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日向猫猫の[re:pairs]シリーズ note創作大賞

▶︎note創作大賞 [re:pairs]シリーズ(過去作のリペア作品集)
・「ニシンのパイ〜彼女の憂鬱〜」
・モノローグの雨
・主婦の戯れ〜のろけ話、お熱いなれ初め編
・“HONEY-BUNCH” X’masの魔法
・行楽シーズンのバイト
・ペットと飼い主 -pet shop owners-
・注文の多い立ち食い蕎麦屋
・不可解な詐欺


note創作大賞にノミネートするために過去作をなんとなくリペアしました。
お試し用に冒頭のみをピックアップ。
気になるタイトルがあれば読んでみてくださいまし!


ニシンのパイ〜彼女の憂鬱〜

「あたしこのパイ嫌いなのよね」

つい悪態とも呼べる言葉を放ってしまった。
それは自分を騙しきれない哀しみが胸をついたからだろうか。

(私……、もっと小さい頃は本当は大好きだったのに。なんで嫌いになってしまったのだろう)

「まあ、ずぶ濡れじゃない、だから、いらないって言ったのよ」

こんなこと言うつもりじゃなかった。でも、心にかかった黒いモヤが私を襲う。

その女の子から受けとったパイは、まだ温かかった。
きっとこの大雨の中、大急ぎで来てくれたのだろう。
今ではもう……誰も食べたがらない、このパイを。

そう思ったら、どうにもやりきれない憤りに苛まれた。

「おばあちゃんからまたニシンのパイが届いたの」

こんなことを言う私はきっと、とても嫌な子なのだろう。

つづく……


モノローグの雨

外は雨模様 夢の中 濡らす蜃気楼
泳ぎ疲れて 迎える朝
虚げな窓を 見下ろす霧の遊歩道
いつかの舞台 2人の運命交錯

つづく……


主婦の戯れ〜のろけ話、お熱いなれ初め編

「魔女を殺せ!悪魔の化身を焼き尽くせ!!」

「ウウォォォオオオオーーーー!!」

「厄災はすべて燃やすのだーーー!!」

「ウウォォォオオオオーーーー!!」


群衆の狂気の怒号と、全身にはしる痛みで私は意識をとり戻した。
朦朧とする頭の中をどうにか巡らせ・・ゆっくりと記憶をたどる。

そうだ……追手から逃げている最中に落馬し、そのまま崖下へ……。
そこからの記憶はない。

城下北西に位置する闘技場、その中央に建てられた十字架。
群衆の声は四方八方から、その怒号が震え耳を襲う。

知っている、この声は全て私に向けられてる声だ。

腕に激痛が走るのは、折れているからなのか。
もしくは大きな杭が腕を貫いているからなのか、もはやわからない。

その杭は両手、両足に無造作に打ちつけられていた。
もがけばもがくほど、手足がひき千切れそうな痛みが襲う。

気が遠くなるほどの痛み、、また意識が遠のいていく……。

つづく……


“HONEY-BUNCH” X’masの魔法

それは北の北のそのまた北に位置する、とある人里離れた街の話。

その街は雪の降る季節がやってくると、毎年のように街をあげての様々な趣向を凝らした盛大なパレードがに行われ「Christmas town」と呼ばれていた。

しかしある年から異常気象がおき、パタリと雪が降らなくなってしまった。

大人達は「雪が降らなければノエルは行えない…」と、ただじっと春を待つだけの年が続いた。

「Christmas town」と呼ばれていたことは過去になり、いつしか誰もがそのことを口にしなくなり、街はしだいに活気を失っていった。

街の外れに「HONEY-BUNCH」という小さなケーキ屋がある。
ノエルを行っていた頃は街の中心に大きな店を構えていたのだが、皆がXmasを忘れていくのと共に、街外れに追いやられてしまったのである。

その店の主人であるサローニ。
彼は今となっては街の唯一のパティシエであった。

つづく……


行楽シーズンのバイト

「先輩……、ほら先輩?
お客さん呼んでますって、いいんですか?返事しないで」

「あ?あぁ……、今日はなんか客、多くね?
俺、もう喉カラカラなんだけど」

「確かに今日は男性の客、多いですけど。
最近は女子旅人気のせいで
さっきなんてあたしの客ばっかりだったんですよ?」

つづく……


ペットと飼い主 -pet shop owners-

ずっと大切にしてた相棒を失ってしばらく経つ。
木枯らしの季節のせいか、最近はやたらと背中に隙間風が吹く、そんな想いがする。
散歩もずっと一緒に行ってた、毎日かかさずに。
ひとりになってからはあてもなく、とぼとぼ歩くばかりでまるでハリがない。
そんな夢遊病ような足取りで、いつもつい立ち寄ってしまうのがこの店だ。
店内はきれいにディスプレイされ、カラフルなペット用品がずらりと立ち並ぶ。相棒と一緒に訪れ、服を選んだり、おかしを買ったりしたものだ。
店内の奥、キラキラしたショウウィンドウの中。
ズラリと並べられたゲージを眺める。
遊び跳びはねる子、気持よさそうに眠る子、ご飯を夢中で食べる子。
いろんな子がいて、のんびり見ているだけで癒される。
そろそろ新しいパートナーを考えてみてもいいだろうか……。
そんな葛藤の風が心にまとわりつき、思考の森にいつも迷い込んでしまう。

つづく……


注文の多い立ち食い蕎麦屋

俺は立ち食い蕎麦屋「一筋ひとずじ」店主だ。
近年の外食産業ブームの煽りをうけ、現在は経営難のピンチに陥っている。

祖父の代から続くこの味、この蕎麦を頑固一筋で守ってきた。
しかしこのままの経営状況では、俺の代でこの味を終わらせることになる。

頑固一筋を貫いてきたが、時代に合わせ、客のニーズに応えていかないとこの先の外食産業では生き残れない。

一大決心をし、店内に「お客様、ご意見BOX」を設けた。

トッピングにコロッケとか、かしわ、ちくわ天とかあったらいいな
(20代 会社員)

最初の意見はこれだった。

蕎麦本来の味をそこなう、揚げ物系。
俺の店では、かき揚げですら出していなかった。

しかし今の蕎麦屋には、どこもやっている人気の定番トッピング。

きつねや、山菜、餅など、昔ながらの蕎麦に「頑固一筋」にこだわって来たが、これも時代の潮流なのかもしれない。

こんなもの中途半端にやってもダメだ。

つづく……


不可解な詐欺

ある「被害者の会」の会合に出席した。
生物学者としての専門的な見解を聞きたいと、出身大学を通して依頼がきたからだ。

名簿によると被害者の会は372人。男性のみだ。
今回の会合に出席しているのは200人ほどらしい。この檀上から見下ろすと、どうやら60歳以上の高齢者ばかりのようだ。

詐欺事件とはきいていたので「高齢者を狙って金銭を騙しとるよくある手口」のものだと思ったが、どうやらそういうことでもないらしい。
むしろそんな詐欺ならば、私のような生物学者の出る幕はないだろう。

それにしても不可解な事件だ。

会合を取り仕切る会長の演説がはじまり、今回の事件の概要をこまかく話しはじめる。
この依頼を受けたあと、会長とは一度の面会の機会があった。

そのときの話はこうだった。

加害者グループは「人の善意」をくすぐるようなシチュエーションを作り出し、そしてその善意のお礼として、半ば強引に「ある施設」に連行される。

「この度は助けていただいてありがとうございました」

そう言って、豪勢な食事や高価な酒。まさに酒池肉林の大宴会が開かれる。

帰ろうとしようも強引に引きとめられ、美女をあてがわれる。
それも見たこともない絶世の美女だということだ。

つづく……


▶︎note創作大賞ノミネート作品 [Re:電脳虚構]
作品リストリンク
01 
善意の都市 -bad? intentions-
02 
人生テトリス -identity-
03 
マッチング・アベニュー -encounter-
04 
秘密の花園 -Lady Player One-(書籍未収録作品)
05 
リトライ -simulator-

朗読作品リンク
01 
善意の都市 -bad? intentions-(朗読:水乃しずく)
02 
人生テトリス -identity-(朗読:やなせなつみ)
03 
マッチング・アベニュー -encounter-(朗読:やなせなつみ)
04 
リトライ -simulator-(朗読:やなせなつみ)
05 
夏休みの終わりに -robotics- (朗読:水乃しずく)


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