感想「僕の心のヤバいやつ Karte49」
昨日、僕ヤバ最新話の更新日でした。
「ロロッロ!」の最新刊が出てしまった以上、桜井のりお先生の連載はこの「僕ヤバ」のみになりました。一本化した分、全力で読みましょう。
ちなみに僕ヤバの紹介は別の記事で行っています。
前回のお話の感想をおさらいのために載せておきます。
以下、最新話のネタバレ注意!
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……なんだこの回!?
なんて言えば良いんでしょう……極めて異色です。僕ヤバ史上最大の問題回なんじゃないでしょうか。話としては平常運転かつ最高のラブコメではあるのですが、一部異常な部分が気になってしょうがない回です。
Karte49.僕はモヤモヤする
・二日後
濃厚なクリスマスイブ回が終わり、作中で二日間が経過したようです。二日という短くない時間が経過してなお、山田とのデートを思い出して悶える市川……実に中学生って感じで初々しくて可愛いです。後からいろいろと悩む様が引っ込み思案な市川らしいですね。山田から借りた「君色オクターブ」をベッドの上で読みながら、というのがミソです。
しかし市川、あの日の事を思い出すにあたって「そもそもあの時間はなんだったんだ」というのは、これもまた市川らしいです。市川の鈍感さと自己否定観の強さは今までも語ってきたので、ここでは何も言いません。
さて、明日の支度をしようと起き上がった市川ですが……
・濁川くん登場
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いや、なんで?
漫画としての意図はなんとなく分かります。意味不明だという意味ではありません。ただただ展開の不条理さとシュールさに腹筋を破壊されました。
いくらイケメンでも、こんな状況で現れたら誰だって慄くというものです。
煽り文も面白いです。
「市川の部屋に現れた謎のイケメン…!!」
見れば分かる事をそのまま文字で説明しているだけなのに、なんでしょうこのシュールさは。珍しいような市川の表情も相まって、最高に笑いました。おそらくここ、僕ヤバ史上で一番笑った部分だと思います。さすがはギャグ漫画で10年以上連載してきたベテラン先生……ネタのレベルが高いです。ゴリゴリのラブコメなのにこんな爆弾仕掛けてくるからずるいです。この不意打ちは、爆笑必須です。
……と、ここでちょっと話をぶったぎりたいと思います。濁川くん登場地点の背後についてほんの少しだけ。
・賞状とトロフィーと謎フィギュア
市川の部屋の壁には賞状が、タンスの上にはトロフィーが、その隣の棚にはフィギュアが飾られています。いずれも現在の市川には不似合いなものではないでしょうか。
そもそも市川には、これまで目立った趣味や特技は出てきていません。山田と出会う以前から図書館に通っていた事から読書通である事、事あるごとに描写されているテスト結果から頭が良い事などが挙げられますが、いずれも賞状やトロフィーに繋がるとは考えにくい特長です。
何度か絵を描いているような描写があったのでその方面かと思いましたが、Twitterであった似顔絵を描く回での市川の絵の具合や原さんの絵に感心していた事から見ても、決して美術に秀でているとも思えません。
あとは「Karte4」にて「小説の構想がある」と言っていたくらいでしょうか。ですがそれもあくまで構想だけに過ぎず、実際に執筆をしている描写が全くない事を思うと、あまり有力な説とは言い難いところです。
そもそも市川に賞状やトロフィーを手にするだけの能力があるのなら、ああまで自己評価を低く見積もるようになるでしょうか。そこまでいくと人それぞれの感性になるのかもしれませんが、他人に認められない人生を送ってきたからこその現在の市川があると、わたしは感じていました。
ですが自室に表彰品がある以上、市川には何らかの方面で優れた才能があるという事でしょう。その才能はまだ作中で登場していないか、あるいは既に登場していてわたしが考慮に入れていないだけなのかは分かりませんが……いずれ何かの都合で物語に登場すると思うと楽しみです。
あとは……フィギュア。市川のイメージに合わないタイプのインテリアです。人体模型やアングラ系のグロフィギュアならともかく、コテコテの萌え系フィギュアを集めるタイプではないでしょう。秋田書店の見学をした回からして漫画に対しては一定以上の情熱を持ち合わせている市川ですが、そこに萌え系の何かを感じさせるものはありませんでした。
あ、でもLINEのアイコンはリゼロのレムでしたね。レムは可愛いので萌え系のフィギュアもあるでしょう。やっぱりよく考えるとそんなに違和感は無いかもしれません。結論で提起した問題を否定してしまいました。まあたまにはそんな事もありますよね。
寄り道終わり。本編の感想に戻ります。
・濁川くん=市川
イマジナリー京太郎というのはなかなかなパワーワードですね。
普通こういうのって、死別した相手や想い人が具現化されるものです。自分自身の虚像がこんなにはっきりと現れるのは珍しいです。
濁川くんの登場に、意外と市川は冷静です。「モヤモヤしすぎて別人格が…」と自分自身に呆れる市川はどうやら、わたしが思っていたよりもずっと想像力が豊かなようです。
さて濁川くん、もちろん出てきたという事は濁川くんなりの役割があります。それは市川に、イブでの山田とのデートを思い出させる事でした。
・エッチな場面じゃなく
うーん……これはエッチ!
山田の背中はともかく、手繋ぎや顎クイは市川裁量……っていうか濁川くん裁量だとエッチな場面に分類されますか。良くも悪くも純ですね。
そして市川、股間をもぞもぞします。エッチな事を想像したのちに濁川くんに消えるように促して、一体何をしようと言うのでしょうか。恋愛には鈍感でも、こういう場面は自分の欲望に素直な市川、良いと思います。
・試着室で言った事
あの時市川は、おねえに対して挨拶をしようとする山田に対して「今じゃない」と言いました。「恥ずかしいからやめろ」とかじゃなく「今じゃない」と、まるで将来的にはきちんと紹介するかのような言い方をした事を、市川自身も少なからず自覚していたようです。
で、ここでサムネの濁川くんのイケメン顔ですね。
「本当は感じてるんじゃないのか?」
「山田との可能性を」
前半部分だけだと実にエッチというか下ネタっぽいですが、後半は大事です。濁川くんは、市川が心の奥底で自覚していたある種の「期待」を表に出してきました。
こと言葉にされた以上、市川も憚りません。相手がイマジナリーフレンドであるためか、いつも以上に素直です。
「だってて…て…手をさ~~~…」
「そんなん…もう…アレじゃん…」
いや、乙女か!
こんな恋する乙女みたいな反応、あります? らしいと言えばこれ以上無いくらいにはらしいですけれど……
でもそんな思考にありながらも、市川には常に否定的な感情がつきまといます。
山田は普段から友達に対して距離が近い。だから自分に対する過剰なスキンシップも、その感覚に過ぎないのかもしれない。
と、市川はそんな事を考えました。
……
「ロロッロ!」第4巻15ページ4コマ目にて、金剛先輩。
連載が終わってもなお、金剛先輩がわたしの代わりに突っ込んで下さいました。ありがとうミシェル、フォーエバーミシェル。
はい、金剛先輩の言う通りです。
市川は勘違いしています。山田が友人と距離が近いのは、あくまで女友達だからに過ぎません。ナンパイ相手の立ち回りをはじめとするこれまでの山田の市川以外の男性に対する言動を見る限り、相手を選んでいるのは明らかです。事実、イブのデート回でも目の前の相手が市川と分からないうちの山田は終始冷たい目をしていましたし、市川相手でも初めのうちは冷淡でした。
山田がああまで過剰なスキンシップを取るのは、心を許した市川だけなのです。読者目線だとそれが明白なだけに、もどかしいですね。
でも市川としても、その懊悩にはケリをつけたいところ。たまらず濁川くんに意見を求めます。
相手が自分なのに意見を乞うというのは、なんだかちょっと笑えます。
・同調したら意味ないだろっ
濁川くんが市川の意見に肯定的な姿勢を見せると、このツッコミです。市川としては、濁川くんには自分と違う意見を述べて欲しかったのでしょう。それが別人格の役目ですし、市川のツッコミももっともです。
というか市川、イマジナリーフレンドたる濁川くんの言動を全くコントロール出来ていませんね。この人、本当にイマジナリーフレンドなんでしょうか。市川の精神状態がちょっと心配になります。僕の心の「ヤバイやつ」って、そういう……
・山田からの電話
速攻で飛びつく市川、卑しくて良いですね。
さて、ヒロインも登場です。電話越しとはいえ、姿がきちんと描かれるとやっぱりこれがラブコメだと実感しますね。行儀悪く胡坐を掻く山田に安心感を覚えます。
……というか濁川くん、まだいるんですね。
他人と話を始めても消えないイマジナリーフレンドとは、ますます市川の精神状態が心配です。濁川くん、存在感ありすぎでしょ。面白いです。
さて、二人の電話って実は初めてじゃないでしょうか。連絡先を手に入れた山田は、いつでも市川と話をする権利を手にしました。その結果夜中でのお話も可能になったという事です。お話の幅が広がって良い事です。
・マフラーの行方
前回山田に巻いてもらったマフラーは、やっぱり山田の物だったようです。素直に「ごめん」と口にする市川が珍しいです。いつもならもう少し気取った言い回しをするはずですが……やっぱり電話で緊張しているようです。
友達がいないと、電話する機会はあまりありませんからね。友達の多い山田と比べると、その辺りの緊張度合いは市川の方が随分上でしょう。市川のたどたどしい返答に、山田が笑みを浮かべます。そういう不器用な面も含めて市川の事が好きなのでしょう。砂糖吐きそうです。
・シンクロする二人
山田は本当に……本当にいろいろな事を思いつくものです。違う場所で、お互いの姿が見えない状況で、それでも尚相手を感じるためにシンクロニシティを演出するとは……恐れ入りました。先刻市川の想像力の高さに驚いたわたしですが、山田の想像力も相当なものです。
ポイントは二つ。
一つは本を捲る動作のシンクロの際に、山田が市川の手元の本について誤解した事。「えっちな……」とか言われたら、市川でなくとも動揺します。
っていうか市川、パッと手に取る本がさっきまで読んでいた「君オク」ではなく山田が映った雑誌だというのが最高です。なんだこの両想い……
もう一つは、山田が「ブラインド開けて」と口にした事。もちろんこれは窓の外を見るというシンクロのための言葉ですが、普通自室にある窓周りの遮光グッズといえば、ブラインドよりも先にカーテンを連想するものです。事実山田も初めは「カーテンを開けて」と言おうとします。
それを止めて「ブラインドを開けて」と言い直したのは、市川の自室にある遮光グッズがカーテンではなくブラインドだと思い出したからでしょう。
山田は一度、風邪を引いた市川の部屋を訪ねています。たった一度きりですが、それを覚えている山田。それだけその日の出来事が印象的だったという事の表れでしょう。素敵です。
でも市川はそんな事とは露知らず、ただ「こわ…」とだけ。何に対しての「こわ…」なのかは分かりませんが……少なくとも山田と感情をシェアしてはいないようです。やはり一筋縄ではいかない市川でした。
・なでなで
おまじないと称して、疑似的に市川の頭を撫でる山田。
想像力が高すぎる。
最高ですねえ、これは。しかもこれ、「君オク」の方(イマジナリーフレンドじゃない方)の濁川くんの言動を踏襲した行為というのがまた山田らしいです。
市川は終始分かっていなさそうな態度ですが……
・おやす
「モヤモヤの原因は山田なのに――……」
「山田の声を聞くといつの間にか忘れてしまう」
これ、もう告白でしょ!!
山田の意図を何一つ理解していない市川。市川からすれば全てが「よく分からない行為」に過ぎず、ともすれば退屈にも思えたはずの時間を、心から楽しんでいるという事です。
なんという青春でしょう。浄化されそうです。こんなラブコメを読んでいて、ばちが当たらないか心配なほどに尊いです。
で、濁川くんはいつまでいるんですかねえ……
さらっとベッドインされては困ります。これは純然なラブコメであって、BLじみた構図はやめて下さい。笑ってしまいます。
もう濁川くんこれ、具現化してるでしょ。夢でうなされる市川に無表情で添い寝をする濁川くんの明日は一体どっちなんでしょうか。
濁川くん、この回だけの登場になるには勿体ない良キャラでした。市川が一人になるたびに登場してほしいものです。
総評
今回、なんかギャグ色が強かったです。主に濁川くんのせいですが。でもわたしは好きです。
ラブコメ部分も、いつも以上に攻めの姿勢の山田に文字通り自分の心と向き合い始めた市川と、見どころ満載でした。
Karte.49の満足度:99/100