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こどもの描いてくれる似顔絵は

職場に、小学校4年生くらいの女の子が遊びに来る。

学校の帰りだったり
習い事の帰りだったりするのだが
どういうわけか、長話をして帰っていく。

わたしが子どもの頃は、ひたすら早く家に帰りたかった。
おやつも食べたかったし
お気に入りの本も読みたかったし。

ちょっと恥ずかしがり屋だった自分の基準で見てしまうと
知らない大人がいっぱいの場所に寄り道をして
おしゃべりをしてから帰る彼女は
理解しがたいとても不思議な存在なのだが
これも性質。
大人になってもそういう性質の人、いるよね!

以前の職場にも
「会社帰りに決まった飲み屋に寄らないと帰れない」
と言っている美女がいた。

「のれんをくぐるとね、大将が、おかえり!って言ってくれるのよ」
「へー!」
「そこで軽く飲んで夕飯食べて帰るの」
「ほー!」

当時彼女とわたしは中間管理職で
悩みや苦しみを分かち合い
幸せや笑いを見つけて同じ目標に向かって働いていた。
毎日スーツで会社に通って気の張る仕事を繰り返していた。

早く家に帰ってスーツもヒールのある靴も脱いで
「好きなものを食べながらノンビリしたい!」派の わたしにとっては
わざわざ飲み屋に寄るなどという発想はなく
まるっきり理解しがたいものがあった。
彼女はその寄り道生活を既に10年以上続けており
自己紹介の際には
「一人暮らしのマンションの冷蔵庫にはビールしか入っていない」
「換気扇は回したこともない」
と、飲み屋生活について語り、締めくくっていた。

彼女はとてもモテるひとだった。
ストレートのロングヘアに癒し系の顔立ちで
淡いピンクのシャネルスーツ風のファッションが似合うキャリアウーマン。
お酒は底なしに飲める。
そのくせ「顔色一つ変えずに飲む」のではなく
「頬がほんのりピンク色になったまま最後まで」という
とても可愛い呑み助で、ワインにも詳しかった。

プライベートでは、時々まるでゲイバーのママのような毒舌になり
飲み会の席などでは
メニュー表を見ながらキャッキャ笑って選びきれない女子達に
「てめぇ、注文すんなら早く言えよ!お店の人待ってんだからよ!」
などと急に大声で指図するものだから
綺麗な見た目と発言のギャップには
お店の人達は皆 度肝を抜かれていた。

きっと飲み屋の大将も、おかみさんも
そんな彼女の陰の部分を理解して
毎晩、美人の娘が決まったことのように暖簾をくぐって
カウンターに座るのを、大切に見守っていたのかもしれない。

ひとりで飲み屋の椅子に座るときの彼女の顔は
きっと、誰にも見せていない顔のような気がする。


話がすっかり脱線してしまった。

職場に来る小学生の女の子は
時々、似顔絵を描いてくれる。
絵を描くのが好きで、とても上手。

「ありがとうね」

受け取った似顔絵に描かれたわたしは
いつも12才くらいに見える。

ポーズや表情は
ひとの特徴を捉えて描いているので
「ああ、わたしってこんな風に見えてるんだな」と嬉しくなる。

年齢を重ねた女性にとって
これは嬉しいプレゼントである。

家に鏡もあることだし
現実を知らない女性などいないのだから
せめて絵には夢を描いてほしい。
この小さな女の子は、わたしの心を知ってか知らずか
けして顔に皺を描き足したりはしないのである。


しかし、子どもというのは正直なもので
この小さな画家さんも
ひとの特徴に関しては妥協を許さない。

わたしの髪の毛が
俳優の大泉洋さんばりの
どうしようもない「くせ毛」なのは、ハッキリした「特徴」として
けして見過ごしたりはしなかった。

顔の皺も
痩せた身体も
上手に修正してくれたのに!!!

髪の毛だけは
モジャモジャ。

しかも
描くのにペンの滑りが悪かったのか
丁寧になんども、モジャモジャさせてあった。

ちょっぴり せつなかったが
その絵は
大切に、職場のレターケースに入れてある。


彼女が寄り道してくれるのも
似顔絵を描いてくれるのも
長くてあと数年のことかもしれない。


来週も来るかしら?



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