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感想「映画『サユリ』」
本日8月23日、映画『サユリ』が公開日されました。
めっっっちゃ面白かったです!
興奮冷めやらないので語りますね。
・概要
タイトル:サユリ
原作 :押切蓮介
ジャンル:ホラー(R15)
事前情報としてはこんな感じですかね。
R15のホラーって時点でもう怖い。ていうか怖かった。
そういう意味じゃ万人には勧められないタイプの映画です。ここ最近のホラーと比べても頭一つ抜けて怖かったので。
でもそれを踏まえて尚、オススメしたいです。怖いって事はそれだけ心を動かされたって事ですし、貴重な体験ですよね。
どう怖かったかは、後でじっくり話しますね。
・原作について(ネタバレなし)
前述の通り、この映画には原作があります。
全2巻の漫画ですが、完全版が発刊されているみたいですね。
わたしも昔ちょろっと読んだ事があります。その頃から気になっていたんですが、今になって映画化したのは嬉しい限りです。記憶も薄れている頃なので新鮮な気持ちで観られました。
ちなみに作者の押切先生は非常に多芸で多作です。
※ハイスコアガール(ラブコメ)
※でろでろ(一話完結型ギャグ)
※ゆうやみ特攻隊(因習島バトル)
※ミスミソウ(胸糞ホラー)
どれも面白いです。特に「でろでろ」は怪異系かつ爽やかなギャグで、しかもキャラも可愛いのでオススメしたいです。
さて、サユリの話です。
全2巻で短くまとまったホラー漫画です。読んだのが結構昔なので詳細までは覚えていませんが、映画はかなり原作に忠実だったと思います。
ほら、時々あるじゃないですか。
既存の登場人物の性別を変えたりとか、存在意義の分からないオリジナルキャラクターが生えてきたりとか。
原作ファンとしては憤慨モノなのでわたしもその点はかなり気にしていたのですが、大きな改変は無かったので安心しました。
小さな変更点はありましたが、どれも映画としてすごく良いフレーバーになってたと思います。漫画と映画じゃ媒体が違う以上、そういう細かい点は違って然るべきですもんね。
ちなみに原作を知らなくても映画は問題無く楽しめます。
レッツ初見視聴!!
・映画本編について
いよいよ映画本編の感想をぐだぐだ述べます。
長くなりますけど、お付き合いお願いしますね。
※ここから先はネタバレだらけなので、ご注意ください。
①序盤(家族惨殺パート)
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いやあ……
キッッッッツいなあ……!!!!!
原作読んだので、大筋は理解してるんですよ。
主人公の則雄とばあちゃん以外は殺されるっていうのは既に知ってます。
それでも尚、キッツいです。
恐怖でゲボが出そうだった(ハルオ並感)
なんなら人死にが出る前からキツかったですよ。弟くんがお姉ちゃんに頭ぶつけられるシーンとかガクブルでした。
というかここってぶっちゃけ溜めパートじゃないですか。
わたしとしては当初、メインのババア無双を楽しみにしていたので、むしろ「死ぬなら早くしてくれ」くらいの気でいたんですよ。
でもね、駄目。
特に弟が死ぬシーン、グロさよりも悲しみが勝って泣きそうでした。
ていうか演出が怖すぎるんですよ! 効果音とカメラワークが仕事しすぎ!
よくあるホラーの演出だと、大きな音と突然現れるエネミーでドッキリさせる系が多いですよね。
わたし、そういうのって嫌いなんですよ。
いわゆる「ジャンプスケア」ってやつ。
普通に心臓に悪いし、邪道な気がして。上級なホラーならシチュエーションとストーリーで怖がらせてほしいものです。
この考え方には賛否あるかと思われます。演出としては非常にメジャーな手法ですし、そういうの好きな人もいるでしょうしね。
ご安心を。
この映画ではジャンプルケアを活用しつつ、シチュエーションとストーリーで揺さぶってきますので。
お父さんとおじいちゃんが死ぬところまではまだ前段階です。
弟の死に方怖すぎるし、畳みかけるように姉、母が死ぬのはもう見ていられないです。最後の方なんて膝がっくがくですし、お腹も痛くなりましたよ!
家族が死ぬ度に感じる主人公の悲哀、感じます。
後の展開があるとはいえ、大事な家族をテンポ良く次々と失う場面ですもんね。最初の方で「早くしてくれ」なんて考えていたのが自分で信じられないくらい感情移入しちゃいました。やっぱ劇場効果ってすごいですね。
②ババア無双
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この映画のメインにして最大の見どころです。
ババア……かっこいいッ!!!!!
序盤の畳みかけるような不幸から覚醒するババア。絶体絶命の則雄を救ったヒロイックな展開も含めて、完全に主役ですねこれ。
かっこよすぎて大好き!!!!!
やっぱさあ……カタルシスってあるよね。
序盤はまさにやられ放題。
ホラーって普通、やられ放題なんですよね。でもこの映画に関しては、ここからはっきりと逆襲パートが始まります。
おばあちゃん覚醒からの、明るい展開。
「命を濃くする」って表現、エモーショナルすぎて大好き!
そこから則雄も目に見えて明るくなって、ホラー展開もなくなって爽やか一転。急に映画のジャンルが変わったみたいに胸が軽くなりました。
太極拳からの修行展開。元気になって学校に通う則雄に観ているこちらもにっこにこですよ。
ホラーは胸糞なだけじゃないというのが、この映画でよく分かりますね。
③ババア無双2
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再び現れるサユリ。
からのそれさえものともしないババア無双本当好き。
こういう地縛霊的なホラーものって普通、舞台そのものが敵になるから安息地が無いんですよね。
悪霊が蔓延る場所で寝泊まりなんて冗談じゃない。現に家族はそうやって取り殺されているわけですし。
でもおばあちゃんがいるだけで、安心感が段違い。
おじいちゃんの行動をトレースして庭を掘るおばあちゃん。
則雄からすればちょっと不安ですよね。
でもババア無双は止まらない。
当然のように正気な上、サユリの遺骨まで掘り当てる頼もしさたるや。
振り返ってみると、則雄はこの展開に対してほとんど受動的というか、逃げ腰です。一介の中学生なので当たり前なんですけどね。
その則雄を、おばあちゃんが常に引っ張ってくれます。
住田というラブコメ軸がある以上主人公は則雄なのですが、おばあちゃんは狂言回しというには行き過ぎなくらい活躍してくれます。
現にエンドロールではヒロインである住田より先にキャスト出ますしね。
そういえば無双ババア役の人って、「変な家」でチェーンソー振り回していたお婆さんなんですかね。ホラー適正ありすぎでしょこの人。ファンになるわ。
④終盤(復讐パート)
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生命を濃くして防衛するだけじゃ済まないのがこの映画の良いところ。
悪霊であるサユリに対し、則雄とおばあさんは「復讐」を誓います。
ホラー映画において、エネミーである悪霊は基本的に理不尽かつ無敵であるのが普通です。スプラッターならともかく、霊に対しては逃げるのが最適解ですよね。
そんな常識をぶち壊し、反撃するのはカタルシスありますねえ!!!
悪霊であるサユリの身元を突き止めるのみならず、家族を攫って家に連れて来るという暴挙。アウトローな無双ババアにこそ許される(許されてはない)所業で素敵ですよね。
原作では非常に疾走感溢れる展開でしたが、映画では則雄の心情に焦点が当たっているため、落ち着いたシーンでした。
おばあさんのやり方を間違っていると咎めつつ、自ら積極的に加担するあたり。受動的だった則雄が成長して積極性を見せるシーン、いいですよね
⑤サユリの事情
拉致った家族を前に、サユリの過去が描写されます。
……
キッツ(二度目)!!
サユリの事情に関しては、多分映画オリジナルですよね。
原作では引きこもりのサユリを家族で結託して殺した、という程度の説明くらいだったと思います。父親周りの下劣な展開(敢えて明言は避けます)は、押切先生の作風に合わないですし。
でも映画という媒体としては、良いフレーバーだったと思います。最後の成仏シーンが爽やかになりますし。
でもさあ……ちょっとえげつなさすぎない?
R15だし文句は無いけどさあ……サユリが可哀想すぎて泣けます。
それはそれとして、則雄の家族を惨殺した事はめちゃ許せんよなあ!?
正直、この一事があるからどんなにサユリが可哀想でも許したいという気は毛頭芽生えません。
だからいいですよね!
ホラー映画のエネミーを心情的に許してしまったら、いろいろと終わりですし。どんなに悲惨な過去を盛ったとしても、それはそれで文句無く倒す。それこそがカタルシスです。
最後ちょっといい雰囲気で成仏した感じなのは個人的に微妙ではありますが、まあそこはいいです。
どっちかというと、悲しい過去がサユリのバケモノのような姿に対する説得力を生み出しているあたり、そちらの方に脱帽です。
「綺麗だから悲劇に遭う→醜くなればいい」という発想から醜悪な姿に変貌するサユリ。ホラーとしての絵面の怖さを強調する設定で膝を打ちました。
⑥サユリの家族について
容赦無くて笑いました。
罪の無い則雄の家族が殺されている以上、確かにサユリの家族も殺されて然るべきでしょう。でも確か原作と結末が違うので驚きました。
確かにあの父親に関しては生きているより死んだ方がすっきりしますね。
妹もまあ、サユリ殺しに加担している以上しゃーなし。
母親だけ例外なのは腑に落ちませんが、ラストパートを円満に終わらせるためには仕方がないでしょう。
サユリの家族は一概に悪とは言い切れません。
父親はさておき、母親と妹は純粋な被害者としての側面も強いでしょうし。サユリがあの年齢になるまで家庭内暴力を繰り返していたと考えると、多少の恨みもあるでしょうしね。
でもその末が人殺しだと思うと、同情には値しません。
則雄の視点から見ると弱者だったサユリの家族も、ある意味立派なエネミーです。彼らの末路はそれはそれでカタルシスを感じました。
⑦ラスト
序盤の惨殺や終盤のグロ展開が嘘みたいに綺麗に終わりましたね。
ホラー映画は後味が悪いものが多いです。一見綺麗に収まっていても実は邪悪の根源が残ったままだったり、唐突に第二のエネミーが生えてきたりと、最後まで悪意たっぷりの場合が多かったりします。
でもこの映画に関してはその限りではありません。
サユリは成仏し、サユリの家族も三人中二人死亡し、残った一人も失明という重い咎を受けました。もはや則雄に害をなす存在はいません。
家族を失い、頼りになったおばあさんも再びぼけてしまい、お金も無くアパートに住みながら苦学生となった則雄。
状況だけ見ればかなり苦しいでしょう。少なくとも家族みんなで幸せだった時期を考えると、ひどい転落っぷりです。
でもラストは爽やかで、希望に満ちた終わり方でした。サユリと対峙するために修行を積み、おばあちゃんの意志を継いだからでしょう。
たとえこの先、サユリのような悪霊が立ち塞がったとしても、則雄ならうまくやっていくだろう……そんな信頼がありました。
ホラー映画でこんなに爽やかな終わり方が見られるとは思いませんでした。後味が良くて最高です。
このエンドに一役買っているのは、住田の存在でしょう。
⑧住田について
則雄の家族でもなければサユリの家族でもない、完全な部外者である住田。
彼女はこの映画において、ラブコメ要素を一手に引き受けています。
それ以外にも、則雄の日常に彩りを与えている欠かせないポジションでもあります。終盤はサユリに囚われるし、王道のヒロインですね。
映画の盛り上がりを演出するのに欠かせない存在だったと思います。
彼女あってのハッピーエンドですよね。
・まとめ
控えめに言って、最高の映画でした。
わたしが今まで見たホラー映画の中でも、最高峰と言っていいと思います。
とにかく怖いし、怖いだけじゃない。
胸が熱くなる展開もあれば、甘酸っぱい恋愛もある。
目を背けたくなるようなグロさも、胸糞悪くなる下劣な展開もある。
それでいて最後はハッピーエンド。
もうね、いいところばっかりですよ。
強いて言えば、最終版のサユリのCG感だけ残念でした。でもあれはあれでいよいよクリーチャー感があったし、そう悪くもなかったかな。
それ以外は文句のつけようもなかったです。
是非全人類に観てほしい映画の一つとして、わたしの中でノミネートされました。
……
いや、やっぱ人を選ぶか。
怖いもんね、ホラー。R15だし。
とりあえず、漫画から読んでみるのをオススメします。
耐性があると思ったら、映画も観てみてください。