土木の役割(防災)
工業高校に勤めて27年目になります。大学から学んでいますので、土木との関わりは31年目です。
建設・測量・設計コンサルタント会社、国・都道府県・市町村の立場と異なり、教育するという立場で土木に関わって参りました。
学生の頃は、橋の設計に携わりたいと考え就職活動をしていたのですが、故阿部泰夫教授(東北学院大学工学部土木工学科)にアドバイスをいただき現在の仕事に就きました。
さて、「土木の役割」について最近よく考えます。スマートな回答としては「社会基盤としての役割を担い、人々の生活を支えている」ということだと思います。
ところで、東日本大震災では、甚大な大津波による被害により多数の尊い命が奪われました。
「防潮堤は津波を止められなかった」「防災としてのインフラ整備に問題あり」当時の報道で耳にした言葉です。確かにそれはそのとおりです。現実、津波は防潮堤を軽々と乗り越えましたし、それを抑止するための構造物(もっと高い防潮堤)を建設することは技術的には可能だったからです。
しかしながら、ここで土木を教育するものとして考えたいこと(生徒に教えたいこと)は、「0(ゼロ)100(ヒャク)思考で防災は成り立たない。」です。
先の防潮堤の話で言うと、「防潮堤は津波の陸地への侵入をなるべく遅くする役割を果たした」「防災としてのインフラ整備は、予算や地域住民との話し合いの中で可能な限り果たしてきた」これが現実的かつ正しい理解だと思います。
昨今、地震・豪雨・地盤崩れ等、温暖化も起因して予想を超える災害が全国各地で起こっています。
辛い言い方ですが、被害を完全(100%)に防ぐ構造物を建設するのは現実的に不可能であることを先ずもって認識しなければなりません。
その現実の中、「予算」「地域住民の皆様の理解」「環境」「景観」など様々な要素を考慮しながら、インフラ整備や維持管理に取り組み、なるべく100(ヒャク)に近づけていくことが土木の役割であると思います。
「救われた命」と「失われた命」、それが「100(ヒャク)」と「0(ゼロ)」になることを目指して土木の仕事は続きます。
ほとんど報道もされませんし、その数もカウントすることはできないのですが、「防潮堤」が救った命も数多くあることを最後に書き添えます。