お父さんへの手紙
お父さんへ
お久しぶりです。
今思えば、お父さんが生きていた頃、10年前の私はまだまだ子供で未熟でした。
あの頃の私は、到底お父さんと向き合うことなんてできませんでした。
お父さんから離れて、早く幸せにならなきゃと、お父さんのような人生は歩みたくないと、思っていました。
最期の時に、一緒にいることを選べなくて、ごめんなさい。
物心がついたころから、お母さんが泣きながらお父さんと喧嘩をする声で目を覚ますのが、とても嫌でした。
お出かけの日にお父さんの機嫌が悪くなってしまうことも、友達の家のように家族仲良く旅行にいけないことも、本当に嫌だったんです。
人間関係が上手く築けなくて、仕事が続かないお父さん。「親戚が亡くなったのでお休みを…」とお父さんの職場に謝りの電話を入れるお母さんの姿を見てきました。そんなお母さんに、家庭内で辛くあたるお父さんが、心の底から、決して好きではありませんでした。
子供心に、私はこんな大人にはならないと思っていました。小学校の頃、大人を馬鹿にしている可愛げのない子供だと先生に言われたときも、なんて未熟な教師なんだろう、こうはなりたくない、なんて思ったのを覚えています。
私はしっかり働いて、お金を稼いで、人ともきちんと関係を築ける大人にならなきゃいけない。不幸なままで死ぬなんて絶対に嫌。自分の力で幸せにならなきゃと思っていました。
社会人になって、私もお父さんと同じように人との関係の築き方が上手でないことに気が付きました。正直、今も決して得意ではありません。
そんな時、私はお父さんの子供なんだなと、暗い気持ちになりました。
子供の頃からお父さんに、お母さんに、友達にも気を遣っていました。嫌われたくなかっただけなのに、それが原因で離れていった友達もいました。人を優先しすぎて、いまだに自分の意見で物事を選んだり決めたりするのが得意ではありません。
(例えば、誰かと食事へ行く際、シェアをする場合は自分の食べたいものを主張できません。というか、分からないんです。相手が食べたいものを選んでもらえると、例え自分の食べたいものでなくても、安心してしまいます。)
こう書くと、私の人生の上手くいかないことすべて、お父さんのせいだ、と読み取れるかもしれません。実際、少し前まではそう思っていました。
でも、最近気づいたんです。
私が私の好きなところ、これからも大切にしたいことに、「人の気持ちを思いやれる優しい人である」ということがあります。
人に優しく振る舞うことは、かつて、人に嫌われないための、自分を守りながらも自分の気持ちを抑え込む行動でした。
本当に誰かを思い遣っていたのではなく、自分が傷つくのが怖かったんです。
もしかしたら、お父さんもそうだったのかもしれません。でも、以前お母さんが「お父さんは優しい人だった」と言った時、お父さんはきっと人の気持ちを思い遣れる、優しい人だったんだろうなと、思いました。
私が大切にしたい、私の良いところ!と思っているところのひとつ、「人を思い遣ることができる」は、きっと、お父さんからもらったものでした。
お父さんの優しさが、遺伝したんだと、思ったんです。
お父さんとの良い思い出は、正直、全然思い出せません。
お小遣いで買った誕生日プレゼントやバレンタインのチョコレートがそのあたりに放って置かれていたことを、今でも思い出してしまいます。
本当は、沢山喜んでもらいたかった。
本当は、沢山、楽しい思い出を作りたかった。
本当は、もっとお父さんのことを尊敬したかった。
精神を病んで、お母さんとも離婚し、その後おばあちゃんも亡くなって。
私は行政からの連絡に断りのを返事をし、お父さんは生活保護と市のヘルパーさんの助けを受けながら、最期は一人で亡くなってしまいました。
行政からの手紙でお父さんが亡くなったことと、既に火葬済であるという連絡を受けた時、正直、ホッとしてしまったこと、とても自分が冷たい人間であるような気がして、今でも思い出すと苦しい気持ちになります。
どういう経緯で御骨を受け取ったかは忘れてしまいましたが、市に手続きに行き、御骨をお寺に持っていったり、家と土地の処理をしたりと、長女である私はお父さんの死後、色々と動き回りました。
お父さんが亡くなってからは、お父さんに会うのも以前ほど苦しくなくなってきました。定期的に、お寺に手を合わせに行っていますが、気づいているでしょうか。
今、すっかり大人になった私は、ある程度大きな会社に入り、平均以上にはお金を稼げています。
人間関係を築くのは得意ではないですが、優しい人たちに囲まれていて、とても恵まれているなと思っています。
お母さんも、妹も、友人も、同僚も、周りの人を尊重できる、優しく思いやりのある、強い自分でありたいなと、いつも思っています。
私が「優しいね」と言ってもらえるのは、良い面も悪い面もありますが、お父さんのおかげなんだなと思います。
だから、ありがとう。
お父さんとお母さんの子供に産まれたから、私は人を思い遣ることができる人間なのだと、そう思います。
もっと優しくなるために、もっと私は、強く明るく、楽しい人間になりたいです。
(そういえば、心が元気な頃はユーモアもあったお父さん。)
私がお父さんからもらった私という人間を、人生を、これからもっと大切に楽しく生きていきます。
だから、お父さん。
私のお父さんでいてくれて、ありがとう。
2024.02.14 娘より
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