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新しいタオルケットとは、まだ心の距離を感じる。
私はタオルケットがほしい。
けれど、私がほしいタオルケットの入手は困難を極める。
私はただの新しいタオルケットがほしいのではない。
使い古されたくたくたのタオルケットがほしいのだ。
おばあちゃんの家にあるような、薄ピンクだったり薄水色だったりするやつ。
あのヨーロピアンともアラビアンともつかない謎の模様が繰り返されている柄の、ちょっと端っこがほつれかけているくらいのタオルケットがいい。
東京に上京してくる際に私は実家から、もういつから使っているかわからないようなタオルケットを一枚持ってきた。
「あんたそんなボロボロなの持ってくの?新しいの向こうで買えば?」
母が言う。
あんなにも常日頃から"私のキラキラ☆一人暮らしライフ"を思い描き、色々な新しい日用品やらを揃えていたのに、なぜか私はその明らかにおしゃれではないタオルケットだけは手放すことができなかった。
まるで、洗濯されまいと自分のベッドにお気に入りのこすけたタオルを抱え込んでいる犬や猫のようである。
名誉のため、ちゃんと定期的に洗濯しているので汚くも臭くもないことだけは申し添えておく。
結局私は母の言葉は聞こえなかったフリをして黙ってそれを持っていき、新しい自分好みの布団カバーを買って、その布団の下に隠すようにくたくたのおばあちゃん柄のタオルケットを忍ばせ、新生活を始めた。
しかしそんなタオルケットも、持ってきた時点でおそらく10年以上は使っているもの。当然劣化は進んでいく。
そして、とうとうタオルケットは端っこがちょっとほつれているだけだったのがどのあたりもボサボサになり、擦れた真ん中あたりはちょっと強く引っ張ったらもう破けてしまうのではないかというくらいの状態になってしまった。
みすぼらしすぎるし、さすがにそろそろ買い換えねばなるまいと思う人間の私と、捨てたくない、せっかくここまでくたくたに"育てた"のにとお気に入りタオルケットとの別れを憂う犬の私。
しかしある日、とうとう例の真ん中の擦れて薄くなったあたりに寝相の悪い私は思いっきり足を引っ掛け、想像通りビリビリとタオルケットは破けてしまった。
さすがにこうなってしまってはもう潮時である。
しかたがないと私は重い腰を上げ、新しくタオルケットを購入した。
せっかくだからと買った新しいタオルケットは、もちろん変な柄なんて入っていない。綿100%で無地、ナチュラルな雰囲気の、いい感じのタオルケットだ。
こうして、ビリビリのダサいタオルケットとおさらばし、私は都会のいい女風(?)タオルケットを手に入れた。
数日後、タオルケットが届いて私はその夜さっそくそれを広げ、体を滑り込ませた。
違う。
全然違う。
心の中で犬の私が、そらみたことかと吠えている。
同じ綿100%のはずなのに、なんだかゴワゴワする。
前のタオルケットはもっとくたくたで、1ミリも緩衝することのない柔らかさで私を包み込んでくれた。
こいつとはまだなんだか謎の溝のようなものを感じる...。
やはりタオルケットは10年くらいは育てなければならないのか...。
ちょっとがっかりしたような、あの捨ててしまったタオルケットを恋しく思うような気持ちになる私。
どこかに、くたくたに使い古されたいい感じのタオルケットは売ってないものだろうかなんて訳のわからない妄想をしてみても、そんなものあるわけもないし、あっても他人の10年仕込みタオルケットはちょっと色々と違ってくる気がする。
仕方がない、こいつをまた1から育てるかと、私はまだ少し距離感のある新しいタオルケットを抱え、新しい生活を始めることにした。
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