わすれない

先日、職場の男性が亡くなった。

体調を崩して自宅療養中に連絡が取れなくなり
本社の社員と警察消防で家を見に行ったところ
一人暮らしの自宅で亡くなられていた。

わたしは出勤日だったので
本社のかたがご自宅に行き
警察と消防を呼ぶというところから
連絡が来るたびに心配したり祈ったり
気を揉んでいたのだが
訃報を聞いた時には
全身の筋肉に力が入らなくなり
胃が痛くなり身体をくの字にして壁にもたれかかってしまった。

職場のスタッフに伝えられた悲しいニュースは
それぞれのこころに影を落とした。

わたしは、心がズタズタに傷ついたような感覚だったので
数日間は消化の良いものを食べ、睡眠をたっぷりとって
回復に努めた。
未だに傷は癒えていないが
これはもう時間という薬に頼るしかない。
それでも彼を忘れることは無いと思う。

わたしが自転車置き場にいると脅かしたり
毒舌だったり
時に度が過ぎていることもあったが
子どものようなひとだった。

『おじさまと猫』という漫画を2冊、職場に持って来てくれたので
読んでみたらとても面白くて
「続きが読みたい」と言ったら
今発行している全巻を職場の控室に並べてくれた。
猫と子どもが好きなひとだった。

特に「猫は多頭飼いしたい」と話していたが
一人暮らしで仕事をしているため
なかなか実現しなかった。

体調に変化があってからは
以前よりも人との間に距離を作るような雰囲気もあり
ついに会うこともないままのお別れとなってしまった。

お葬式の日は
天気予報では1日「晴れ」の予想だったが
昼間、雨雲が流れてきて短く雨が降った。
彼は雨男だった。
きっと、出立されたのだなと思った。



ひとは亡くなるとどこに行くのだろうか。

子どもの頃や若い時分には
死後の世界が恐ろしく冷たいものに感じられ
永遠の別れは受け入れがたいものであった。

年齢を重ね
友を見送り
「自分自身も不死ではない」という事実を心に持っている今は
死というものは
急に途切れてしまうビデオテープのようなものではなく
すぐ隣に在る国にそっと足を踏み入れるような
一続きの世界のような気もする。

それでもなお
大好きなひとたちと
もっと想い出を作りたい
喜びや悲しみを共有したいという気持ちから
なるべく長生きしたいと願っている。

職場の先輩が「お墓参りに行きたい」と言った時
「ご家族に断られるかもしれないよ」という意見もあった。

ご家族の判断は様々だと思うが
大切な家族のことを、忘れずにいるひとが職場にいるということは
ほんの少しでも心の慰めになるかもしれない。

わたしもお墓が遠方でなければ
花を手向けに行こうと思う。
短いお付き合いではあったが、感謝の気持ちを抱いて。


心からご冥福をお祈りしています。

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