見出し画像

【七夕】失明【星 / 天の川 / 残像】

 見れば、街には浴衣を着た人達が行き交い、ほのかに夏祭りのような雰囲気を見せている。
 少しばかり頭を悩ませ、そして答えに思いいたる。私の表情は、酷く嫌なものを見たかのように、しかめ面へと変わっていった。

「七夕、だろ? 今日は」

 隣を歩く旧友が、慈しみと困り顔を混ぜたような顔で私を見る。その表情を見たくないのも理由の一つなんだよと、内心呟いて、深く呼吸をする。
 いつもよりも数段渋い顔をした私は、拗ねたように唇を尖らせる。気配り上手な友人はいて良かったとも思うが、同時に長い付き合いであると困るものだとも思い知った。
 天を仰ぎ、想う。私は星が嫌いだ。空に浮かぶ星々が、憎くて憎くて仕方が無い。古代の人々が思い描いた理想だって、元を辿れば、ただ恒星が燃えているにすぎない。それなのに、見初めるや否や、簡単に召し上げてしまう。
 私が求めてやまなかった星は、今はもう空の星々に列している。

「今日は早めに帰らないか? 夕食とか、あんまり遅くなってもーー」
「私がそういう事されるの、嫌なの知ってますよね」

 思わず刺々しい声が出る。嫌そうな雰囲気と、イライラとした言動が、望まなくとも溢れ出てしまう。こんな態度、取りたいわけじゃない。
 それだというのに、彼は態度を変えず、つまらない冗談を指摘されたように気弱な笑みを浮かべた。
 優しさをはらんだ笑いが、ささくれだった私の心に罪悪感を感じさせる。

「……分かった。じゃあ、必要なものは買いに行く。でも、寄り道はしない。それでいいか?」
「そうしましょう」

 結局、彼が出した折衷案に落ち着く。
 彼を見ているようだが、私の視界に彼はいない。焼けついてしまった残像のような空想を、ずっとずっと追い続けている。
 今歩いているこの道も、これから歩く交差点も、ひとたび目を閉じれば、目の前にあるかのように鮮明な姿を思い描くことができる。その中心には、常に一つの星が瞬いている。
 今は焼け尽きて、置き土産のように私を失明させた、まばゆい星が。空にあるのと同じように、地上で私を焦がし続けている。

「前、見ないと危ないよ」

 彼の言葉にハッとして、意識が前に向く。すれ違いざまにぶつかるはずだった私の腕を引き寄せ、彼が半身下がる。おかげで、今回はぶつからずに済んだようだった。ありがとうと、一言お礼を言う。
 彼とは、険悪な雰囲気になることは滅多にない。だがその分、彼が日頃から私に気を使ってくれているのを知っている。そして、私はそれに感謝と、形を返して、この関係を続けている。
 ワガママを言いたい訳じゃなく、私もきちんと彼に返すものを用意したい。
 結局、私には彼が必要なんだ。彼と手を繋ぎ、道を歩く。足裏に、点字ブロックのオウトツが伝わってくる。

「今日は何がいい? 相変わらず雨で湿気もすごいし、素麺で涼を感じるっていうのもいいと思うんだけど」
「……そうですね。お素麺、いいと思います。氷でも入れて、よりさっぱりさせましょうか」
「流石。よく分かってるな」

 大通りの交差点。その信号が変わり、大勢の人がこちらに向かって流れてくる。
 私と彼はそのまま、人混みを避けるように端へ避けて駅へと向かう。

 交差点の対面で、焼け尽きた星が瞬いた。

ヘッダー:みちるのーと 様

(https://twitter.com/Rain_iscream)

いいなと思ったら応援しよう!