見出し画像

#2 《世界の陰》



 手色形楽のはなしを本格的にはじめるまえに、私がこれまでに何を考えて作品をつくって展示してきたのかを知っていただきたいので、いくつか過去に書いたテキストをとりあげたいと思います。美術(話をわかりやすくするために便宜的にこう書きます)の展覧会をやるときには、作り手は自分の思いや考え方を「ステイトメント」として書くことがあります。

今回は、8年前の2016年に台北で個展をさせていただいたときのステイトメントをここに掲出してみます。

《世界の陰》

 今回の展覧会では、2009年と2011年に制作した、人物を象った立像と、2014年から2016年にかけて制作した、紫を基調色に使った作品を組み合わせて展示します。

 この間、私が住み、制作する日本の社会には大きな変化がありました。2011年3月の東日本大震災を境に、貧困や原発の問題が一気にあぶり出されてきたのです。しかし、それらの根っこは、僕が作家活動を始めた1990年代の半ばからすでに潜在的にあったのだと感じています。

 僕の作品は直接的に社会を風刺するものではありませんが、そこに流れているムードを通奏低音のように響かせていると思います。

 人間が、自分が生まれてきた世界を受け入れ、生きていくには、物語によって示される意味づけのようなものが必要です。古くは宗教的な説話や神話がその役目を果たしていましたが、いまは貨幣や消費がそれに代わるものになっているのではないでしょうか。

 しかしながら一方で、僕は、そういう物語に安易に回収できないもののなかにこそ、世界の真の姿を見ることを可能にし、そのニュアンスを感じさせてくれる何かが隠れているのではないかとずっと感じてきました。僕が作品の中に執拗に「物語の滓」のイメージを集め、継ぎ合わせてきたのはそうした理由によります。

 僕が主として作品に使ってきた陶という素材は、脆いわれものである一方で、経年変化に非常に強く、半永久的に朽ちない素材でもあります。何千年か後の世界に、西暦2010年代の空気が伝わることをひそかに願っています。

いいなと思ったら応援しよう!