仕事を投げ捨ててでも守りたいと思うほど…
大将:いらっしゃい!
父親:いつものよろしく
大将:あいよ
小さい頃から僕は父親に連れられて近所の居酒屋に通っていた。
大将:菜緒~!〇〇くん来たで~!
菜緒:は~い!
大将の娘の菜緒ちゃん、僕は密かに彼女に片思いをしていた。
大将:二人とも何食べる?
菜緒:菜緒お刺身食べた~い!
大将:お刺身でええ?
〇〇:うん…!
二人で向かい合って刺身の大皿をつつく。
客:うちの息子にもあんな可愛い頃があったな〜…、
〇〇:菜緒ちゃんマグロ食べ過ぎ
菜緒:あ、ごめん(笑)
菜緒:はい、あ〜ん
〇〇:自分で食べるから…///
菜緒:ダメ、菜緒が食べさせるの!
〇〇:なんで〜?
父親:…結婚したら尻に敷かれそうよな
大将:結婚する前提…(笑)
父親:(笑)
客:結婚させてまえ(笑)
◇
そして10代になってくると、自然と菜緒との距離も開いていく。
△△:なぁ〇〇、小坂って好きなやつとかおる?
〇〇:俺に訊くなよ、本人に訊いてこいよ
△△:出来るわけないやろ(笑)
菜緒:菜緒がどうかした?
△△:あ、いや、何でもないです…!
〇〇:なんでもないこたぁねぇだろ(笑)
△△:ばっ、おまっ、黙ってろ…!
菜緒:ふ〜ん、まぁええわ
菜緒が去ると、△△に肩を掴まれる。
△△:お前ほんまぶっ飛ばすぞ?(笑)
〇〇:なんでだよ(笑)
△△:お前ほんまマジで……、
◇
そしてその週の週末、△△と近所のマクドでテスト勉強していた。
△△:マジでテストヤバいわ
〇〇:ちゃんと勉強しろよ(笑)
すると、
女性:ちょっといいかしら?
〇〇:はい?
女性:私こういう者なんだけど…、
そう言って差し出された名刺には『Blue&Sky合同会社 チーフプロデューサー ※※※※』と書かれていた。
〇〇:…芸能事務所の方?
女性:そう、それで君をうちの事務所にスカウトしたいんだけれど、芸能活動に興味があったりしない?
△△:お前すげぇな!ブルースカイって超有名どころやん
〇〇:ちょっと黙って
〇〇:…少し考えさせていただけませんか?
女性:それはもちろん、ご両親ともゆっくり話し合ってもらって…、
女性:事務所のパンフレット、渡しておくね
〇〇:はい……、
◇
そして私は事務所に入所し、数年後には人気俳優として一世を風靡していた。
〇〇:この映画クランクアップしたらしばらくお休みもらっていいですか?
〇〇:久しぶりに実家に顔出したいので、
MG:分かった、3日間くらい休み作っておくから
〇〇:ありがとうございます
そうして私は久しぶりに大阪に帰ってきた。
〇〇:おっ、菜緒ん家の居酒屋やん、懐かしっ…!
実家に向かって歩いている道中、菜緒の家の居酒屋の前を通る。
〇〇:……閉店…?何かあったんかな…?
入口のドアには閉店の貼り紙が貼られており、私はドア横のインターホンを押す。
菜緒📞:……はい、小坂です
〇〇:●●〇〇です
菜緒📞:…〇〇!?
〇〇:久しぶり
菜緒📞:うん、今鍵開けるな?
しばらくしてドアが開く。
〇〇:久しぶり…、
菜緒:うん、…有名人になったな、
〇〇:まぁな…(苦笑)
菜緒:とりあえず中入る?
〇〇:お邪魔します
お店の中に入り、カウンターに並んで腰掛ける。
菜緒:…おばさんには忙しいやろうから〇〇に伝えないでおくようお願いしたの、菜緒の両親が亡くなった、って……、
〇〇:やっぱそうやったんや……、
菜緒:菜緒に居酒屋の経営なんて無理やし、閉店するしか無かったんね……(涙)
〇〇:菜緒……、
父親のお店を守れず、悔し涙を流す菜緒。
菜緒:菜緒が不甲斐ない娘やから…(涙)
〇〇:それは違う、
〇〇:最初はお店を守ろうとしたんやろ?きっと…、
菜緒:うん……(涙)
〇〇:やったら立派な孝行娘やろ
菜緒:…〇〇……(涙)
〇〇:よしよし…(笑)
私は菜緒を抱きしめ、頭を撫でる。
〇〇:…せや、私も手伝うからもう一度やってみん?
菜緒:えっ……!?
〇〇:私もこの店無くなんの寂しいし、何より菜緒の涙を見たない
菜緒:……有名人の思考回路はよう分からん…、
〇〇:(笑)
◇
そうして私は一度全ての仕事をストップして大阪にUターンした。
客:ごちそうさま
菜緒:ありがとうございました〜
〇〇:…ふぅ〜、片付けするか〜
この日の営業を終え、締め作業に移る。
菜緒:……なぁ、
〇〇:ん?
菜緒:なんで俳優の仕事休んでまでうちのお店手伝ってくれてるん?
〇〇:…言うたやろ、菜緒の涙なんか見たない、って
菜緒:……。
〇〇:惚れた女の涙を見たいやつなんかおらんねん
菜緒:それって……
〇〇:…私はず〜っと前から菜緒のことが好きなんや、仕事を投げ捨ててでも守りたいと思うほど…
菜緒:……アホ…(涙)
〇〇:アホで結構、菜緒のそばにいられるならな…
初めてのキスはしょっぱい味がした。
Fun.