【集中講義Ⅷ】うみねこ考察:魔女とはなにか
はじめに
うみねこ考察、今回がラストです。
今回はうみねこに登場する魔女について考察したいと思います。
作中において、魔女という存在の概念はかなり重要でありながら、抽象的にしか語られていません。魔女とは何か、どういう存在を指すのか、魔女には何ができるのか。
この項目ではそれについてを語りたいと思います。
・作中に登場する魔女一覧
まずはじめに、作中に登場する魔女を一人ずつ挙げていきましょう。
ベアトリーチェ
ベルンカステル
ラムダデルタ
エヴァ・ベアトリーチェ
ワルギリア
マリア
エンジェ・ベアトリーチェ
フェザリーヌ
エリカ
バトラ
以上10名。
それぞれ等しく魔女(バトラは魔術師ですが、面倒なのでここでは魔女と呼びます)ですが、成り立ちや立場、能力まで全く異なります。その特質の違いはそれぞれどのようになっているのか、整理してみましょう。
①役割としての魔女
作中……つまり盤上世界において、魔女という役割を持って生まれた便宜上の魔女がいます。
ワルギリアがそうです。
ワルギリアは幻想世界において先代ベアトリーチェとして登場しますが、その正体は熊沢を依り代に生み出されたベアトのイマジナリーフレンド。
立場としては源次を依り代に生まれたロノウェと同じで、マリアージュ・ソルシエールを出自としています。
そしてロノウェが序列27位の大悪魔という設定であるのと同様に、ワルギリアもまた先代魔女であるという設定に過ぎず、ロノウェが厳密には悪魔とは関係のない存在であるのと同様に、ワルギリアもまた厳密な意味では魔女とは呼べない存在なのでしょう。
②盤上世界から成り上がった魔女
ベルンの言うところの成り駒というポジションです。
元々魔女ではなかったが、ゲーム盤上で魔女になる条件を満たしたがゆえに魔女になったというパターンです。
エヴァやバトラがこれにあたります。
絵羽も戦人も他の盤上の駒と変わらない存在でしたが、絵羽は碑文を解いた事、戦人はゲーム盤の最大の謎に気が付きゲームマスターとなったことにより、魔女・魔術師の称号を得ています。
この際エヴァはベルンから、バトラはラムダから承認を得て、正式に魔法を使用する力を得ています。ワルギリアと違い、この辺が正式な魔女である所以でしょう。
③上位存在から任命された魔女
②のケースと似ていますが、こちらは魔女に任命される条件は特に無く、ただ上位の魔女に任命されて魔女となったパターンです。
ベアト、エンジェ、エリカ、マリアがこれにあたります。
ベアトはラムダから、エンジェ、エリカはベルンから、マリアはベアトから承認を受け、魔法を使えるようになっています。
ただしマリアの場合、「未だ魔女見習い」というフォローがされていますが。
④航海者の魔女
カケラ世界を自在に行き来できる元老院の魔女です。基本的に他の魔女より上位の存在として振舞っています。
ベルンカステル、ラムダデルタがこれにあたります。
他の魔女とどういう点でどうして違うのか、考察する主だった点となるでしょう。
⑤分類不能
航海者の魔女よりもさらに上位に位置する作中最上位の存在。
言うまでもなくフェザリーヌがこれです。
魔女を語る上で重要そうなポジションに見えますが、上位の存在過ぎて作中ではほとんどその実情に語られないので、あまり考察する点がありません。
以上五つに分類してみました。
①と⑤はあまり参考にならないので今回の考察からは除外します。よって考えるべきは②、③、④のケース。この三種類のモデルケースから、魔女という概念を追っていきましょう。
・魔女になるには
②③のケースおよびエヴァの任命式での発言から、魔女になるには元老院の魔女の承認が必要という事です。
では元老院の魔女ってなんでしょう。
一般的な元老院というと、権力者や知識人を集めた権威ある国家の意思決定機関という感じです。簡単に言うと株主総会みたいなもんですね。その定義に照らし合わせると、元老院の魔女とは株主みたいなもんという事。要するに偉い魔女という事でしょうね。
という事で、エヴァの任命式での発言を言い直すと魔女になるには偉い魔女の承認が必要という事です。
作中で言及されている元老院の魔女はベルンカステルとラムダデルタの二名のみ。つまりその二人に承認されていない魔女は、厳密には魔女ではないという事になります。
本人が元老院の魔女である④は別として、②③でそれに該当しないのは、ベアトから承認を受けて魔女となったマリアです。つまりマリアは厳密にはまだ魔女にはなり得ないという事です。
・魔女にできること
では魔女には何ができるのか。
魔女には魔法が使えるというのがその答えだとは思いますが、では魔法とはどういうものなのかという話になると難しいですね。
②③④の魔女はそれぞれ魔法を使いますが、皆使う魔法の種類と趣が異なります。
ベアト→瞬間移動、空中浮遊、召喚(煉獄七姉妹その他)
ベルン→瞬間移動、空中浮遊、召喚(猫、猫の鯨)、カケラ移動、タイムリープ(EP5での謎解きやEP8での対バトラ戦等)
ラムダ→瞬間移動、空中浮遊、召喚(お菓子)、カケラ移動
エヴァ→瞬間移動、空中浮遊、召喚(シエスタ姉妹兵)、蜘蛛の糸での攻撃、念動力(EP3にて楼座・真里亞殺害時に使用)
マリア→召喚(さくたろう)、念動力(EP4にて楼座に使用)
エンジェ→召喚(煉獄七姉妹、さくたろう、マリア)、反魂、黄金の真実
エリカ→瞬間移動(EP8にて楼座戦で使用)、空中浮遊(EP8にてバトラ戦で使用)、召喚(天界異端審問官)、鎌での攻撃
バトラ→瞬間移動、空中浮遊(EP8にてエリカ戦で使用)、召喚(ワルギリア、ロノウェ)、黄金の刃(全魔法防御無効攻撃)、エンドレスナイン(全魔法攻撃無効化)
以上。
全員に共通するのは召喚くらいでしょうか。では召喚は魔女にしかできないかと言われると、そんな事は無いでしょう。
魔女になる前のエリカにもドラノール達を呼べましたし、誰から承認を受けたわけでもないエセ魔術師の金蔵もシエスタ姉妹兵やガァプを召喚できました。多くの魔女が使える瞬間移動だってロノウェやガァプもやっていますし、なんなら普通の人間である譲治や朱志香さえも物理攻撃に魔法を加える攻撃手段を確立しています。
つまり、魔女=魔法が使えるではあっても、魔法が使える=魔女というわけではないようです。
・魔女と魔法使いの違い
では魔女と、魔女ではないけれど魔法が使えるその他の存在(ここでは便宜上"魔法使い"と表現します)との違いって一体なんなんでしょう。
ここで、作中において魔法を使っている人物とその内容を羅列してみましょう。
・金蔵→召喚(シエスタ姉妹兵等)
・譲治→反射
・朱志香→拳強化
・紗音→シールド?
・嘉音→ソード?
・ロノウェ→反射バリア
・ガァプ→瞬間移動
・エリカ(魔女覚醒前)→召喚(天界異端審問官)
こんなところでしょうか。これらの人物は大きく分けて三つに大別できます。
(1)盤上世界の人物
金蔵、譲治、朱志香、紗音、嘉音の5人は盤上世界の住人で、魔女幻想の中で魔法を使用します。
(2)幻想世界の人物
ロノウェ、ガープは幻想世界の住人で、盤上世界・幻想世界ともに魔法を使用します。
(3)その他
エリカは分類が非常に面倒です。元々ベルンがゲーム盤の外から連れてきたおそらく実在の人物という事で、幻想世界の住人でありつつもロノウェやガープとは異なる存在です。
さて、この三種類の魔法使いと魔女の違いを挙げてみましょう。
(1)に関しては簡単です。金蔵達が力を振るう事が出来るのはあくまで盤上世界のみで、幻想世界でその魔法を使用する事は出来ませんでした。
つまり彼らの魔法はあくまで盤上という作中作の中での設定であり、盤外に持ち込む事は出来ないフレーバーテキストなのでしょう。
(2)に関しては、出自についてが魔女と異なります。ロノウェやガープは上に挙げたワルギリアと同じく、マリアージュ・ソルシエールによって作られた幻想の存在で、元になった人物こそいてもその人物と直接的な関係は無く、盤上世界……ひいては一なる真実に存在しません。
(3)は他のどの人物とも異なるので分類が難しいのですが、エリカの召喚魔法はベルンの駒として与えられた権限の一つであると考えると得心が行きます。
これらを踏まえて魔法使いと比較した時の魔女の違いは、以下のようなものが挙げられます。
・幻想世界でも魔法を使う事が出来る
・元々人間だった
前者はある意味当たり前ですが、後者は重要です。作中に登場する魔女の中には、出自が明かされていない人物もいるからです。
・ベルン・ラムダは元人間である
さて、ここからは若干蛇足です。
ベルンに関しては元の人間と思しき人物が他作品に登場しているので、語るまでもないでしょう。
しかしラムダに関しては話が異なります。ラムダの元になった元人間がいるとしたら、それは一体誰なのでしょうか。
・ラムダデルタの元になった人間って?
さて、ここからは「ひぐらしのなく頃に」の要素も含めて考察します。
ラムダはベルンと戦い、敗北したという経験があります。
よってベルン=梨花であり、梨花の敵である鷹野が長らくラムダの元になった人間ではないかと囁かれてきました。
しかしそこにひぐらし業・卒。
業・卒では梨花の新たな敵として沙都子が台頭してきました。よって沙都子こそがラムダの元になった人間ではないかという見方が主流になってきています。
……
本当にそうでしょうか。
ここで一度、ラムダの性格や人物描写について、今一度整理してみましょうか。
・意地悪で口が悪く、他人を馬鹿にした物言いをする
これは沙都子の性格と似通っています。ただし似ているのはひぐらし本編の沙都子ではなく、賽殺し編の沙都子です。
本編の沙都子は北条家というだけで村ぐるみのいじめを受けているため意地悪である事の悪辣さを知っており、叔父の機嫌を取るために口調も幼いなりに丁寧であろうとしています。
が、賽殺し編では村ぐるみのいじめが無いため本来学ぶはずだった道徳が育まれず、梨花をいじめる悪役として登場します(これに関しては梨花側にも非があるのですが)。
また「ひぐらし命 第二部昭和編」では、転校してきた一穂に排他的な対応をしたり困ったら兄を頼って逃げる等、お世辞にも良い性格とは言えない人物として強く描写されました。
さらに賽殺し編以外のひぐらし本編でも、過去には叔父が気に入らないあまり児童相談所に嘘の通報をしたり、祭具殿に忍び込んだりと、度を越した悪戯をするトラブルメイカーとされてきました。
この辺りから、本編の沙都子は後天的に他人を思いやる事が出来る人間に成長したが、真っ当に成長したら性格の悪い人物になる事が分かります。
よって沙都子の人物像は意地悪で口が悪く、他人を馬鹿にした物言いをするラムダデルタのそれと矛盾しません。
・ベルンに対し異常に執着する
元々ひぐらしでは沙都子にスポットが当たる機会が乏しく、沙都子が梨花に対してどのくらい友好的なのかがきちんと描かれていませんでした。もちろん二人が仲良しである事は知っていましたが、ベルンとラムダのような異常と言えるほどの執着を見せるほどかと問われると、首を傾げざるを得ませんでした。
しかしひぐらし業・卒でその疑問は払拭されます。業・卒における沙都子はベルン・ラムダと同様に梨花に対して異常な執着を見せるからです。
よってここも矛盾しません。
・友人が多い
……
…………
……………………
んん……?
突然全く嚙み合わなくなりましたね。
ラムダはEP8にて社交的でたくさんの友人がいるという事が明かされ、それがベルンに対する牽制になっていました。
では沙都子が社交的でたくさんの友人がいるかと言われると……全くそんな事はありません。沙都子のコミュニケーション能力は乏しく、ルチーアでも全く友人が出来ませんでした。
・"絶対"のために努力している人物を見ると肩入れしたくなる
これも沙都子と噛み合いません。
ラムダは意地悪な一方で正当な努力をしている人物に対して献身的で、EP8では死のリスクを追ってまで戦人・縁寿に肩入れし、その結果実際にフェザリーヌに殺されています。
では沙都子がそんな性格かと言うと全くそんな事はなく、鬼騙し編ではレナの頑張り物語を知った上でそれを利用し、祟騙し編に至ってはあろうことか自分自身を救済するために奔走した圭一の努力を嘲笑うように惨劇を演出してきました。これはラムダとは真逆の邪悪さです。
そもそも沙都子自身がルチーア進学後の勉強に対しての努力を絶対のものだと信じておらず、ベルンの行動原理と致命的に矛盾しています。
以上の事から、沙都子=ラムダ説は絶対にありえない事が分かるでしょう。一見「ひぐらし業・卒」は沙都子=ラムダ説を強化するための物語に見えますが、その実は全く反対で、沙都子=ラムダを否定する物語なのです。
では結局ラムダデルタの元になった人物とは誰なのか。
現状、ラムダのパーソナリティーに近いそれに人物はひぐらし・うみねこのどちらにも登場していません。
漫画版「ひぐらしのなく頃に巡」や「ひぐらしのなく頃に令」もしくは「ひぐらし命」辺りからいずれ登場する新キャラがそれにあたるのかもしれませんが……今のところは何とも言えませんね。
まとめ
あまり大した事は分かりませんでしたね。
とりあえず、
・魔女は幻想世界で魔法を使う事ができる
・魔女は元人間である
・ラムダの正体は沙都子ではない
というところでしょうか。
"魔女"に関してはうみねこ最大の謎の一つであり、おそらくなく頃にシリーズを跨いでの考察が必要になる事でしょう。場合によってはまだ発表されていない物語を考察材料にする必要もありそうで、前途は多難を極めます。
漫画「ひぐらし巡」「ひぐらし令」、スマホアプリ「ひぐらし命」および「キコニアのなく頃に」を追う事で、新たな材料が見つかるのでしょうか。
いずれにしても、その辺りのコンテンツは出来る限り楽しみたいところです。
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