娘と私の卒業式
〇〇:…ついに明日か……
娘の結婚式を翌日に控えた私は、戸棚の上に置かれた写真立てを見つめる。
〇〇:菜緒、私よく頑張ったよな…?
娘がまだ幼い頃、妻の菜緒は通勤中に列車の脱線事故で亡くなった。そのため二十数年間、私が男手一つで娘を育ててきたのだ。
すると、娘のひなのが帰ってきた。
ひなの:ただいま
〇〇:おかえり、お夕飯できてるよ
ひなの:わぁ~!私の大好物ばっか!
〇〇:最後にひなのの大好物を食べさせたいな、と思って…(笑)
ひなの:…お父さん……(涙)
〇〇:(苦笑)
涙を流すひなのを優しく抱きしめる。
〇〇:ひなのも大きくなったな……
ひなの:うん…
〇〇:…じゃあ食べよっか
椅子に座り、手を合わせる。
二人:いただきます
〇〇:……。
ひなの:…もう食べれなくなっちゃうのか……
〇〇:(笑)作り方教えようか…?
ひなの:機会があれば…
〇〇:そうだな…(笑)
そしてご飯を食べ終えたひなのはお風呂に向かった。
〇〇:洗い物するか…!
食器を片付け、洗い物をする。
〇〇:よしっ
ひなの:お父さん、お風呂空いたよ
〇〇:分かった
ひなのと入れ替わりでお風呂に入り、シャワーを浴びる。
お風呂から上がり、髪を拭きながらリビングに向かうと、ひなのはもう自分の部屋に行っていた。
〇〇:あんだけ小さかったひなのが結婚か……
冷蔵庫から缶ビールとおつまみのチャーシューを取り出し、リビングのローテーブルに座る。
テレビ台からDVDケースを取り出し、テレビをつける。
〇〇:何から見よっかな〜……
私は、『初めての家族旅行』と書かれたDVDを取り出し、プレーヤーに差し込む。
すると、階段を降りる足音が聞こてえきた。
ひなの:…やっぱり……(笑)
〇〇:なんだ、まだ寝てなかったのか…
ひなの:さすがに8時前には寝ないよ(笑)
ひなのも冷蔵庫から缶ビールを取り出し、私の横に座る。
ひなの:はい、乾杯
〇〇:乾杯
私はリモコンの再生ボタンを押し、DVDを再生する。
ひなの:初めて旅行行ったときのか…
〇〇:そう…
二人でビールをあおる。
〇〇:…この二週間後だからな……
ひなの:脱線事故?
〇〇:うん…
〇〇:だから、ビデオとして母さんが映ってるのはこれが最後…
ひなの:そうなんだ…
ひなの:…そういえば、プロフィールムービーありがとね
〇〇:どういたしまして
ひなのたちのプロフィールムービーを編集したのは私なのだ。
ひなの:……やっぱりさ、私が居なくなるの寂しい?
〇〇:当たり前だろ?ひなのが修学旅行や部活の合宿で居ないのだって寂しかったのに……
ひなの:それは寂しがりすぎ(笑)
そしてビデオを見ながらひなのと飲んでいると、夜も更けてきた。
ひなの:じゃあ私そろそろ寝るね
〇〇:うん、おやすみ
そして私も日をまたぐ頃にはベッドに入った。
◇
そして翌朝、起きてリビングに向かうと、ひなのがちょうど家を出る頃だった。
ひなの:おはよう
〇〇:おはよう、行ってらっしゃい
ひなの:行ってきます
私も準備を整え、レンタルしたモーニングに着替える。
〇〇:よしオッケー
荷物と妻の写真を持って家を出る。
式場に到着すると、スタッフの方が入口で待機していた。
〇〇:新婦父です、本日はよろしくお願いいたします
スタッフ:本日はまことにおめでとうございます
〇〇:ありがとうございます
中に入ると、すでに新郎ご両親が到着されていた。
〇〇:おはようございます
新郎両親:おはようございます
〇〇:いや〜、緊張しますね…(苦笑)
新郎父:そうですね〜(笑)
挨拶と雑談をしつつ、受付をしてくれる新郎新婦友人の到着を待つ。
※※:おはようございます
〇〇:おはようございます
受付の方々が到着し、挨拶を交わす。
新郎父:ほんの気持ちばかりですが…
〇〇:こちらからも…
袱紗からお礼を取り出し、彼女たちに手渡す。
※※:ありがとうございます
〇〇:それと、お車代とその名簿、お願いします
※※:お預かりします
そしてゲストが集まりだすと、控室に向かい挨拶をする。
※※:本日はおめでとうございます
〇〇:ありがとうございます
すると、スタッフさんに呼ばれてチャペルの方に移動することに。
スタッフ:ファミリーミートを行いますので、皆さま聖壇の方を向いてお待ちください
新郎父:ドキドキしますね…
〇〇:泣く準備は出来てます(笑)
新郎両親:(笑)
しばらくすると、チャペルの扉が開く音がした。
(トントンッ)
肩を叩かれ振り向くと、
ひなの:綺麗…?
真っ白なウェディングドレスに身を包んだひなのが立っていた。
〇〇:うん…すっごく綺麗……
溢れ出る涙を必死に抑える。
〇〇:世界一綺麗な花嫁だよ…
ひなの:何それ(笑)
新郎父:お前も綺麗な嫁さんもらったな
新郎:でしょ?(笑)
そのまま式のリハーサルをする。
〇〇:右からな?
ひなの:うん
バージンロードを足を揃えて歩く練習を行う。
〇〇:右、揃える、左、揃える
ひなの:ふふっ(笑)
リハーサルを終えると、ゲストの方々がチャペルにやってくる。
◇
しばらくすると、開始機の時間が近づき、私はスタッフさんの誘導で裏へ向かう。
ひなの:緊張してる?
〇〇:ちょっとだけ
そして時間になり、扉の前へ移動する。
ひなの:右足からね?
〇〇:うん
司会:続きまして、新婦さまのご入場です
扉が開き、私たちは同時に歩き出す。
中に入ってすぐに、私の姉(ひなのの叔母)にベールダウンをしてもらう。
姉:ひなのちゃん、綺麗だよ
ひなの:ありがとう
再び腕を組み、バージンロードを歩く。
〇〇:……。
……………………………………………………
ひなの:ねぇパパ
〇〇:ん?
ひなの:なんでひなのにはママがいないの?
〇〇:…ママはね、お星様になったんだよ?
◇
ひなの:パパ〜、今度の誕生日、遊園地行きたい!
〇〇:ごめん、その日パパ仕事なの
ひなの:……パパなんか知らない!
〇〇:ひなの……
◇
ひなの:ここにママが眠ってるの?
〇〇:そうだよ?のんのんって…
ひなの:のんのん…
〇〇:(菜緒、ひなのもこんだけ大きくなったぞ)
◇
〇〇:ひなの、熱大丈夫か?
ひなの:ひなのが寝るまでここにいて?
〇〇:分かった、手握っててあげる
ひなの:えへへへへ……(笑)
◇
ひなの:ふんふ〜ん🎶
〇〇:修学旅行か…、寂しくなるなぁ……
ひなの:一泊泊まるだけでなんで寂しくなんのよ、この親バカ(笑)
〇〇:(笑)
◇
〇〇:父さん、明日モール行くけど一緒に行くか?
ひなの:行かない
〇〇:そうか……
〇〇:(反抗期か……)
◇
〇〇:ひなの、明日の練習試合、車で送迎しようか?
ひなの:えっ、いいの?
〇〇:明日父さん休みだから
ひなの:ありがと、助かる
◇
〇〇:なんだこれ?
ひなの:ちょっと!勝手に触んないでよ…!
〇〇:その手紙、ひなのが書いたのか?
ひなの:な訳ないでしょ、私がもらったやつよ!……///
◇
ひなの:なんで起こしてくれなかったの!?
〇〇:お父さんはちゃんと声掛けました~
ひなの:もう~!行ってきます!
〇〇:行ってらっしゃい、気をつけてな~?
◇
(コンコンッ)
〇〇:ひなの、入るよ
ひなの:💤💤
〇〇:…もう、そんなんじゃ風邪引くぞ受験生
◇
ひなの:お父さん!大学受かった!
〇〇:おぉ!おめでとう!!
〇〇:今日の夕飯は焼肉だな!
ひなの:いや、回らないお寿司がいい(笑)
◇
ひなの:就活マジ無理、どこも受からない…
〇〇:諦めんなって……
ひなの:だって〜……
〇〇:いつかご縁があるよ
◇
ひなの:お父さん…
〇〇:どうした?
ひなの:あの…、今度紹介したい人がいるの……///
〇〇:おぉ!いいよ、連れてきな?
……………………………………………………
ひなのとの色々な思い出が脳裏に蘇り、私の目から涙がこぼれる。
聖壇の前に到着し、最後にひなのにハグをする。
〇〇:…ひなの、大好きだよ……(涙)
ひなの:うん…(涙)
〇〇:いつまでも愛してるからな…(涙)
ひなのの手を取り、新郎に渡す。
〇〇:ひなののこと、大事にしてな?
新郎:もちろんです
聖壇を上がっていくひなのを見送り、私はハンカチで目を押さえながら席に着いた。
(26年間、よう頑張ったな…)
〇〇:……(涙)
どこからか聞こえてきた声に、私は涙を抑えられなかった。
Fin.