について2時間弱話す。少し前に彼がサンオウに来たときは3時間くらい話した。どちらも録音を残してあるのでそのうちオモテに出す。この対話は今後も続けてゆき、いずれ本にしてしまおうと思う。——このへんは『偏向』まわりの話になる。
ロクジュウゴ文実ぜんたいとしては目立った動きはない、ときどきのゲーム配信(【内報】)と辻との週一回のラジオ「スタ会」があるくらいだ。メインの【広報】にはすでに130本の動画があがっているが、かれこれ2ヶ月以上更新されていない、アーカイヴは膨大にあるのでそろそろ再開したい。
白石火乃絵の【STAFF Note】【サンオウ通信】もいまある録音はすべて出しておきたい、音楽の権利関係や動画制作の煩雑さからストップしてしまっていた、——
辻はめづらしく朝から出掛けていた、さいきんは二人で何かするということがなくなった、恋人でも仲の良い友人でも半年いっしょにいるとすることがなくなってくる、こればかりはけっこうどうしようもない。——
よるになって頭痛がひどいので、noeさんの逆無言電話をききながら(これについてはいつか航海日誌でも触れたい、)横になっているうちに眠っていた。——
……ひのえは父親の漕ぐ自転車のうしろに乗っていた。どこかの川沿い、国道、柿の木坂や蒲田やそれからどこか知らないところ、立会川のようなところもあった、のんびりとした午後、クリーム色と緑。父はカーキの短パンに濃い水色のTシャツ。火乃絵は小学校低学年かそれより下くらい。
目が覚めるとその父親からメールがはいっていた、
「誕生日おめでとうございます。○○」
いろいろのことがあって、火乃絵は小さいときに父親にたいしてもっていたキモチをどこか忘れていた、自ら封印していたのだろう、箱を開けてみるとこれ以上はない誕生日プレゼントだとおもった、——こういうところまで手が書く手が動くのをみていると、日誌というのもやってみるものだとおもう、書かなければまたその箱は押入の下の隅のほうで埃をかぶりつづけていっただろう……
「火乃絵ってじつはお父さん子だったんだ…」ひのえのとはちがう丸い背中。動物みたいでかわいいとおもっていた。きっと夏休みだった、火乃絵はその太陽の匂いのなかでながくてふかい眠りについた。——
*
〈或る風信〉i
白石火乃絵
〈こんなこと書いたら詩がおわってしまう⁉〉
——それはあなた方をとこのせかいの話(コト)でしょう、
わたくしたちのほうではそんなことで詩はなくなったりい
たしません、
これでようやくあなたはわたくしたちの心の世界、それから
事物のほうへと歩きはじめることができるのではありません
か、あなたの書く詩は手紙です、これから先のあなたの苦悶
はそのままわたくしたちの苦悶となります、あなたのうちで
詩でないものは何一つなくなったのですから、そのをとづれ
に耳を澄ませ、言葉をおやりなさい、かれらは歌いはじめる
でしょう、あなたはその歌のほとりにたたずみ、デクノボー
のごとくその瞳を昏くおなさい——
風が吹いている
水無月廿六日