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【1】生卵を踏み潰した私は、MRIを取りに行った。 -全3編-
数年前。
今思えばどん底の入口。当時で言うといつもの朝。
朝はだいたい和食だ。
スタメンはご飯、納豆、味噌汁。割と毎日ちゃんと朝食を食べる方だ。
時間があったり、いつもよりお腹が減っているとそこに卵を投下したり、キムチを参戦させたりする。
そんな何気ないいつもの朝だった。
今日は卵、入れよう。
そう思って、納豆のあの白くて四角いパックに卵を割り入れる。
なにかと忙しい朝、使う食器は最小限で済ませたい。
パックにダイレクトに卵を入れる時は、一度納豆を混ぜてから入れるのがポイントだ。
既に必要十分なそのスペースで、ぴったりと固く収まっている納豆と生卵を一気に混ぜるのはなかなか至難の業である。あらかじめ納豆を混ぜておくと、彼らは新しいメンバーを柔らかく迎え入れ、卵を大きく混ぜられるようにねばねばとまとまって端っこに寄ってくれる。
だが、その日横着だった私は、なんとなく納豆を混ぜずに卵を割り入れた。
いつもよりも慎重に混ぜなければいけないが、まぁいいだろう。
キッチンから、右手に茶碗、左手に卵の入った納豆パックを持ってリビングへ向かう。
そう、もしあの時納豆を混ぜてから卵を入れていればこんなことは起こらなかったのかもしれない。
あまりにも平たくするっとしていただけかもしれない。
それでも私の左手は、パックを持った直後それが傾いたことも、卵の重みがなくなったことも、何も感じられなかったのだ。
リビングへ歩き出して5歩目くらい、足元に違和感を感じ、私が左足を見た時には、素足の指の間から、黄色とも透明ともつかないぬめぬめとした液体が我先にと足の裏から溢れているのである。
私は小さく悲鳴を上げた。
なんだこの気持ち悪い感触は。そして、なんだこれは。
それは当然ながら、まぎれもなく、生卵だった。
ふと左手を見る。納豆のパックに割り落としたはずの卵が、もちろん当然ながら消えている。そしてそいつが、私の左足の指の間という間に染め上げるように侵入している。
私は落胆した。
そして、観念した。
病院に行こう、そう思った。
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