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Non:Fiction Part11“踊れ”

※これはフィクションです。

盆踊りを知ってるか?神への豊作を感謝し来年の豊作を祈願する。先祖代々を呼び、踊る。
しかし俺の地元の盆踊りに神は居なかった。ただ先祖代々を呼び、踊り狂う。それが俺の地元の習わしだ。それを幼少期から見ていた俺だが大人になると一変。違う見方になり“祭り”ではなく“乱痴気騒ぎ”になるのだ。
男も女もどんな奴でもナンパしてセックスが出来る4日間。不倫?浮気?そんな言葉が無くなる4日間。性の赴くままに愛し合うそんな4日間。
そうなると男も女も街で大喧嘩だ。警察総動員。パトカーと救急車のサイレンが鳴り止まない。しかしそんなサイレンをかき消すように祭囃子が軒を連ねる。メジャー団体の洗礼された踊りに音楽。インディーズ団体による路上での即興の踊りや音楽。どちらも好きだ。
普段361日、街に出てこない奴らが一挙に集まる。いつも何処にこんな人々がいるのか分からないぐらいの人出だ。珍しいポケモン達がそこら辺にうじゃうじゃと湧き出るのだ。

そんなカオスとは裏腹に俺は仕事をしていた。かきいれ時だ。飲食店にとっては如何に回転率を上げるか。それだけだ。放っておいても客は来る。俺の使命は如何に料理提供を速くするか。それだけだ。
普段、俺が仕込みを始める時間は開店の2時間前であるPM4:00だ。しかし、この祭りの厄介な所は街にPM3:00に交通規制がかかるのだ。つまりPM3:00までに全ての食材を集めなければならない。県内はずっと渋滞だ。原付バイクは動きやすい。仕込みが追いつかない。しかも市場が休んでしまう為、スーパーも品薄になり業者は休んでしまう。要するに昼の12時には仕事を始めなければならない。

               “さあ、開幕だ。踊れ。叫べ。”

一端にも俺はここの居酒屋でトップだ。21歳にしてトップが逃げてしまい俺が跡を継いだ。つまり俺とマスターとバイト達。死ぬ思いでやるしかない。

                                  【1日目】

てんやわんや。追いつくはずが無い。しかし始まれば終わる。開店PM6:00。閉店特に時間指定無し。どうなるか想像できるか?深夜の長丁場。しかもラストオーダーシステムが無い。一生終わらないのだ。この日は知り合いの韓国人女社長がマスターの嫁とベロベロに酔って街を裸で走り回りその後をマスター達の息子(当時8歳)が後ろからビデオカメラで撮影しながら追いかけるというとてつもなく治安の悪い事件を起こして俺達は2日目のAM8:00に帰った。

                                 【2日目】

そもそも眠ればいいものをお盆となれば先祖を迎えに寺に行かなくてならない。俺の父と母が勝手な人なのは重々承知だ。俺は睡眠をとらず仕事終わりにそのまま寺に行った。長男不在では死んだ祖父も悲しむだろう。案の定、妹と母は不在だった。代わりに叔父と叔父の嫁と父と従兄弟と俺だ。
俺は長ったらしいお経という名の呪文を聞かされ金を払い、墓に行き呪文の書いた札を墓の後ろにぶっ刺す。みんなでただの石を拝み水をかけ飯を食う。俺の祖父への思いとこの一連の流れはまったく関連を持たない。ただ俺は祖父を愛していただけだ。ただそれだけだ。
まあ、一段落だが一連の流れは時間を奪う。この後、俺は仕事に行くのだ。時間は刻一刻と奪われる。買い出しを済まし、また開店だ。
この日だな俺が叔父とぶん殴りあって殺されかけたのは。心身共に壊れた俺は床に着いた。そもそも36時間ぶっ通しで起きて殴られて仕事してた。可哀想な奴だ。

                                 【3日目】

3日目になると体が慣れてくる。昨日、叔父に殴られた所が痛い。仕事はスムーズに進んだ。が怒りの矛先を間違ったマスターの弟と親戚達にとって俺はいい的だ。

マスターの弟「おい!ちゃんと仕事しろ!遊ぶ                                 な!」

親戚A「おい!タバコ買ってこい!」

親戚B「お前は一家の恥だ。」

親戚ではない奴「○○家として恥ずかしくないの                                 か?長男だろ?」

様々だ。店が落ち着き少し時間が経つと俺も表に出て親戚の子供たちと戯れていた。みんな可愛い俺の妹、弟達だ。親連中にも挨拶をしに行く。基本、矛先の間違った連中からの説教で終わるのだが。
そんな時だった。マスターの弟が怒り狂っていると俺にバイトリーダーが言ってきた。向かうとびっくりするぐらいキレてるのだ。何度も何度も内線で連絡してるのに俺が出ないから。まぁ、客が居なかったから長男として当然の事をしてただけなのだが。

マスターの弟「何遊んでるや!出ろや!」

俺「すみません。」

マスターの弟「お前はクビや!」

そんな権限あるわけないが説教は2、3時間に及んだ。そのまま閉店した。誰も助けてくれなかったのか?そうだ。しっかり言よう。誰も助けてくれなかった。見て見ぬふり。“使命”という○○家に縛られていた俺。
やっと説教が終わり、俺は一人で片付けた。そのまま閉店したのだから次の日の仕込みも買い出しもその時間からなのだ。
AM2:00。暗く、騒がしい夜の街を背に見えもしない星空に目をやりタバコを吸った。そこに1本の電話が来た。マスターだ。

マスター「コニコニで飲んでるから来いよ!」

コニコニとはお盆期間限定で開くカフェBARだ。店主2人は俺の親父を愛してやまない男達だ。サーファーのアツキ、ボンボンのゴマすりケーサクだ。“まぁ、行くか…。”と顔を出して挨拶をしに行く。
多分、何かを察していたマスターは俺が着くなり口を開いた。

マスター「こいつのおかげで俺の店が保ててる
                   んだ。全てこいつのおかげだ!」

人前で褒められるのは嬉しい。しかも幼少期からの顔なじみの前でそんなに褒められると明日も頑張れる。
察しがいい人なら気づくだろう。“罠”だ。人を操り蹴落とし褒めて言いなりにする。やばいマスターだ。人を操るのに慣れてやがる。とは思わなかった俺は沼って行った。次の日であるお盆最終日も仕事でいっぱいだ。が意気揚々としていた。初めて褒められた。というか初めて操られた。その事実に気づくのはこの日からかなり後になってからだった。

                                【最終日】

1日目に不眠不休を強いられ、2日目に叔父にボコられ、3日目に精神的にボコられ、最終日に何が起こったと思う?

特になかった。特になかったのだ。仕事は全て順調に進み、親戚からも嫌味な事を言われずに誰からも暴力を振るわれなかった。
明日は休み。やっとだ。ゆっくり眠るのもよし、リフレッシュをするのもよし。

                       “さぁ!終わりだァ……。”

マスター「打ち上げでKT集合な!」

俺とバイト達はルンルンでKTに向かっていた。道中、酔ったおっさんに喧嘩を売られ危うくぶん殴りそうになったが今日の俺は機嫌がいい。無視だ。

                                   “が……”

1人の女性が後ろから走ってきた。よく俺を見つけたと思った。当時、付き合ってた半同棲中のカノジョだ。涙目で俺に抱きついてきた。

カノジョ「ごめん……。本当にごめん……。」

俺「ん?どうした?」

カノジョ「他の男とヤッちゃった…。」

俺「………………。うん。」

正直、どうでもよかった訳では無いがやっと解放されたのにこの仕打ちはもはやよく分からなくなっていた。そして俺は禁断の言葉を言ってしまった。

俺「自分の価値を下げる事だけは辞めなよ。
        俺はどうなっても良い。けどもっと自分を
        大事にしてくれ。一緒に来るか?」

余裕のない大人たちを見すぎて余裕のある大人に憧れまくった俺がとった行動はカノジョを許し、更に愛することだった。ここで別れていれば俺はこんなにも傷つくことはなかったのに。本当の意味の外傷は無く、内傷まみれの俺が出来るのにそう時間はかからなかった。

その日は俺もマスターもバイト達もカノジョもみんな平等に楽しみ歌を歌い祖先たちと共に酒を酌み交わしたのであった。これが本来のお盆だ。そんな憧れを1日だけ叶えさせてくれた。

『日頃の行いが良いからなのか?それとも存在せぬ神の同情なのか?それは分からない。』

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