見出し画像

電脳虚構#8|理想的な工場

僕には夢があった。 
画家になりたくて、画ばかりを描いてる子供だった。
そしていつか世界中を旅をして
みたこともない景色をたくさん描くこと

それが僕の夢。



Chapter.1 オートメーション


僕の勤める工場も、時代と共にオートメーション化が進み、手作業の行程はとても少なくなった。 

コストカットや人員削減で、多くの人が居場所をなくし職を失った。
この工場も70%がAIが働くようになり、近い将来「人間さま」の居場所なんかなくなるのだろう。

さいわいまだ、僕の仕事は単純作業ながらロボットアームに任せるにはまだ難しかった。

手作業の繊細さ、部品のクセや不良品を見極めるアナログな判断力、イレギュラー時の対応など、到底まだAI化には遠く思えた。 

それでもコストカット、作業性の改善、良品の精度を向上するため、テクノロジーの介入しばしあった。 いつまでも、数値化できない職人気質の技術では時代にはついていけないのだ。

まず部品をセットするだけで、自動洗浄ができるようになった。 
しかもコストのかかる特殊な洗浄液などは使わず、光を照射するだけでできるというもの。
それも手作業とは比べ物にならないほど繊細に。 

高性能のカメラを導入し、部品を3Dでスキャンし、データを解析をし自動で製品の個体差を判別できるようになった。

完全なAI化にはまだ問題は山ほどあったが、僕の仕事の範疇でも手作業の負担は確実に減少してきている。


Chapter.2 憑依するからだ


あるとき、国の政策で「生体チップ」と呼ばれるものが義務化された。 

この小指の爪にも満たないほどの小さなチップが埋め込まれるというものだ。導入当初は国民の反対、安全性の問題など懸念の声で溢れかえった。

しかし時代の潮流には逆らえず、個人の認証や、公共サービスなど、様々なテクノロジーと連動して使われるようになり、 その利便性にいまやなくてはならないものになっていた。

そのチップと連動させたテクノロジーは僕の職場でも導入された。

就業開始に、作業場にチップを使ってログインをする。
作業時の行動パターンや脳波が常時スキャンされ、データが自動的に蓄積されていく。

 一定のデータが蓄積され、個人データの分析が完了すると、それを基にAIに落とし込んでいく。

その生成されたAIを、生体チップに連動させることにより「作業員のオートメーション化」が可能になった。

工場内では、それを【憑依】と茶化して呼んでいたが、まさに原理はそのものだった。
僕のAIも3ヶ月ほどで生成が完了し、憑依作業が可能になった。

就業時間になったら、作業場でログインする。
個人のAIに自動で切り替わり、憑依モードで作業が開始される。

憑依中の意識は、脳科学的には「レム睡眠」に近い状態だそうだ。
憑依モードは休憩時間以外では、よほどのイレギュラーがないと解除されない。

寝て起きたら、終業時間になっている感覚だった。

技術の進歩で、長期での憑依も可能になった。
休憩も食事も全て自動、意識レベルも完全にシャットアウトされるようになった。

もはや働きに行くというより「身体を貸しにいく」という状態だった。

一週間、まるまる会社に身体を貸し、次の一週間を休みにする。
もっと極端に一か月、一年単位でそれをくりかえす者もいた。

憑依中は8時間の作業、4時間の休息、これを2サイクル行う。
これで24時間。1日16時間労働となる。

これを休日なしでくり返すわけだから、収入としても相当アップするのだ。 
精神的な疲労もない、ましてや人間関係のいざこざもない。 
食費も光熱費もかからないため、出資も相当抑えられる。
ログインして、ログアウトしたら、お給料が入っているのだ。 

こんな素晴らしいことはない。


Chapter.3 夢の値段


僕には夢があった。 
画家になりたくて、画ばかりを描いてる子供だった。
そしていつか世界中を旅をしてみたこともない景色をたくさん描くこと。

それが僕の夢。

でも現実はきびしく、こんな単純作業の工場で生活のギリギリの給料でやってくしかなかった。

これはチャンスだった。 
僕みたいな人間でも、夢をつかめる可能性がでてきたのだ。

数学は苦手だったが、夢の為の資金を一生懸命計算した。 
いまの微々たるたくわえと合わせて、どれだけ会社に身体を貸せばいいのか、その試算だ。

いま住んでるアパートも解約をした。保険や諸経費も全て解約。 家電や衣服、身の回りのものも全て資金にかえた。

会社との契約が完了した。 
僕が会社に身体を貸す、就業期間は・・ 

「30年」 

出資ゼロの身になったいまの僕。
これらか30年後、現実にかえってきたときに残るのは純粋な莫大な貯金だけだ。

それを持って世界に行こう。
夢を叶えるんだ、一生…画を描いて暮らすんだ。






Chapter.4 SF映画のように


ピピッ!
ー 契約期間・満了 おつかれさまでしたー

ピピッ!
ー 契約期間・満了 おつかれさまでしたー


ログインしてから、目覚めるまで長いような短いような不思議な感覚だった。

身体がきしむ、まるでロボットになった気分だ。 
1週間でも、身体がなじむまでは多少の違和感はあった。 

30年間も、AIに憑依されてたんだから仕方ない。 

頭も30年分の寝起きだ。ぼーっとする。 
まぶしくて目が開けられないが、少しずつ目がなれていく。 
目を開けると、見たこともない風景が広がっていた。 
まさに昔、SF映画でみたような近未来の風景だった。 

周囲でガシャンガシャンと、未知の大きな機械が動いている。

工場全体に目が向くと、そこかしこに人型の機械が作業をしている。
あれはアンドロイドなのか、ロボットなのか。 

30年間はテクノロジーにとって「未来」に近づくにはじゅうぶんすぎるほどの時間だったらしい。 

SFの世界に入ってしまったようで、わくわくした。
街はどうなってるんだろう。世界はどう未来にかわったんだ?

はやる気持ちを抑えきれず、まだなれないきしむ身体をどうにか動かして歩こうとした。

ガシャン

バランスをくずして転倒してしまった。 
あせらずいこう、まずはゆっくりだ。

手の感覚もまだニブイ気がする。 
そして感覚を確かめるように、指を一本ずつ動かしてみる。

なんだこれは…

そこにはロボットアームのようなモノがあった。

たじろいだそのとき、窓ガラスに反射して自分の姿が映った。

大好きなSF映画でみたことのある、ロボットそのものだった。

「僕のカラダはどこへいったの?」


オススメの作品です👇


いいなと思ったら応援しよう!