漫画紹介「シメジシミュレーション」
※再掲載記事です。
ジャンル:SF、既刊1巻
「シメジシミュレーション」はKADOKAWA「コミックキューン」にて連載、作者は「少女終末旅行」のつくみず先生です。2月末に第1巻が発売されたばかりの新しい漫画ですが、既に面白いです。
・あらすじ
ある朝目を覚ますと、頭にしめじが生えていた。
頭にしめじが生えた無気力少女の「月島しじま」は、高校入学時に頭に目玉焼きを乗せた少女「山下まじめ」に気に入られる。見るからに異質で奇妙な二人の外見の理由は何の説明もなされないまま、二人の高校生活がスタートする。どこか物悲しい雰囲気が立ち込める日常物語。
・魅力その1、哲学的な話
前作「少女終末旅行」でもそうでしたが、この漫画は一つ一つのエピソード哲学的です。悟っているというか諦めているというか、どこか退廃的な登場人物達が思考の果てに辿り着くのは、独特な価値観の解釈になります。意味深な言葉運びや少し不思議な物語がクセになります。
・魅力その2、ローテンポな展開
物語は非常に緩やかに進みます。この漫画は分類としては4コマ漫画に属するのですが、あくまでコマ割りが4コマというだけで、無理に4コマ目にオチをつけようとはしていないようで、惜しげも無く「間」を取ります。白と黒に特徴のある背景は静かな世界を連想させ、より物語の雰囲気を無気力的に表現します。「あだち理論」ではありませんが、間によって物語への没入感が深まって、ふわふわとした気分になるのです。これを心地良いと表現するか、地に足が付かずに落ち着かないと表現するかは個人差があるでしょう。わたしは前者です。
・魅力その3、二人の関係
しめじと目玉焼きは正確が全く異なります。しめじは無気力で淡泊で、目玉焼きはテンション高めの行動派という風なので、必然的に当初のアプローチは目玉焼きから行われます。しめじの方は初日から目玉焼きへの印象は悪く、二人の関係は険悪ではないものの、お互いがお互いに向ける感情はかなり温度差があると言っても良いでしょう。
けれどその辺の変遷も緩やかにですが描かれるようです。まだ決定的な描写はありませんが、少なくとも1巻終盤において、深層心理の中でしめじも目玉焼きの事を悪しからず思っている事が暗に示されており、関係の変化が期待出来ます。
・魅力その4、クセのあるサブキャラ
1巻時点で気になったのは三人。一人はしめじと目玉焼きが所属する部の顧問「もがわ」。しめじとは別のベクトルで人生を諦めているような性格の彼女はなかなか独特な感性の持ち主なので、二人との絡みが面白いです。
気になったもう二人は、しめじと目玉焼きがファミレスであった二人の女性。いずれも前作で見た事あるようなないような造形です。世界観があまりにも異なるので今のところなんとも言えませんが、もしも彼女達の終末旅行の帰結がこの世界なのだとしたら、なるほど感涙です。
・魅力その5、少し不思議な世界観
しめじの姉は研究者のような事をしています。しめじ曰く頭が良いそうですが、やっている事は謎の装置を使用して奇行を繰り返しているように見えてしまいます。ただし彼女の研究は伊達や酔狂ではないらしく、終盤で不思議な現象を巻き起こします。この漫画がただの日常系ではなくSFたる所以です。
その他にも随所に見受けられる不思議な部分が、まるで壁一枚隔てた向こう側に存在する巨大な謎を前にしているかのように描写されています。この辺りの要素が縦軸となって今後展開されるのか否か……楽しみです。
総評
控え目に言って最高です。待ち望んだ甲斐がありました。このまま延々と主役二人の日常を垂れ流すのもよし、SF方向に振り切るもよし、どう転んでもいち読者のわたしとしては期待通りのおいしい展開なので、絶対に2巻は購入します。そしてこの漫画の魅力を他の人にも味わってほしいので、ぜひぜひオススメしておきます。
私的好感度98/100、オススメ度98/100