【猫の日】迷い猫【Vtuber / 雛杜雪乃 / if日記】
気が付けば、目の前にピンク色のニンゲンが座り込んでいた。
「……あれ? おやおやおや?」
ソイツは、金を思わせる琥珀色の眼で、私をじっと覗き込む。コイツから感じるどこか薄ら寒い忌避感に、全身の毛が逆立つ。しかし、ささやかな抵抗を気にも止めず、ピンクは私の両肩を掴み、優しく起こす。
「どうやって入って来たんです? 今、ドアは開けてなかったはずなのに。……それに、随分と可愛らしいですね」
ニヤケ面が鬱陶しいが、どこかこの笑顔が喜ばしい。無意識に鳴ってしまう喉が、私の気持ちを伝えてしまう。
それが悔しくて、両手を伸ばして抵抗の意を示した。近寄るな、こっちを見るなと。
「はいはい、わかりましたよ。まだドアは開けられないので、もう少ししたら帰してあげますからね。それまでは、うちの子としてくつろいでいてください」
ピンクはそう言うと、私の体をソファに下ろしどこか出したのか食事の準備を始める。途中まで夕食の支度でもしていたのだろうか、調理台の上にあったかつお節を一掴みし、皿に盛って私の食事まで準備をし始めた。
それが、たまらなく美味しそうに見えた。私は空腹感に耐えかね、一目散に目掛けてかつお節に飛びかかる。が、その瞬間、調理台とフローリングから凍えるような怖気を感じて、思わず椅子を蹴散らしながら身を翻す。
「あーあー、ダメですよ。もう少しだけ待ってください」
ピンクは、何事も無かったかのように手早く料理を終わらせ、自分の食事を盛り付ける。
度々こちらを見て、嬉しそうで楽しそうな笑顔を見せるのが無性に腹立たしい。……しかし、かつお節には代えられない。あの柔らかそうな頬に、いつか爪を立ててやろうと固く誓い、私はようやく夕食へとありつくのであった。
ーーそれからしばらくあと、十二時の鐘が鳴る。
ピンクは、私達のように体を大きく伸ばし、名残惜しそうな顔でこちらを向く。
「さて、残念ではありますけど、もう猫の日は終わっちゃいました。偶然とはいえ、面白い姿を見られたのはとっても良かったですよ」
何を言っているのかよく分からない。だが、ピンクは私に片手を伸ばす。仕方がない。そこまで撫でたいのならば撫でさせてやろう。全くニンゲンは可愛らしさに抗えない、愚かな生き物だ。
私が喉を鳴らしながら顔を上げたのも束の間、ピンクは私の頭に手を置きーー雛杜、雪乃の、瞳が妖しく光る。
「ーーお疲れさまでした。ドアは開けておいたので、帰りはあちらから。また明日遊びましょうね?」
彼の優しく、面白そうな笑顔に、とてつもなく恥ずかしいものを感じて……。
……私は、先程と同様に、椅子を蹴散らしながら自室へと駆け込むのであった。
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