ナイトサファリ入園料金無料
朝から降り続く冷たい雨は夕方になって霙(みぞれ)に変わった。
昼ごろに所要があって、以前住んでいた田舎へ出向いたのだが、我が家の近辺は雨だったのにあちらは雪が降っていた。
車で30分ほど走っただけなのにこの変わりよう。
天気予報でも「山間は雪が降る可能性があります」と言っていたがその通り。
そして、気温は低く冷たい。
さて、以前の田舎では2頭の犬を飼っていた。
犬を飼おうと言い出したのは子供たちで、「絶対に朝晩の散歩はするから」と言う約束だったのだが、それもはじめのうちだけ、1か月もすればいつの間にか毎朝夕散歩に連れ出すのは私の役目。
とは言え、これが嫌だと言う訳ではなく、犬たちとの散歩はそれはそれで結構楽しかった。
いやぁ・・・犬ってかわいいものである。
その2頭の犬が相次いで亡くなってしまったのも引っ越しを決意させたひとつの要因でもあった。
本当にあの2人(2頭)は可愛かったので、次に別の犬を買おうと言う気持ちにはなれない。
ところで、まだあちらに住んでいた頃の梅雨のある日の事、「蛍を見に行こう」と言う事になって、暗くなった頃を見計らって犬を連れて出かけることになった。
玄関を出れば星明りさえ無い暗闇。
犬2頭を先導役に、山道を田んぼ沿いに、近所のおじさんが教えてくれたホタルのいそうな場所まで歩いて行った。
すると、田んぼの向こうに、薄っすらとか細い光が点滅している。
オオっ、ホ・タ・ル・・・何十年ぶりだろう。
田んぼか川か定かではないところで、ゆらりゆらりと小さな光が漂っている。
あぜ道を歩けばそこまで行けるかも知れないが、なにせあたりは真っ暗闇。
川に転落なんてしゃれにもならないのではタルガいるところまで行くのはあきらめた。
このあたり、イノシシの被害防止にと、田んぼの回りにぐるりと電線が張りめぐらされている。
それを「電気柵」と言うらしい。
「昼間は通電してないよ」の言葉を信じて散歩の途中で犬のリードを解いた事があったが、自由になって走り出したとたんに犬が「ギャイ~ン」と大きな悲鳴を上げた事があり、それからというもの、この電気柵を信用していない。
増してやこの暗闇である、田んぼに近寄るのは危険なのだ。
さて、田舎の朝は早いしとても賑やか。
目を覚ますと「ホーホケキョ」やら「テッペンカケタカ」やら「コケコッコー」やらと、鳥の声が響き渡る。
ほんとうにすぐ近くから野鳥のさえずりが聞こえて来るのだ。
勿論、隣の鶏の声も!。
玄関を開けた目の前に柿の木があったのだが、どうもそこで野鳥が鳴いていたようだ。
それなら「巣箱を作って置いておけば小鳥が来るかもしれない」と家の前の桜の木に巣箱を設置して見ようかと思い立ち、様子を見に行った。
その桜の木は大きな木でちょうど二股に分かれている部分があり、そこに巣箱を置こうかと思ったのだ。
すると・・・なんと・・・あいつがいた。
長さは1メートルほど、二股に分かれた木の上でとぐろを巻いている。
濃い茶色の・・・多分「シマヘビ」・・・私の頭上30センチのところから、じっとこちらを注視している。
「こりゃだめだ」とそこへ巣箱を置くのはあきらめた。
朝日が昇る頃になるとひらひらと蝶が舞って来る。
おなじみのモンシロチョウ・モンキチョウをはじめ、アゲハチョウ・アオスジアゲハ・カラスアゲハなど大型の蝶も悠然と飛行を楽しんでる。
そしてトンボも。
シオカラトンボやナツアカネは勿論、盛夏になればオニヤンマやギンヤンマがグライダーのように滑空を楽しんでいる。
朝から賑やかなのは鳥の声だけではない。
日が昇ればヒグラシが「カナカナ」、少しするとアブラゼミが「じーじー」。
しかし、以外といないのが「蚊」。
草むらにはいるが、家にはあまり入って来ないのが不思議。
そのかわりに羽に点々がついた大きな「蛾」が群れるように飛んで来る。
くすんだベージュ色が来たかと思えば、まるでカラー見本が集中したような極彩色のものまで、何十種類もの蛾が光の下に集まって来る。
田舎の家へ引っ越してきた初めて迎えた夜、ふとガラス窓を見ると、黒くて丸い大きな点がガラスに張りついていた事があって、いったい何だろうと近寄って見ると、なんと大きなカブトムシだったなんて事もあったなぁ。
クワガタもいるし、カミキリムシなどは見たことも無いような種類のもいる。
昼間が昆虫図鑑なら、夜はナイトサファリだ。
車を走らせていると、前方にチカチカ光るものが見える。
なんだろうと近寄ってみるとそれがヨチヨチと車を横切って行く。
タヌキの一家が夜食を探して歩いていたようだ。
狐に遭遇した事もあった。
家の前で。車を駐車場に入れようと思った時に目の前をヘッドライトに照らされたキツネがふさふさの尻尾をたらして悠然と歩いていくではないか。
まだまだいるぞ・・・ハクビシン。
タヌキは生ゴミを荒すし、狐はニワトリを襲うが、ハクビシンとイノシシは畑の作物を食べてしまう。
そうそう、シカも出没する。
これらの動物は作物を荒すので、農家は皆困っているらしい。
そして極めつけは熊。
このところテレビでも騒がれているが、奥方殿と子供たちがについに出会ってしまった。
最も田舎をいやがっている奥方様が熊を見てしまったのでこれはもう大騒ぎ。
もうその夜は大変だった。
「もうこんなとこいやだ~、熊がでた~!」。
車の中から見たらしいのでまだ良かったものの、歩いていたら本当に一大事になる所だった。
すぐに世話になっている隣りのおじさんに電話。
「熊が出ました熊が、母熊と子供です」と。
まだこの地には猟師がいて、猟銃で害獣を駆逐しているそうで、次の日からは部落中が大騒ぎで。
熊はやはり怖いらしい。
田舎は昆虫や動物達がオリの中の人間を観察する逆自然動物園かも知れない。
無鉄砲な私は夜でも平気で歩いて外へ出てしまうが、奥方様は、夜は絶対に外にはお出にはなりません。
上が奥方殿はとにかく虫と蛇と動物が大嫌い。
そう言うお方に限って熊などにお会いあそばされるのだから困ってしまう。
うヘ!、いい気味だ!(内緒)。
アッ、そうそう、まだい、とてつもなくでかい蜘蛛が、屋根からブラリと垂れ下がって来る。
並の大きさではないので、さすがに私もチョットびっくり。
毎夜毎夜犬が吠えるのは、きっと近くに動物が来ているからなのだろう。
イノシシかな?タヌキかな?狐かな?。
田舎は入園料金無料でナイトサファリが楽しめる。