漫画紹介「無頼伝 涯」
ジャンル:サスペンス、全5巻
「無頼伝 涯」は、2001年まで週刊少年マガジンに連載していた漫画で、作者は「カイジ」「アカギ」の福本伸行先生です。
福本先生といえばギャンブル漫画ですが、「涯」はギャンブルのギャの字もありません。かといって「最強伝説黒沢」のような人情物とは少し毛並みが違う、独特の物語です。
・あらすじ
資産家一家に嵌められ殺人の濡れ衣を着せられた中学生、涯は警察に掴まり、資産家一家の運営する施設刑務所「人間学園」に入所させられる。青少年の更生が目的と謳うその施設はしかし、常軌を逸した監獄で……
・魅力その1、孤独な人生観
主人公の涯は元々孤児で、親元でぬくぬくと暮らしていながらわがまま放題のクラスメイトを忌み嫌っています。ですが次第に、自分自身も養護施設に世話になる身、彼らの事を非難する資格は無いという事に気が付きます。
涯は誰の世話にもならない自立を「孤立」と呼び、自ら一人で生きるという事を望みます。
この思考回路は、子どもの頃に誰しも陥るものだと思います。他人の世話になりたくないという気持ちは大抵、申し訳なさや環境による束縛を嫌った結果の、家出という名の一時的なわがままです。人間、そう簡単に自立できるわけがないのですから。出来ない事をぼやくだけ、無駄というものです。
ですが涯はやり遂げます。中学生の身でありながら、どうあれ彼は孤立する事に成功しています。彼は中学生の憧れです。
そんな涯は、人間学園においても自分の意志というものを第一に行動します。どんなに苦しく不条理な状況でも、頑固なまでに意思を貫こうとします。長い物には巻かれよということわざなんて彼の辞書には無いとばかりに、大きな力に反抗し続けます。
その言動は、思春期の子どもの反抗期のようなものにも見えます。ですが紛れも無く他人に真似できない固い意志によって、彼は苦境と戦い続けます。その姿はキャラクターとして、非常に魅力的です。
・魅力その2、隔絶された狂った世界
涯が入所する「人間学園」は、犯罪を犯した青少年を人と思わぬ非人間的な扱いをする、非道な組織です。躾と称して電流棒を使用したり、何週間も裸のまま四つん這いの恰好を強要して人間としての尊厳を破壊しようとしたりと、その「狂気」はサスペンスものとして、非常に魅力的です。
学園側の狂気が増すごとに、物語は佳境に入ります。息をつくタイミングも無いようなドキドキハラハラの中、果敢に学園に立ち向かう涯がかっこいいです。
・魅力その3、涯の成長
人間学園での様々な出来事を通して、涯は少しずつ成長します。
何事にも頑なな涯は、第三者の目から見れば非常に視野が狭く、少年的だと言えましょう。子どものままに強くなった彼は、子どもさゆえに足を掬われ窮地に陥り、そして成長する事によって変わります。
この物語は、彼の成長物語と言ってもいいでしょう。
・総評
物語としては、非常に面白いです。ただ、一話ごとの話の展開がゆったりとしているので、当時追いかけていた読者には冗長に見えたかもしれません。それも、単行本で読めば気になりません。これはこれで、福本作品の傑作の一つと言えましょう。
私的好感度:75/100、オススメ度:81/100