【集中講義Ⅳ】うみねこ:一なる真実はどれか
はじめに
今日も今日とてうみねこを語ります。
前回までの記事は以下のリンクをご参照ください。
さて、今回は「うみねこ」における数少ない現実世界……すなわち「一なる真実」を考察したいと思います。記事の性質上、全EPのネタバレ満載なのでご注意下さい。
・うみねこにおける真実とは
「うみねこのなく頃に」という物語は、メタ的な視点から多層的な構造となっています。
六軒島で不可思議な殺人事件が起こるゲーム盤の世界、戦人とベアトが推理バトルを繰り広げる幻想世界、18歳の縁寿が真実を追い求める1998年の世界などなど。EP6での決闘空間やEP7の葬儀会場、EP8でのベルンの出題等も含めると多層世界の構造は複雑を極めます。
しかし、真実はたった一つの世界のみに存在します。愛があろうがなかろうが、確実に存在する世界……それが一なる真実です。
では一なる真実は一体どこにあるのか。それを探してみましょう。
・EP1(Legend of the golden witch)の世界
EP1は幻想描写が一切無く、単層構造の世界です。
まず、言うまでもなくこの世界は幻想です。六軒島殺人の真相は漫画版EP8の一なる真実(現実世界)によって開示されているため、それ以外の展開は全てメッセージボトルに書かれた幻想という事になります。
とはいえ、そのメッセージボトルを書いたのは安田紗代ことヤスか八城幾子のどちらかです。この二人はそれぞれ、紗音と戦人の視点を持つ事が出来る人物で、この二人が描く世界……殊更事件と関係のない部分に関しては基本的に一なる真実と大きく差異はないと思ってよいでしょう。
例えば登場人物同士のや六軒島の地理・風土などは基本的に全てのメッセージボトルに共通する一なる真実と思ってよいでしょう。
ただし、一部の描写に関しては紗音・戦人の視線による無意識的な曲解が含まれる事も考慮しなければなりません。
例えば紗音の場合は恨みを持つ人間……主に夏妃に関する人間性の描写。EP7およびEP8にて紗音は思い込みが強い人物として描かれています。そんな彼女の所見が、ゲーム盤内の夏妃の人格に強い影響を与えていても不思議はありません。
実際、滅茶苦茶不遇ですしね。
・EP2(Turn of the golden witch)の世界
EP2からは、幻想世界が登場します。したがって盤上世界と幻想世界を分けて考えるべきでしょう。
盤上世界はEP1と同じく幻想。ただし冒頭の譲治と紗音、朱志香と嘉音のデート描写に関しては考察の余地があります。
紗音が譲治と水族館にデートに行った事、そして嘉音が朱志香の学校の文化祭を訪れた事。これらが幻想であるか否かというのは、EP2の世界が誰によって作られたかという一点で変わってきます。
EP2はメッセージボトルによって世間に流布されましたが……もしもそれがヤスが作った犯行計画書だった場合、デート描写は限りなく一なる真実に近しいと思います。
ヤスにとって、ここでのデート描写は事実としての思い出話の一つ。ここで幻想を語る意味は全くありませんから。
対してEP2が八城幾子の作った偽書の世界だった場合、話が違ってきます。
これが偽書の場合、それは犯行計画書ではなく読み物であり、したがって冒頭のデート描写は第二の晩における演出として挿入された完全な創作であるという事になるからです。
幾子はこのデートの存在を知りえません。ヤスが戦人に語った自白はあくまで六軒島殺人事件に関する事のみで、譲治や朱志香とのデートの事まで語る余裕は無かったでしょうから。
それでなくとも元々ヤスはかなり惚れっぽい性格で、好きになった相手からの印象をかなり気にする性質なので、好きな相手である戦人に対して他人とのデートの事を事細かに話すとは到底思えませんし。
よって二組のデートが一なる真実であったか否かというのは、メッセージボトルの出どころ次第という事です。
これに関してはまた別の機会で考察していきますので、今回はオミット。
次に幻想世界ですが、文字通り全て幻想です。
幻想世界は愛がなければ視えませんので、一なる真実とは言えません。よって今後、幻想世界は全て無視する方向で話を進めます。非常に愛がない考察ですが、それこそが一なる真実を追い求める姿勢なのでやむを得ない事です。
・EP3(Banquet of the golden witch)の世界
盤上世界も幻想世界も幻想です。
ただし、以下に二つの例外を挙げます。
・楼座の昔話について
楼座の昔話に関しては、EP7にて裏付けが取れていますので、これは一なる真実です。楼座は幼い頃にヤスの母親である先代ベアトリーチェと出会い、その際に先代ベアトリーチェは死亡しました。
後述しますが、EP7で語られた楼座の話は一なる真実として成立します。
・1998年の描写について
EP3では、縁寿が年老いた絵羽と話をして、ベルンカステルに拐かされてビルを飛び降りるシーンまで描かれます。
ベルンが登場している時点で全て幻想……と言いたいところですが、そうではありません。
まず、この描写はメッセージボトルには書かれていません。
当然ですよね。ヤスの犯行計画書にしろ幾子の偽書にしろ、出会ってすらいない縁寿の現状を書けるわけがありませんから。
したがって完全な幻想とは言い切れません。ベルンが登場する前までは一なる真実と相違ない可能性が十分にあります。
実際、EP8ラストはここに繋がるわけですし。
したがってここは、ベルン登場までは一なる真実として成立すると考えます。
・EP4(Alliance of the golden witch)の世界
例によって盤上世界も幻想世界も幻想です。
今回は1998年から参戦した縁寿が盤上にいますが、この縁寿は一なる真実から乖離した、記憶と人格だけの駒縁寿です。
ただしEP4はゲーム盤外の描写として、縁寿が元居た1998年の話もあります。こちらの場合は場面によって幻想か一なる真実かで異なるでしょう。
・学園内の描写
EP3の1998年描写と同じく、基本的に縁寿がビルの屋上から飛び降りるまでの回想は一なる真実として考えて良いでしょう。
ただし、日記帳を開いている間に縁寿が見た真里亞は幻想です。愛があるから視えた幻想世界の真里亞の姿ですが、もちろん一なる真実としては成立しません。こんな事にツッコミを入れるのは無粋にもほどがあるかもしれませんが。
・真里亞の過去
うみねこ屈指のトラウマシーン、真里亞の過去は全て幻想です。
……
と言いたいところですが、残念ながらそうではありません。
真里亞の過去が語られるシーンはいずれも縁寿が学園にいた頃……つまり一なる真実と地続きの場面です。であれば、これも一なる真実と言えるでしょう。
ただし現実は楼座がさくたろうを殺したところまででしょう。マリア卿が楼座を殺すシーンは幻想で、これを機に真里亞の心情が大きく変化した事の暗喩だと思います。
・大月教授による真里亞の日記帳の筆跡鑑定
これは縁寿がビルから飛び降りた後の事なので、幻想描写です。
一なる真実における縁寿はEP8ラストで真実を追い求めるのをやめています。よって縁寿が調査のために動いている部分は全て幻想となります。
・EP5(End of the golden witch)の世界
EP5は盤上世界と幻想世界のみで、盤上世界は六軒島の描写しかないので、全て幻想です。
・EP6(Dawn of the golden witch)の世界
六軒島外の描写については考察の余地があるので、以下に挙げます。
・縁寿が八条先生を訪ねる場面
一なる真実において、数十年後の縁寿は当時を思い返し、八条先生とは会えなかったと名言しています。
したがってこの場面は幻想です。
また、盤上世界の中の事ですが、特筆すべき点があるのでそれも挙げます。
・嘉音の恋心について
盤上世界は一貫して幻想ですが、事件の内容以外の人間関係は全て一なる真実に近しいものとして描写されているはず……というのはEP1の考察で既に語ったと思います。
が、ある一点に関してのみ、事件と関係のない部分であるにも拘わらず、全てのEPで微妙に異なる描写がなされています。それが嘉音の恋心です。
当初、EP1時点では嘉音が朱志香に向けて特別な感情を抱いてはいませんでした。しかしEP2で少しだけ意識が変わり、恋心を抱くという段階には至っていないにしろ、朱志香を意識し始めます。
そしてEP6でついに、明確な恋心を抱く事になります。
では一なる真実においては一体、嘉音の恋心はどういう扱いになっているのでしょうか。
結論を言うと、嘉音は朱志香に恋心を抱いています。漫画版EP8にて、朱志香から向けられた好意を嬉しく思うヤスの心情が語られたのがその証拠と言えましょう。
EPごとにその扱いが異なるのは、メッセージボトルの製作者によって二通りの考え方ができます。
ヤスの犯行計画書の場合、おそらく執筆時期の違いが嘉音の恋心の違いになるでしょう。EP1とEP2で嘉音の朱志香に対する思いが違うのは、タイムリーなヤスの心情を表しているのだとすれば得心がいくというものです。
幾子の偽書の場合は少し扱いが異なります。何せ全てが終わった後に書かれた文書であるため、当人の気持ちの変遷などありませんから。
なのでこの場合、完全に創作物としての物語の都合を優先しているという程度でしょう。殊更嘉音から朱志香に向けての想いが描写されるEP2やEP6は、恋心自体がテーマとなっている回であるため、単にその傾向が強まっているだけと読み取れます。
・EP7(Requiem of the golden witch)の世界
これまでのEPと違い、ベルンカステルが構築した世界です。よってかなり状況が異なりますので、一つずつ追って行きましょう。
・楼座の告白
EP3で話したのと同様の内容です。これが一なる真実か否かという事ですが……
まず、EP7の世界はベルンが盤上世界の答え合わせのために作った世界であり、様々な要素が複合された特殊な世界です。
ではその様々な要素とは、一体どこから拾ってきたのでしょう。
それは紛れもなく一なる真実からです。
EP7のお茶会にて、ベルンは縁寿にとあるゲーム盤を観劇させます。漫画版EP8にて、それがまさしく一なる真実での出来事である事が判明します。
すなわちベルンは一なる真実を知る事が出来るという事が言えるわけです。
そのベルンが盤上世界の答え合わせのためにできるだけの手がかりを拾ってくるとすれば、当然情報の信憑性が高い一なる真実から拾ってくるはず。
つまりEP7での情報は全て一なる真実に基づいていると言えます。
よって楼座の告白もまた、同様に一なる真実です。
・初代ベアトリーチェについて
初代ベアトリーチェと金蔵との馴れ初め話もまた、楼座の告白と同様に一なる真実です。
・クレルの告白
こちらもまた、一なる真実です。
ただし当然、ガァプが登場するシーンや魔法を使っているシーン等は幻想です。話そのものは真実ですが、そこにヤスの主観が混じっているという点では、厳密には一なる真実とは言えないかもしれません。
・ゲームマスターのいない盤上世界
縁寿と理恩が劇場で見た世界です。
……
ここに至るまで何度も引き合いに出しているのでかなり前後しますが、漫画版EP8の描写から、これこそが六軒島殺人事件の一なる真実だとされています。
・EP8(Twilight of the golden witch)の世界
最後の世界も当然幻想です。
したがってハロウィンパーティーで語られる新事実に関しても、一なる真実とは呼べない疑わしい内容です。
すなわち、戦人が霧江の子であるという事。
もっとも、これはEP4にて判明した戦人が明日夢の子ではないという赤き真実を最も合理的に解釈した結果であるため、それほど的外れな話ではないとは思いますが。
・数十年後の未来
ここから先は全て一なる真実です。
まとめ
一なる真実を時系列順に並べるとこんな感じになります。
・初代ベアトリーチェと金蔵の出会い
・二代目ベアトリーチェと楼座の出会い
・クレルの告白から読み取れるヤスの半生
・嘉音の朱志香への恋心の自覚
・真里亞の日記帳に記されたネグレクトの日々
・譲治と紗音のデート(EP2の製作者がヤスだった場合のみ)
・朱志香と嘉音とデート(同上)
・六軒島殺人事件(EP7で語られた留弗夫・霧江犯人説)
・1998年の縁寿(学園生活~ビルを飛び降りるまでに限定)
・1998年以降の縁寿(EP8限定)
……並べてみると結構な数ですが、「うみねこ」自体の膨大なテキスト量を思うと少なすぎるくらいですね。
ですが実際のところ、"一なる真実"という概念があるだけまだ断定がしやすい方なのでしょう。
メタ要素において多層的な世界であるうみねこは究極、"「うみねこのなく頃に」という作品はフィクションなのだから全て幻想"などという締め方だってできるわけですし。
しかしそこまで愛を失ったらそれまででしょう。
愛がなければ視えないうみねこ考察、こんなところで締めましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?