02 人生テトリス -identity-[Re:電脳虚構](note創作大賞)
こちらの作品は<やなせなつみ>さんが朗読してくれています。
合わせてお楽しみくださいませ。
人生テトリス -identity-
この世の中、みんなそれぞれテトリスのブロックになり、自分の場所へとはまっていく。
向きを変え、スキマをさがし、上手に積み上がったブロックの中に溶け込んでいく。
時にスキマが生まれても、すぐ次のブロックがフォローして隙間を埋めてくれる。
そういうチームワーク、助け合いがあるのが素晴らしきこの世界だ。
僕は……、でも僕は。
いつも自分の番が回ってきても、スキマなんかない。
どんなに向きを変えても、自分というブロックがピタっとハマる場所が見つけられない。タイムアップがきて、どうにかブロックを落としても、必ずスキマが生まれてしまう。
いつも周りのブロックから「なにやってんだよ……、コイツ」という無言の圧を受けている。
たえがたい違和感と疎外感。僕はこの世界にスキマを作ってしまうお邪魔ブロックだ。
「もうこんな世界にはいたくない。
自分の必要とされる世界はきっとここじゃないんだ!」
そうやって別の世界に思いを馳せることで、逃避するようになった。
自分というブロックの存在の意味。それを誰か教えてほしいと、ただ願った。
僕は「人生のテトリス」から逃げだした。
そして誰とも、どのブロックとも交わらない世界を求め、僕は旅立った。
何日も歩いた先、荒野の果て。さびれた街の入口で、とてもきれいなテトリス棒のお姉さんに出会った。
「珍しいわね、こんなところに。
あんたもどこからか逃げてきたクチかい?
あたしは見てのとおりテトリス棒さ。
いつだって『切り札』みたいに社会のパズルに利用される、そんな日々に嫌気がさしたのさ」
長いパイプを吹かして、気だるそうに語り始めた。
「あんた。さしずめ……自分探しの旅、ってとこだね。
自分っていう存在がまるで見えてないようだ。
この街にはそういう流れ者ばかりさ」
一瞬で全てを見透かされたようだった。
僕はため込んでいた、心の中のものを全て吐き出してしまった。
「なるほどね……。
どこのブロックにもはまらないって、そりゃそーだ。
あんた、自分が何者なのか……まったく見えてないんだね。
鏡で自分っていう存在をよーく見たことがあるのかい?
きっとないだろう。ますはそれからだ。
あんたがいるべき世界。
必要とされる世界はこんなとこじゃないんだよ。
もっと世界は広いんだ。
それ知らないことには始まらないのさ」
僕のいるべき世界……、もっと広い世界。
新しい世界ってどんなところなんだろう。そう思うとワクワクした。
「そうだ、あんたにこのバスのチケットをやるよ。
この街の外れから、出ているバスさ。
そこで自分という者をもう一度、試してみるんだね」
今までどこにもはまらない、スキマだらけのおちこぼれのブロックの僕。
新しい世界でもやっていけるのだろうか?
期待と不安を抱え、バスに乗り込んだ。そのとき、お姉さんから言われた言葉を思い出した。
「鏡で自分っていう存在をよーく見たことがあるのかい?」
僕はバスの窓に映る自分とまっすぐ向き合って、存在をゆっくり確かめた。
今まで劣等感ばかりで、ずっと目をそむけていた自分自身。
こんなにじっくり向き合ったのは、生まれて初めてだった。
すると答えはすぐ目の前にあった。
僕は自分のことが見えてなかったんだ。
最初から「スキマだらけのおちこぼれのブロック」なんかじゃなかったんだ。
人生のテトリス。
もうこの世界からは、おさらばだ。
チケットを握りしめ、バスの行き先を確かめた。
この世界なら、きっとやっていける! そう確信した。
そこには「ぷよぷよ 行き」と書いてあった。
▶︎note創作大賞ノミネート作品 [Re:電脳虚構]
作品リストリンク
01 善意の都市 -bad? intentions-
02 人生テトリス -identity-
03 マッチング・アベニュー -encounter-
04 秘密の花園 -Lady Player One-(書籍未収録作品)
05 リトライ -simulator-
朗読作品リンク
01 善意の都市 -bad? intentions-(朗読:水乃しずく)
02 人生テトリス -identity-(朗読:やなせなつみ)
03 マッチング・アベニュー -encounter-(朗読:やなせなつみ)
04 リトライ -simulator-(朗読:やなせなつみ)
05 夏休みの終わりに -robotics- (朗読:水乃しずく)
「電脳虚構」はKindleでも発売中。
この話を含めた全10話のオムニバスです。
▶︎note創作大賞 [re:pairs]シリーズ(過去作のリペア作品集)
・「ニシンのパイ〜彼女の憂鬱〜」
・モノローグの雨
・主婦の戯れ〜のろけ話、お熱いなれ初め編
・“HONEY-BUNCH” X’masの魔法
・行楽シーズンのバイト
・ペットと飼い主 -pet shop owners-
・注文の多い立ち食い蕎麦屋
・不可解な詐欺