【2021ドラフト】ルーキーたちのカコ・イマ・ミライ〈投手編〉
2022年シーズンの長いペナントレースがようやく終わりを告げました。オリックスはソフトバンクとのデッドヒートを制し、ファンタジックなパ・リーグ連覇、更には日本一まで成し遂げました!
76勝65敗2分でオリックス・ソフトバンクの2チームが並び、直接対決(オリックス13勝・ソフトバンク12勝)のたった1勝が全ての命運を分けた、歴代でも最も競り合った優勝でした。すなわち、143試合の中で1つでも試合結果が変わっていれば明暗は変わっていたことになります。文字通りの『全員で勝つ』野球でしたね。
今年の長いペナントレースも、振り返れば多くのフレッシュな新人選手の活躍も見られました。
オリックスでは、ドラフト1位ルーキーの椋木 蓮投手が、7/20の日本ハム戦で「あと1球」でノーヒットノーラン達成の快投を演じるなど、来季に向けて更なる明るい星も出ています。
このnoteでは、2021年ドラフトで加入した支配下選手7名の、過去(アマチュア野球時代)・今年・未来(来シーズン以降の期待する姿)を自分なりに考察して、書いていこうと思います。
① 椋木 蓮(むくのき れん)
経歴:髙川学園高→東北福祉大→オリックス
出身:山口県山陽小野田市
ポジ:右投手(SP/RP)
一軍:4登 2勝1敗0S 17.2回 ERA1.02
二軍:9登 4勝3敗0S 46.2回 ERA3.28
東北福祉大では、右肩痛・右肘痛など度重なる故障離脱がありながらも、先発としても中継ぎとしても活躍した椋木 蓮投手。
健康な状態で投げているときのボールは全ドラフト候補の中でも圧巻。特にリリースポイントがかなり打者寄りのロースリークオーターから投じられる、シュートライズ型の150km/h前後のストレートと、そのアングルから想定以上に横方向へ変化するスライダー、入ってくる軌道から急激に沈んでいくチェンジアップの投球構成は、心が歪んでもいない限りドラフト1位に相応しい投手と見えるでしょう。
オリックスに加入後も、どの球種でも一軍レベルで通用しそうなのはいい意味で衝撃的でした。
緻密な制球力が武器の投手ではないので、逆球や意図しない高さのボールが行くこともありますが、その球も速度・威力ともに力強いため、打者に強く飛ばさせるパワーを発揮させることなく被本塁打0。どの球でもストライクで勝負できて被打率.133、WHIPは0.91とプロの打者さえも制圧。
ストレートはMax154km/h・Ave140km/h中盤〜後半と、NPB一軍選手と比較しても遜色のない速さ。ここに、股関節の柔軟性が打者に近いリリースポイントを実現させており、更には低いアングルから浮き上がるような質のボールなので、打者から見ると数値上でも十分に速いストレートが更に速く見えているはずです。
変化球においても、カットボールはサイドスローに近い位置からリリースされるため、特に右打者にとっては視覚情報から得る想定よりも更に大きな横変化をするように見えるのか、空振り率が34.8%と魔球に。
フォークも、ストライクからボールへ大きく・鋭く落とすことで高い空振り率を実現。一般的にフォークは空振率>見逃率になる傾向があるのですが、それにしても17%の差は大きく、ゾーンに残った打ち頃の絶好球にならないボールゾーンまで意図して落とす精度の高さを示唆します。
更には、このカットボールよりも遅く・大きく横変化するスライダーで緩急と横変化度の差をつけつつ、カーブで斜めの変化も採り入れるなど、変化球でグラデーションを付けられる器用さがあるなと感じました。
逆球の多さや与四球率などの制球面にはまだ未完成な部分が伺えますが、一つ一つの球自体は凄まじく、正直これ以上に変化球を増やす必要はないと思います。
一方で、これも学生時代と変わらなかったのが、故障離脱の多さでここは要改善でしょう。
幾ら凄まじい球を投げられても稼働率が低ければ "宝の持ち腐れ" に終わってしまいます。
7月の新型コロナウイルスでの離脱や、8/28(日)の野球に関係ない部分での足首捻挫での登板回避は、ある意味での「事故」(とはいえ捻挫は注意しなければならないと思います)的な離脱でしたが、2月の春季キャンプでの左腹斜筋損傷や9月の右肘痛→トミージョン手術と長期離脱が半年で二度起きたことは見逃せない部分です。
椋木投手の場合、サイドスローに近いアングルとはいえ、実際は「スリークオーターの低いver」といった身体を縦に使う形のフォームであり、選手像としては山本 由伸選手や山岡 泰輔選手らと似た身体の使い方をしています。
このような縦回転フォームでは、回旋運動+左脇腹の収縮と右脇腹の伸長が起きるので、負荷の集まる逆利き手側(左側)の腹斜筋では、疲労度やインナーマッスルの弱さなどに起因して故障が起きやすい部分ではありました(実際に由伸も山岡もこの怪我での離脱が過去にありました)。
また、自然に腕が強く振れ "すぎる" ことも、無意識的なオーバーワークに繋がっていたり、想像を超える負荷が身体のある部分に集中していたりと故障を誘発する要因になり得ます。
自身の凄まじい球を投げるスキルにフィジカルが追いついていない状態が学生時代から続いている可能性があり、まずは自身の高いスキルに耐えうるような身体が必要なのかなと感じました。
"身体作り" というと、正遊撃手の紅林 弘太郎(21)選手のような体重UP が思い浮かびますが、それ以外にも偏った筋肉の付け方をしないことや、インナーマッスルの強化など見た目に表れにくい部分も "身体作り" に含まれるはずです。
幸い今のオリックスは、そのような広義の身体作りも含めて素晴らしい施設環境・人材が用意されており、トミージョン手術後とあってフィジカルを鍛える時間も潤沢に用意されることになってしまったので、環境のバックアップも受けながら復帰後は健康な状態で投げられる期間が長く続くことを願いたいです。
⑥ 横山 楓(よこやま かえで)
経歴:宮崎学園高→國學院大→セガサミー→オリックス
出身:宮崎県宮崎市
ポジ:右投手(RP)
二軍:25登 0勝2敗6S 26.2回 ERA2.36
前所属のセガサミーでは、陶久 亮太選手兼任コーチや石垣 永悟選手らとともに主に中継ぎ投手として活躍。
横山は中継ぎがメインながら、公式戦ではエース格として自立してきた草海 光貴選手に次ぐイニングを投じており、持ち前のパワフルな投球は、不利に傾きかけた試合の流れを斬る役目に持ってこいだったと言えるでしょう。
この投手の良いところは、自身の武器がハッキリしていること。
NPB加入により競技水準が上がり、何で勝負する・何を軸にするをハッキリとできない選手もいる中で、彼は基本的にストレート&フォーク&パワーカーブの3球種がほぼ全てなので、そこで迷う必要がないはずです。
テークバックが小さく出所が見えづらいフォームから、トップを確実に置くフォームは、持ち球も含めて楽天・津留﨑 大成選手が近いのかなと感じました。
ストレートは140km/h中盤〜150km/h前半の速度で指先で押し出す形。かかりによって意図せぬシュート回転がかかる時もあり、ボール1球1球の完成度に差がありますが、バックスピンの効いた球は高めで意図的に空振りを奪える質を持っていると感じます。
二軍でも右打者・左打者相手ともにほとんどの球がストレートであり、その中で22登板・防御率2.28と好成績を残しているので、ほぼ張られている中でも結果を出せる球質を持つのは素晴らしいことです。
その球とともに軸になるのが、右打者相手だと120km/h代のトップスピンが効いて縦への変化が大きいパワーカーブ。左打者相手だと135km/h前後のフォークボール。
どちらも高さ・コースともにコントロールはアバウト目で、抜群な球はストライクからボールゾーンへ急激に変化し空振りを奪えるのですが、悪い球は真ん中〜ベルトの高さのような打ち頃に行ってしまうことも多く、一軍で勝負するには変化球の質は大きな課題になり得るでしょう。
K-鈴木投手、張 奕投手、漆原 大晟投手ら、一軍での活躍や将来的な中継ぎ・抑え投手としての独り立ちを期待されながら、中々期待に応えきれず一軍・二軍を往復する "エレベータープレイヤー" は、『良い球は日本代表級・悪い球はバッティングピッチャー』と言わんばかりに、1球ごとに投げてみないと質が分からない脆さや不安定さを抱えている印象です。
1点の駆け引きが必要なリリーフとして登板して、「悪い球」を引いたときの痛打の1点、そのたった1球が雌雄を変える致命傷になる中継ぎ投手。
緻密な部分まで含めての完璧さが求められていく中で、1つ1つの球の質に大きなムラがあるのは使いにくい部分があり、1球1球を高い質で再現していくことは、パワー100%で抑え込んで二軍成績を残す以上に大切なことではないでしょうか。
ストレート・変化球ともに、いい球のときの再現力を高めることができてくれば、二軍成績に関わらず一軍に昇格しても戦力になるでしょうし、パワー100%で抑え続けているだけなら、どれだけ二軍成績が良くても難しいのかなと感じました。
⑦ 小木田 敦也(こぎた あつや)
経歴:角館高→TDK→オリックス
出身:秋田県仙北市
ポジ:右投手(RP)
一軍:16登 0勝0敗0S 14.1回 ERA3.14
二軍:37登 0勝3敗6S 39.2回 ERA3.18
前所属のTDKでは、押しも押されもせぬエースとして活躍した選手。2019年の解禁時からドラフト候補として名前が挙がっていましたが、右肘の故障や新型コロナウイルスによる主要大会中止の煽りで流れ、3度目のチャンスで声がかかった形となりました。
きらやか銀行・小島 康明選手(後にTDK移籍)らとともに東北の社会人野球を牽引してきた選手で、佐藤監督をもって「小木田が(オリックスに)抜けて弱くなったとは言わせない」とのシーズン前の言葉が、それまで小木田に全幅の信頼を置いていたことを表しています。
この投手の良いところは、どんな環境でも臆することなく高い精度で自分のボールを投げ込める点ではないでしょうか。
『四球を出してはいけない…と感じて縮こまり、結局四球を出すかど真ん中を痛打される』選手とは真逆の、自分のベストを高い確率で発揮できるメンタリティがとても逞しく、TDK時代の「俺がチームを担う」氣概が見えます。
制圧力・制球力に課題を抱えるため、打者にファールで粘られた結果根負けしてフォアボールを出してしまうことはありましたが、ピンチに物怖じして4-0のフォアボールでピンチを更に拡大するようなシーンは滅多になく、"肝が据わってる" 逞しい投手だと思わされます。
投球としては、肩関節周りの柔軟性を活かしたフォームから矢を射るようにリリースされるフォームが特徴。セットポジションでは下半身で溜める動作が甘く少し球速が落ちるのが改善点。
球種では、140km/h中盤〜150km/h前半のストレートと、大きな横変化を備えたスラーブ型のスライダー、鋭く変化するスプリットも投じます。
173cmと背丈がそこまでなく、リリースも一般的なスリークオーターということで投球に縦の角度をフォームで付けることは難しく、スピン量に特徴がある訳でもないため、そこがストレートの空振り率の低さに繋がっているように感じました。
スラーブ型のスライダーは、コース一杯に決めたりボールゾーンまで曲げきれると高い威力を発揮しますが、ゾーン内に残ると打ち頃の球になるため被打率は.333とやや高め。現時点では被本塁打はありませんが、甘いゾーンに残った球に対してヒヤリとするような外野飛球も見受けられたため、スライダーの制球精度はウイニングショットとして磨き上げたいところです。
スプリットは対左打者において有効。この球が有効なことで、フォーム的に左打者を苦にしてもおかしくないところを、寧ろ対左打者の被打率.229 被長打率.265と通用していると推測しました。
この選手は、個人的には竹安 大知選手や東 晃平選手らとともに、中継ぎ起用をメインにしつつも谷間の先発をも支えるスイングマンとしての起用も考えて良い投手だと考えています。
打者に粘られようと淡々と仕事をし続けて一定のイニングを稼げる投手なので、個人的には先発にも一定の適性はあると感じます。
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