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やり直せるならもう一度あの恋を~第3話~

「本当に……本当に……」
先輩はゴクリと固唾を飲んだ。

「ありがとうございます! 清水先輩のおかげです」
「えっ?」
先輩は拍子抜けし、ビックリした様子だった。
「怒ら……ないのか? 俺のこと、責めないのか?」
「うーーん。先輩に押されて死んだことよりも、高校時代にタイムスリップできたことのほうが、俺にとってメリットが大きいんで。なんで、先輩には感謝したいです」
「そりゃ、やり直せるチャンスがきたんだからそうだけどさ。でもお前、死んで今あの世にいるっていう可能性もあったんだぞ。怒れよ」
先輩は俺にド正論を突きつけてきた。
「確かに。でも今こうしてタイムスリップできてるんで良いです。それよりも、どうして先輩は幽霊の姿なんですか?」
「あぁ、確かに言ってなかったな」

そして先輩は俺を押した後の話をし始めた。
「辛島を押した後、正気に戻って『俺はなんてことをしたんだ』って思って、お前が轢かれた後、ホームから逃げるように走り出したんだ。その後近くの歩道橋から飛び降りたんだ」
「そうだったんですね」
俺の心の中は複雑で、先輩に掛ける言葉が見つからなかった。

しばらく沈黙状態が続き、二人の間には重い空気が流れていた。
「だから辛島、本当にすまなかった。こんな先輩でごめんな」
俺は頭の中を整理しようと、ふーーっと一息ついて落ち着いた。
「謝って俺に許して欲しいだけなんでしょ。それで自分が楽になりたいだけなんでしょ」
思ってもいない言葉が、脳よりも先に口に出た。
「あぁ。辛島の言う通りだ」
俺の言葉は先輩の真理を突いたようだ。

俺は先輩の今の心理状態につけ込むようにこう言った。
「先輩、恋愛経験ってありますか?」
俺からの想定外の言葉に、先輩は一瞬ポカンとした表情を見せ「一応ある」と慌てて答えた。
それに追い打ちをかけるようにすぐさま「豊富ですか? 何人と付き合ったことありますか?」と食い気味に質問した。
先輩は戸惑った表情で「落ち着いてくれ、辛島。俺の状況で言える台詞じゃないが、結局お前は何が言いたいんだ?」
コホンと咳払いをし、俺は言いたかったことを先輩に言った。

「俺に……俺に異性との付き合い方をアドバイスして下さい!」
また先輩はポカンとした表情を浮かべた。そしてニヤリと笑いながら「お前まさか」と言いかけたところで、終業を告げるチャイムが鳴った。
日直が号令をかけ休み時間になった。

「とにかく先輩は経験を基に、俺にアドバイスをくれればいいんですよ」
俺はさっきの先輩の質問をごまかすように早口でそう言った。
しかし思うようにはいかず、さっきと同じように先輩が「恋愛経験無かったんだな」と確認するように問いかけてきた。
「ありませんでしたよ。彼女いない歴=年齢でしたよ」
嫌みっぽく言った。そして先輩の方を向くと、何かに納得したかのように頷いていた。

「辛島の後悔していたことが分かった。当ててもいいか?」
先輩の自信に溢れた顔を見れば、俺の後悔が絶対に当てられることは容易に想定できた。
はぁーーとため息をついて「どうぞ」と先輩に言った。


つづく


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