ヒノトリ旅日記④ 〜大自然の中で、心の狭さに凹む私〜
本日が、カッパドキア初日。
いろいろあって昨日から泊まる予定だった洞窟ホテルに翌朝辿り着き、やっと予定していた旅程の動きに追いついた。
今日はこれからバスツアーに参加する。
迎えに来てくれたツアーガイドの人はとってもハイテンションな女性だった。名前はアイサ。地元の大学で地域の歴史を学び、その後この仕事に就いたと言っていたので25歳くらいだろうか。溌剌とした表情に鼻ピがよく似合っている。私たちもアイサに自己紹介をしてマイクロバスに乗り込んだ。
我々が最初のピックアップだったらしく、車内はまだ私とトリちゃんの2人。MAXで15人のツアーらしいけど、今日はどれくらいで回るんだろう。
バスはいくつかのホテルに寄ってメンバーは合計9人になった。1人でツアーに参加したイタリア人の女性と、別のホテルからピックアップされた同じくイタリア人のカップルが1組。そしてモルディブから来たという4人家族、そして私たち。
モルディブの人って初めて会ったかもとちょっと驚いていると、ガイドのアイサもイタリア人の3人も「へぇ〜ボルディブ!」という反応だった。モルディブ、正直どこにあるのかすらわからない。
「9人は一番ベストな人数よ!」
アイサが言った。集合をかけたり食事の席をセットするにも、少なすぎず多すぎずちょうどいいのかなぁなんて想像をする。
彼女はバスの中ではずっと話しっぱなしだ。英語なのでわかるところをかいつまんで聞くという感じだったが、表情を見ていると説明している内容がなんとなくわかる気がして楽しい。
それにしても本当に息を吐く暇もないくらいのマシンガントーク。もちろん仕事だからたくさん話してくれているんだろうけど、この街や話すこと自体が好きなんだろうなぁというのが伝わってくる。天職では...?
さて、グリーンツアーで巡ったところについてはこちらにまとめているのだが、ここではこの日の裏話を。
「他にもいっぱいツアーの人がいるから、私たちのチームに名前をつけましょう!そうだなぁ、ヘーゼルナッツはどう?どこのグループとも間違えないでしょ?私が"ヘーゼルナッツのみんな〜!行くよー!”って言ったら集まってね!」
アイサは明るく私たちに言った。今日から、いや今日だけ私たちはチームヘーゼルナッツ。
トリちゃんは絶景スポットに着くと他のナッツたちに「写真撮ってあげる!」なんて言ってフレンドリーに話しかける。フォトフォト!くらいは英語で言うものの基本的には全て日本語なのだが、身振り手振りとハッピーオーラで会話が成立している。なんちゃってイングリッシュをしどろもどろに話す私よりもよっぽどみんなとコミュニケーションが取れていた。こういうところがトリちゃんのすごいところなんだよなぁ。
しかし、そんな彼女の天真爛漫で誰にでも優しい性格によって、のちほど私はひとしきり凹むことになる。
バスはピジョンバレー&宝石店に到着。みんなでぞろぞろとバスを降り、お店に向かっているとトリちゃんが叫んだ。
「あっ携帯!バスに忘れた!取りに行ってくる!」
もう見えないバスを追いかけるトリちゃん。さっそくやらかしている。
そう、トリちゃんは忘れ物と落とし物の常習犯なのだ。これまで私と行った旅行では、携帯電話や財布などを必ず何かしら(しかも結構大事なものを)忘れたり無くしたりしている。始まった...と思いつつも、ある意味覚悟していたのでみんなと別れて宝石店の入口で待つ。
ちなみに私たちはこれを「トリちゃんやらかし伝説」と呼んでいて、旅に行く度「今回は一体何をやらかすのか...」なんて笑いながら話しているのだが、一番すごいのでいうと、数年前に行ったインドネシアでは「まだ帰りたくなーい!空港封鎖して!」とトリちゃんが嘆いた次の日に火山が噴火し、近くにあった空港が本当に封鎖されて数日帰れなくなるという事件が巻き起こったりした。
噴火に関しては全くもってトリちゃんのやらかしではないのだが、私たちは共通の友人に話すすべらない話としてそれも「伝説」の中に含めている。
全力疾走し、無事携帯をゲットできたようで戻ってきたトリちゃん。
「同じバスに戻るんだし、そんなに焦んなくてもよかったんじゃない?」
「だって写真とか撮りたいじゃん!」
まぁね。そらそうだ。
そんなこんなで諸々の場所を巡り、ウフララ渓谷に向かうバスの中。私は自分の携帯の充電が切れそうになったのでモバイルバッテリーで充電。
早朝にイスタンブールから移動を開始して、ホテルに着いてすぐさまツアーに参加し、すでに観光地を3つも回っている。写真やら動画やらを撮りまくっているので電池の減りも早い。(電池…?電池マークということで)
一応ホテルで一瞬モバイルバッテリーの充電をしておいたので、こっちは少し余裕がある。残量が半分くらいになるまで充電し、もう半分はきっとトリちゃんの携帯がもうすぐ切れるだろうととっておくことに。
ウフララ渓谷に入って昼食をとった後、それではハイキングをしましょうというタイミングでトリちゃんがモルディブファミリーの女の子に話しかけられた。
「携帯のバッテリー持ってる?」
トリちゃん、ちょっと考えてから答える。
「えーと、私は持ってないの、ごめんね。でもこの子が持ってるよ!」
えっ
いきなり話を振られ、びっくりしながらも答える私。
「あーと...持ってるけど、コ、コード合うかな?携帯何のやつ?iPhone?」
私は一瞬マジか...と思いながらも聞いた。「この子が持ってるよ」とトリちゃんが言ってしまったからには持ってないとは言えない。でも、バッテリーの残量はもう半分しかない。
「あ、あたしコードならあるよ!」
モルディブの子、モルちゃんがiPhoneだと聞いて、トリちゃんが快くコードをバッグから取り出そうとする。
うん、いや、ごめん。いじわるしそうになって。私もライトニングのコードなら持ってるの。
「あ、あんまりないかもしれないけど...どうぞ」
「ありがとう!10分だけ!貸してね」
モルちゃんにコードとバッテリーを渡して、みんなでハイキングコースを進む。
私はちょっと、いや、正直に言うとだいぶ貸したくなかった。だってあれはトリちゃんのためにとっておいたバッテリーだ。そしてきっともうすぐトリちゃんの携帯も充電が切れると思われる。
「トリちゃんは充電大丈夫なの?」
「え?あたしは〜えーと今10パーちょっとくらい!まぁまぁ、いけるっしょ!」
い、いける〜?ほんとに…?
10%ちょっとなんて私の中ではもう瀕死に近い。あと10%で帰るまでの数時間、持つだろうか。だって、写真もいっぱい撮りたいでしょ?なぜ...なぜ私が持ってるよと言ったのだ...。
心の狭い自分にうぅと嫌な気持ちになりながらも道を歩く。「10分だけ」とは言われたものの、その後の山道は結構入り組んでいて、9人の中でもだんだんと距離が開いていった。
いやぁこれ...わざわざかなり後ろの方にいるモルちゃんのところまで行って「はい、10分経ったよ」とか「もう返して」って...言えないよ。バスに戻るタイミングで言おうと思ったけど、まだしばらくハイキングは続くっぽい。これはモバイルバッテリー、終わったな...。
どうしよう。もしトリちゃんの携帯が切れちゃったら。
普段なら私も携帯くらいなかったらなかったで、と思えるけれど、ここは初めてきた異国の地。バスツアーの解散後は街に降ろしてもらう予定だったため、マップやお店など調べなきゃいけない場面も多い。私の携帯だけで乗り切れるか、ふ、不安...。
そんなことを悶々と考えながら歩いていると、遠くで片手に充電をした携帯を持ちながら、もう1つの携帯で写真を撮るモルちゃんの姿が見えた。
...いや、2個持ちなんかーい!じゃあもう1個のでいいじゃん〜!
自分から貸したくせに、いつまでもうじうじとそんなことを考えている自分が、そのうち激しく嫌になってきた。
どうして私ってこんなにケチっていうか、器が小さいんだろう。モルちゃんだって食後のお菓子、くれたじゃないか。トリちゃんも今全然困ってないじゃないか。
なのに、せっかくトリちゃんのために残しておいたバッテリーがなくなってしまうことと、ツアー解散後の動きを考えると不安になってしまい、どんどん心が狭くなる。
私って、死にそうになったら自分だけ助かる方法とか考えるタイプかも...。綺麗な渓谷の景色を見ながら、自分の黒さに凹む。
「トリちゃん...私は今、自分の心の狭さに猛烈にがっかりしているよ...」
愉快な旅先で勝手に凹む上にめんどくさいこと打ち明けてくるやつ。
「え〜?ヒノちゃん大げさだなぁ、大丈夫だよ大丈夫!」
トリちゃんは残り10%の携帯でお構いなしに景色を楽しみ、写真を撮りながららんらんと進む。
途中、休憩で入った川辺のカフェでこのタイミングで言うべきか?なんて思いつつも、遠くの席に行ってしまったモルちゃんにはやっぱりなんとなく話しかけられず。
「ねぇねぇ!ここEFESあるよ!」
トリちゃんが言う。ほんとだ、ビールある。
「やっぱここは飲んじゃいますか?」
「......飲んじゃいましょう、飲もう!」
私はこのどうしようもないモヤモヤをどうにかしたい気持ちも相まってトリちゃんの誘いに乗った。絶景を背にしてEFESで乾杯。うまい。
…うん、もう考えるのやめよう。どうにかなる。なるようにしかならん。せっかくのツアー中にいつまでもそんなことを考えてるのは、もったいない。っていうかこの携帯依存みたいなの、よくよく考えるとすごい怖いしなんか嫌だ。携帯なんてなくたって旅は楽しめるはずだ。
EFESのおかげで気持ちを切り替えられた私は、もう充電のことは考えまいとその場を楽しむことに。どんな時でも酒に頼ってるあたり、もはや携帯依存よりもアルコール依存の方が重症なのでは?という気もするが。普段の生活で無意識で依存しているものがボロボロと明るみになった気がした。
でもビールは助けてくれたから、結果オーライということで…。(そういうとこ)
そんなこんなでウフララ渓谷を出てバスに乗る時、モルちゃんがモバイルバッテリーを返してくれた。「ありがとう!すごく助かった!」と英語で感謝の言葉を言いつつ、最後に一言。
「アー、…シェイシェイ?」
ちゃうわ。(ズコー)
いやいや、モルちゃんはきっとわからないながらも頑張って私たちの国の言葉でありがとうを伝えたかったのだ。シェイシェイちゃうけどな。でも、私もモルディブの公用語もわからなければ感謝の言葉もわからない。
「ははは、Noシェイシェイ。 "ありがとう!"」
「Oh, So sorry! アリガトー!」
バスに乗り込みながら一応トリちゃんにバッテリーを渡してみたけどやっぱり残量はなく、ここでトリちゃんの携帯は終了。
最後に行ったセリメ修道院では、写真も撮れなくなったのでトリちゃんは思う存分歩き回って探索を堪能している模様。そうだよね。本来旅はその時、その瞬間を楽しむものだ。
とはいえ2人ともセリメの写真ゼロだとちょっと切ないので、一応思い出記録係として何枚か景色を納めたあと、私も早々に携帯をしまって思いっきり岩場を歩き回り、景色を目に焼き付けた。
「あたし、今日回った中だと地下都市の次か、もしかしたら地下都市よりもここ好きかも〜。山とか森林とか、自然も綺麗だし気持ちいいけど、なんかここに人がいたのかぁとかそういうのがわかるところの方が見てて楽しかったー!」
「確かに。私もそう思った」
凸凹コンビの割にこういう意見は一致するから面白い。
お気楽ハッピーなトリちゃんと、心配症でビビりな私。どっちもどっちで弱い部分もあるけど、旅をするには案外いいコンビかもしれない。
バスはギョレメの街に戻り、ツアーが終了。
それぞれの降車地に着いてバイバイと別れ、チームヘーゼルナッツは解散した。モルちゃん、いろいろ思ってごめんね。
観光自体も楽しかったけど、なんだか色々考えたり学んだりしたバスツアーだった。
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