暮らしの手帳 花森安治
昨日の投稿の
マルク・シャガール展の併設展示に
『暮しの手帖』の原画展がありました。
わたしはシングルマザーの家庭に育ち
小学校の頃から主婦のようなことをしていました。
そのせいかどうかはわかりませんが
十代の頃の愛読書は
暮しの手帖誌の人気エッセイを集めた
『素敵なあなたに』という本でした。
短いエッセイがたくさん収められてあり
1ページごとに
花森安治さんの美しいカットが添えられていて
絵も文章も、若いわたしの心に深く印象付けられた本でした。
その時美しいと思った花森安治さんの原画は
印刷物にはない精密なペンの滲みと
微に入り際に渡り
「この線しかないんだ」と伝わってくる完璧な色気に感動しました。
『暮しの手帖』は家庭的な雑誌なので
カットは、家具やお惣菜、子どもの絵が多く
所帯じみてしまいそうなところを
上品な、どことなくヨーロッパの暮らしを想像させるような
お洒落な絵がいっぱいありました。
おそらく花森安治さんは、ご自身もセンスの良い暮らしをしていらして
ひとが憧れるような生活をしていたのかもしれません。
生活の風景の、どこを切り取るかという部分が
なんとも潔いかただなぁと思います。
暮らしの手帖の
『素敵なあなたに』というエッセイ集の中には
いくつか忘れられないお話があるのですが
その中のひとつに
「ひとを誘う時には、まず用件を伝えなさい」
というものがありました。
どなたかにお誘いの声をかける時に
「ねぇ、3月の○日の午後って、空いてる?」
と聞いてはいけません。という内容でした。
当時、中学生のわたしには意味がよくわからなかったのですが
要するに
「原宿のカフェに行こうと思ってるんだけど、一緒に行かない?」
「今週公開になる映画を観に行こうと思うんだけど、一緒にどう?」
という風に
先に用件を伝えましょう、ということなのです。
そうすれば、相手のかたは
内容が自分の気持ちにフィットしているか否かをまず考える時間を持てる。話の最後に
「何日なんだけれど、空いてる?」
と日時を伝えれば
「残念、その日は空いてないわ」
というスマートなお断りができる。
これが逆になってしまうと
「その映画には、あんまり興味がないから行かないわ」
「あら、どうして?」
という話になる。
それを糸口に話が広がるかもしれませんので
別に、こうしてはいけないということではないのですが
やっぱり
花森安治さんの『暮しの手帖』の世界観には
上品でスマートな
相手への配慮というか
マナーがある、ということは感じられました。
マナーって
ルールやマニュアルが意味を持たない上に
状況によって変化するので
とても難しいですね。
わたしは、少し無神経なところがあるので
空気を読めない瞬間があります。
これをきっかけに
もう一度『素敵なあなたに』を読み返して
心をあらたにしようかな。
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