DJ配信イベント“The Naya”を支える照明技術②200m超のLEDテープをどうやって設計・施工するのか?(part2/3)
この記事ではDJ配信イベント「The Naya」で使用した照明技術について紹介します。
前回の記事はこちらをご覧ください。
DJ配信イベント“The Naya”を支える照明技術①あの日あの時あの場所で何が起きていたのか?(part1/3)
The NayaのLED照明解説(論理設計)
前回の記事で、The NayaのLED照明演出の概念設計ともいえる諸元をお伝えしました。今回は、具体的にどうやって設計し、実装しているのか、より深く掘り下げて説明していきたいと思います。
まず、前回までのおさらいをしていきましょう。
MADRIXからLEDテープを制御するわけなんですが、PCから直接無線でLEDテープが操作できるといったハイテクな仕組みではなく、比較的ローテクな、物理層に近いところまで考えて仕組みを組み上げる必要があります。
MADRIXからLEDテープの制御フローは以下のとおりです。
信号の流れは左から右です。まず、前提として、LEDテープを光らせるためには、SPIというシリアル信号が必要です。ただ、MADRIXはSPI信号を直接出力しません。照明機器の調光規格であるDMX信号をくるんで、ネットワーク上で扱うArt-Netフレーム(DMX over Ethernet)を出力し、最終的にSPI信号に変換してLEDテープを光らせます。
まとめると、LEDテープは、MADRIX->[Art-Net]->ArtNet/DMXデコーダ->[DMX]->DMX/SPIデコーダ->[SPI]->LEDテープ、というカラクリで動作します。ハッキリ言って超回りくどい。生産性が低い仕組みだなあ、というのが正直な感想です。
PARライトは、MADRIX->[DMX]->PARライト というシンプルなカラクリで動作します。元々、この使い方を想定して規格が作られているので、当然と言えば当然ですが…
The NayaのLED照明解説(物理設計)
現場の配線はこうなってます。
各アイテムは以下のとおり接続されています。
【LEDテープ】
・200メートル超のLEDテープを、納屋に格子状に貼り付けます
・LEDテープをコントロールするDMX-SPIデコーダにつなぎます
・DMX-SPIデコーダーをArtNet-DMXノードにつなぎます
・ArtNet-DMXノードを、照明制御ソフトのMADRIX-PCにUTPでつなぎます
【PARライト】
・PARライトは、ArtNet経由ではなく、DMXで直接制御します
・10発のPARライトを設置します
・PAR間をDMXケーブルでデイジーチェーン接続します
・1発目のPARを、MADRIX-PCにUSB-DMXケーブルで接続します
今回、DMXケーブルはUTPを改造して作るのですが、一本一本丹精込めてRJ45を圧着し、皮膜を剥き、より対線をほどき、フェルールで圧着し、30本を超えるDMXケーブルを紡ぎました。さながら、現代の富岡製糸場です。
構築ならまだしも、現場の保守を考えるとハゲ散らかりそうです。頼むからTCP/IPで完結していただきたい。そしてSNMPとかで機器の状態を監視して予防交換とかできるようにしてほしいというのが、クラウドネイティブ世代の率直な感覚ではないでしょうか。
The NayaのLED信号ざっくり解説
次に、DMX信号やSPI信号が具体的にどんな感じなのかを掘り下げて解説します。
まず初めに、照明機器の調光規格であるDMX信号が出発地点になります。DMX信号は、照明機材などを512chまで制御することができます。The Nayaで使用したPARライトはクラシックなDMX信号の使い方をしています。MADRIX->[DMX]->PARライト です。
1つのDMX信号で512chまで制御できる、というところがこの後の説明のキーになるので覚えておいてください。この512chを1ユニバースといいます。
PARライトは、DMXケーブルをデイジーチェーンで接続して使います。
The Nayaで使用したPARライトは、1台でストロボ/赤/緑/青/白の5chを使用します。1chは2^8の値、つまり256段階で各色調を調整することができます。赤/緑/青の3chで、お馴染みの24ビットカラー表現すると共に、ストロボと白発光を備え、表現の幅を広げています。
つまり、1つのDMX信号で、512ch/5chの102台が制御できることになります。このあたりはMADRIXのDMXモニタリングツールを見るとイメージが付きやすいと思いますので、貼っておきます。
MADRIX側の画面が赤LED全点灯なので、5の倍数+2のチャンネルがすべて255になっていることが確認できました。(例示した灯体は10個なので50chまで)
PARライトはカラクリが簡単なので、理解ができたことと思います。次にLEDテープについて解説します。LEDテープを光らせるカラクリは複雑で、
MADRIX->[Art-Net]->ArtNet/DMXデコーダ->[DMX]->DMX/SPIデコーダ->[SPI]->LEDテープ です。
繰り返しになりますが、LEDテープは、PARライトと違って、DMX信号を受け取ることができません。SPI信号で制御する必要があります。そこで登場するのが、DMX信号をSPI信号に変換してくれるDMX-SPIデコーダーです。
こんなナリしてます。左側がDMX-IN、右側がSPI-OUTになります。
MADRIXからDMX信号を飛ばして、DMX-SPIデコーダーを経由し、LEDテープを光らせるところまでイメージできたでしょうか。ここまで来ればあと一歩です。
DMX-SPIデコーダーでDMX信号をSPI信号に変換するので、今回はLEDテープの制御仕様もDMX信号と同等に考えます。つまり、LEDテープで発光するLEDの1粒は、PARライト1台と等しいということです。すなわち、LED1粒が消費するチャンネル数とLEDの粒の数だけ、制御するチャンネル数が必要になります。
そして、このDMX-SPIデコーダー、1台でDMX信号を512ch分しか受け付けてくれません。この512chを1単位として、1ユニバースといいます。これは、今回使用したDMX-SPIデコーダーがしょぼいとかいうわけではなく、仕様上の問題です。
今回使用するLEDテープは、3粒で1つの灯体として動作するものをチョイスしていますが、それでも8メートル/1ユニバース程度しかカバーできません。
さあ、ここで思い出してください。今回我々が納屋に張り巡らせたLEDテープの総延長は、200mを超える、ということを…
はい。お察しのとおり、29個のSPI-DMXコントローラーとパワーサプライが必要になります。
つまり、29ユニバースのDMX信号を制御する必要があります。図で表すとこうなります。
設計上は27ユニバースでやっていましたが、2ユニバースおかわりして29ユニバースになりました。本当にありがとうございました。
200mを超えるLEDテープの施工へ
そして、いざ会場での施工を迎えます。ここまで触れていませんでしたが、LEDテープを張り巡らせるため、塩ビパイプを使っています。ので、必然的に塩ビパイプの長さも200mを超えており、切った貼ったを繰り返します。
そうして頑張って張り巡らせた塩ビパイプに、ようやくLEDテープを巻きつけて、結束バンドでもりもり固定していくのでした。当然、その先にはDMX-SPIデコーダーと電源のパワーサプライが待ち構えています。
一連の施工はダイヤモンドサービス様の御助力により、驚異的なスピードで完了することができました。
施工だけで無限にリソースを消費しているように見えるThe Nayaプロジェクトですが、事の本質はDJが映える、カッコいいLED照明演出を追求することにあります。施工するだけ終わってしまうのでは?関係者は本番前に3徹でもしたのか?パイクサイスの運命やいかに?!