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ROEってなに?財務指標として。それを超えるものとして。

今回は、2つの観点から「ROE」という財務指標を深掘りしていきたいと思います。
この指標は非常に重要で、株式投資においては、最も大事な指標の一つといっても過言ではありません。なぜなら、資産を増やし、長期的に株価を上げる企業かどうかをROEは示唆するからです。

しかし、ROEには社会問題や世界観を問いかけるような深い意味も含まれています。今日は、この観点からもROEについて書きたいと思います。

1.ROEの財務的な意味合い

(1) ROEの定義

ROEとは、「Return On Equity」の略で、日本語では「自己資本利益率」ともいいます。

定義:当期純利益÷自己資本

ここでの「自己資本」とは、株主資本とほぼ同じ意味です。投資家の観点から見ても、ほぼ同じ意味として捉えて差し支えありません。(ただし、理論的な点での違いはあります。)

ROEについては、論者・文献によって、解釈が異なる場合もあります。
ここでも、やや一般的ではない解釈を展開していきます。

(2) ROEの投資家にとっての意味合い ~価値が増えるスピード~

私たち投資家にとって一番しっくりくる定義は、ROEを「株主にとっての取り分の増加スピード」と捉えることです。端的にいえば「株価が上がるスピード」といってもよいでしょう。
例えば、ROEが5%なら、我々の取り分は年に5%増加するということです。

さて、簡単なケースを考えてみましょう。株主が一定の金額、例えば100を出しました。これを純資産(≒ 株主資本)として考えます。
(ここから先の説明では「純資産」という言葉を使いますが、基本的には株主資本と同じ意味と捉えてください。)
この純資産100を元手に、企業は当期純利益15を得ました。

企業は、当初、250のお金を持っていました。
株主が初めに100を出資し、その後で借入れなどを行い、お金を250に増やしました。

この250を用いて資産を購入し、ビジネスを始めました。
工場を建てたり、店舗を作ったり、従業員を雇ったりしました。

その結果、当期純利益15を稼ぎ出すことができました。

株主の立場から見ると、企業に100を出資し、企業は15の利益を得ました。このとき、
ROE=15÷100=15%
となります。

これは素晴らしい数字ですね。株主としては、初めに100を出して、その後15の利益を得たので、株主の取り分は合計115に増加します。
つまり、1年間で15%の利益が出たわけです。これは、投資に対するリターンとして高い数字といえます。

では、もう少し時間を経過させてこの数字を詳しく見ていきます。

最初の1年では、100の出資で15の当期純利益を得ることができました。
次の年、資産は去年の15の当期純利益により、250から265に増加しています。その分、店舗が増えたり、工場が拡大したりしました。
そして、その265の資産を使って、1年間のビジネスを行いました。その結果、当期純利益は17.2と、前年よりも15%増加しました。
これは、事業の規模が大きくなったからです。

仮に、ROEを毎年15%で維持することができれば、当期純利益も毎年15%ずつ増加することになります。これは、驚異的な数字です。
通常の預金の金利は0.001%程度ですから、これに比べれば圧倒的に高い数字です。
ROEは、企業の当期純利益の増加スピードを示す指標です。株価がこれに一致するかは、市場の動きによりますが、長期的に見れば、ROEの水準が株価の上昇スピードに近似していくと考えられます。

要するに、ROEが15%である場合、つまり当期純利益、すなわち、私たちの取り分が1年間で15%増加することを意味しています。これは、株式の価値が1年間で15%増加する、と言い換えることもできます。
すなわち、ROEは、株式の価値が増加するスピードを意味し、また、株価が上昇すると期待できるスピードを意味するのです。
ですから、投資家にとってとても大事な指標といえます。

(3) ROEは8%が目安?

このROEについて、具体的にどれくらいのパーセントが望ましいのでしょうか?

「伊藤レポート」を参考にしましょう。一橋大学の名誉教授である伊藤氏によるレポート「持続的成長への競争力とインセンティブ」で、2014年に発表されました。100ページ近くのレポートで、内容も難しいものの、企業と投資家の望ましい関係についての考え方が示されています。

このレポートの中で、ROEについての考え方が述べられています。
要点としては、企業がグローバルな投資家から認められるためのステップとして、最低でも8%以上のROEを達成すべきだとされています。
この8%はあくまで最低限の目標であり、それを達成した企業はさらに高い水準を目指すべきとのことです。

投資家としては、この考え方を参考にするだけでなく、他の視点も持っておくべきだと思います。
ROEが高ければ高いほど良い、という考え方について、違う角度から検討したいと思います。

2.ROEのもうひとつ上の意味合い

これからお話しする内容は、あまり一般的には言われていないことです。しかし、とても大切なことだと私は考えています。

(1) 経営者にとってのROE ~高レバレッジ経営~

最初に株主が100を出資したモデルケースを示しました。その資金を元に、負債150を借りて、250の資産を保有し、事業展開しました。

ここで新しい経営者が登場します。
この経営者は、前の経営者とは異なり、結果を非常に重視するタイプです。彼は、社会から経営者として高い評価を得るために、最高の経営実績を出したいと考えています。
前の経営者は150の借入でビジネスを行っていましたが、この経営者はさらに積極的に結果を出したいと考えています。そのため、より多くの負債を活用し、より積極的にビジネスを拡大したいと考えました。

例えば、400を借り入れ、合計500の資産を保有するとしましょう。
これは、先ほどの250の資産を持つ会社と比べて、規模が2倍です。
その結果、会社の当期純利益も2倍の30となりました。ROEは、30%まで上昇しました。この経営者の戦略は、前の経営者と比べて非常に積極的で、多くの人々から高く評価されるでしょう。

しかし、このような大胆な戦略には、考慮すべきリスクも存在します。
多額の借入によって行った事業展開について、思惑が外れれば、たちまち経営危機となります。

もちろん、現実の事業には、販売する商品・サービスの性質やその他様々な要素が総合的に影響するので、多額の借入を行う点だけに注目して、良し悪しを判断することはできません。

しかし、性悪説で見るならば、上場企業の経営者は、銀行からの借入時に、個人補償をしないので、会社の借入を最大限増やす高リスク経営を行い、その結果、失敗しても自らの資産は守られます。最悪でも、辞任するだけです。
他方で、もし成功すれば、名声や高い報酬、ストックオプションが得られます。

経営者が得られる報酬や名声を考えると、少しリスクを取るのも仕方がないのかもしれません。しかし、無茶な経営をすると、ROEが高くなることもあります。
アメリカでは、このような借入を大きく増やして、株価を強く意識した極端な経営を行っている企業が散見されます。マクドナルドやスターバックス、ドミノピザなどです。
借入を増やして株主還元を重視する企業もありますが、本当にその経営方針が正しいのでしょうか。

私の感覚では、自分の会社やビジネスを大切に思っているならば、リーマンショックや新型コロナのような危機時に備えて、適切なレバレッジで事業を展開するのがベストだと思います。

ROEに関してお話ししてきましたが、注意しなければならない点として、負債を増やしてROEを高めることが挙げられます。
意図的に負債を増やすことで、企業のROEが高くなる場合もあるので注意が必要です。

(2) 企業は誰のものなのか?

次に、ROEは高ければ高いほどいいのか?を考えるために、コーポレートガバナンス(企業は誰のものなのか?)について、考えたいと思います。

企業は誰のものか? 企業は株主、つまり投資家のものです。しかし、それだけではありませんね。

企業は商品を作り、お客様に届けています。お客様は、ただの顧客ではなく、大変重要なステークホルダーとなっています。お客様がいなければ、企業は成り立たないのです。だから、顧客は非常に大切な存在です。

次に、仕入先も大切です。一部の経営者は、下請けや仕入先を見下すことがあるかもしれません。しかし、良い経営者は仕入先を「協力会社」と呼ぶことが多いです。

また、従業員も会社の大切な存在です。あまり従業員を大切にしない経営者もいるかもしれませんが、従業員も大切なステークホルダーです。

そして、企業が存在する社会も考慮すべきです。たとえば、工場を建設する際、環境を汚染することは、法律に触れていなくても、良くないことです。

企業には様々なステークホルダーがいて、彼らのおかげで株主は利益を得られています。
例えば、マスクが不足したとき、顧客を大事にしている企業は、あくまで定価での販売を継続しました。もっと高い値段をつければ、大きな利益を得られたはずです。実際、マスクを高値で転売する人たちがネット上に現れました。しかし、そのような行動をとらなかった企業が多かったです。これは、企業が顧客を大切に思っているからです。

仕入先にも同じことがいえます。例えば、不二製油という会社はパーム油を海外から仕入れていますが、現地での児童労働の問題にも配慮しています。企業の取り組みには、様々な価値観が反映されています。

一般的に、株主の利益と、顧客、仕入先、従業員、社会の利益は対立することが多いです。

ROEとは、株主の取り分です。ROEを重視するイコール株主の取り分を重視する、裏返せば、それ以外の顧客、仕入先、従業員、社会の利益を損ないかねない考え方です。
こう考えると、ROEは、高ければ高いほど良い、と単純には言えなさそうです。

(3) ROEは、高ければ高いほど良いのか?

私はROEの数値が高いほどよい、とは考えていません。

損益計算書を見てみましょう。
売上高、売上原価、販管費、そして当期純利益という主要な項目を示しています。
これらの数字を見る時、ただの数字としてではなく、背後に隠れている意義や影響を考えることが大切です。

例えば、売上高の250という数字の背後には、製品やサービスを購入してくれるお客様がいます。この製品やサービスに対して、お金を払ってくれるお客様がいるということを意識しなければなりません。ただ単に売上を増やすことだけを考えるのではなく、お客様の立場やニーズに目を向ける必要があります。

また、売上原価という項目もあります。これは、どれだけのコストをかけて商品やサービスを提供しているかを示すものです。低い方が良いとされていますが、あまりにもコストを下げすぎると、供給元に問題が生じることもあります。
協力会社からの仕入れは、可能な限り安く買いたたけば良いのでしょうか?

環境に対する配慮も欠かせません。コストカットするために、環境に負荷のかかる方法を取る経営もあるでしょう。法律で認められる範囲でなら、なんら問題ありません。しかし、これは株主の利益を尊重し、社会の利益を損なっている、ということです。

従業員に対する権利や待遇も大切です。企業がどのように従業員を扱っているのか、その姿勢も投資の観点から見ることができます。
従業員の給料を低く抑えれば、企業の利益は(少なくとも短期的には)増加し、株主の取り分が増えます。すなわちROEが高くなります。
派遣のみの低廉な人件費で会社経営すれば良いのでしょうか?

さらに、研究開発もそうです。研究開発は非常にコストがかかるものです。しかし、これに研究開発することで、10年後や20年後の将来に大きな成果を上げることも期待されます。短期的な利益を追求するだけでなく、長期的なビジョンを持って研究開発を行うことが重要です。
短期的に株主の利益ばかりを尊重すると、研究開発がおろそかになってしまいます。しかし、それが企業のあるべき姿でしょうか?

お客さんから受け取った売上を、仕入先や社会、従業員、そして税務に配分し、最後に残った当期純利益が私たち株主のものとなります。
このプロセスは、国の財政と似ていますね。税収として収められたお金を、社会保障や公共工事などに使用するように。

経営者は、始めにお客様から受け取ったお金を、仕入先や社会、従業員と分配し、最終的に株主のもとへと届けます。このプロセスを通じて、経営者は利益を分配しているのです。
ROEが高いからと言って、その企業の経営者がすばらしいと単純に判断できるでしょうか?
単に、仕入先や社会、従業員への分配を削りに削って、株主への分配を増やしているだけではないでしょうか?

特にアメリカでは、株価の上昇が、経営者の報酬に連動する文化があります。それは一つの文化であり、良いとも悪いとも言えません。しかし、私たちは何を選ぶのか、どの指標を重視するのかを考える必要があります。

個人投資家として、ROEの持つ財務的な意味を理解することは大切です。ROEが15%であれば、私たちの利益も15%増えるということです。
また、企業には株主だけでなく、顧客や仕入先、従業員といった多くの利害関係者が存在します。これらの関係者とのバランスをとることも、経営者の重要な役割と言えます。
経営者が行った、高度な政治的判断としての利益配分の結果が、ROEとして現れるのです。

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