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メリークリスマス 私。

12月25日

街も人の心もクリスマスで浮かれている。もちろん私だってあの浮きだった気持ちが嫌いなわけではない。それでも毎年この日が来ると身が引き締まるような気がする。

離婚届を提出した日。

お互いの名前が入った離婚届を持ち役所への道を急ぐ。たぶんクリスマスの彩りは残っていたと思うがまったく目に入らなかった。この数ヶ月は別れたいという思いだけで生きてきた。だから今日という日をずっと待ち望んでいた。それなのにまだ引き返せると心の中の悪魔がささやく。これでよかったのだろうかと自問した。役所が見えたときに、私は立ちくらみし道路で座り込んだ。これを提出したら全て切れてしまう。別れたいほどの人でもかつては愛していた人だったということだったのだろうか。

たかが紙されど紙。このたった一枚の紙で人がつながったり切れたりする。この一枚の紙を巡って私たちは争った。夫婦は恋愛の延長ではないということ改めて考えさせられた。私が我慢さえすればこの婚姻生活は続いていただろうし、争うこともなかっただろう。その時は逃げることしか考えていなかった。そんな私のことを批判する人もいたし、我慢すれば安定した生活ができるといった人もいた。

それでもこの道を選択した。

時々元夫の夢を見ることがある。当たり前のように一緒に住み、そして元夫が帰ってくる前に見つからないように隠れる。何度も同じ夢を見る。これは何かの予言なのかそれとも何かを恐れているのかはわからない。ただ、言い残していることがあるのだと思った。別れたあの日から一度も顔を合わせていない。たぶんこの先二度と会わないのだろうと思う。ただ、憎み合ったままでいたくなかった。ただそれを伝えることはもうない。私は結婚していたときも何も伝えなかったのではないかと思う。もしも感じていることを都度伝えていたら私たちの関係も違っていたのかもしれない。そんなことを思いながらも、忘れていき思い出した頃にまた夢を見る。

あれからいくつかのクリスマスが通りすぎた。

いつも何かに寄りかかり依存しずるい生き方をしてきた。歪んでいたしどこか壊れていた。そうしなければ生きていけないなんていうのはただの言い訳なんだろうと思っている。自分がどうしたいというよりはただ欲望のままに流されていたのだと思う。

だから、私はがんばったなんて言えない。

それでもようやく心の余裕を感じるようになった。それはすなわち現実が見えるようになったということでもある。そして希望よりも不安の方が大きい。それは私が歳を重ねてしまったということなんだろう。

クリスマスが近づく度に心のざわつきを感じる。それでも街のイルミネーションを見ては心を踊らせる。この時だけは少しだけ時間の流れをゆるやかにしてゆっくりと先のことを考えたい。

だから今日だけは、メリークリスマス。私。


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TOP画像はmsy.さんに描いていただきました。12月はモニターとしてコラボさせていただいています。